2019年、“チャラ男キャラなのにどっちもいいやつ”で大ブレイク中のお笑いコンビ・EXIT。

新R25では以前、ボケの兼近さんにインタビュー。「お酒を飲まない」心境を語ってくださり、大きく話題化しました。

一方、ツッコミのりんたろー。さんは、「チャラ男キャラなのに8年間介護のバイトをしていた」ことが注目されています。

介護ってしんどいイメージがあるし、それこそモテそうなチャラいバイトなんてたくさんあるのに…。りんたろー。さんはどうして介護の世界に飛び込み、また、どうして8年間も続けることができたのでしょうか。

改めて思いの丈を聞いたところ、熱くやさしい素顔を見せてくれました。

〈聞き手=サノトモキ〉


【りんたろー。】1986年生まれ。チャラ男が漫才を展開するお笑いコンビEXITのツッコミ担当。「一見チャラ男だが本当はいい人」と大ブレイク中の、お笑い第七世代を代表する芸人の一人。ブレイク以前、お笑いの道を志しながら8年間老人ホームで介護アルバイトを続けていた

R25世代へのメッセージ「すべての人にとって“介護が自分ごと”化する時代がもうすぐ来る」

サノ:
りんたろー。さんは介護のアルバイトを8年もやってたんですよね?

何かと「しんどい」と言われがちな仕事ですけど…つらくはなかったんですか?

りんたろー。さん:
うーん、俺には“与えられたことをやるだけ”の居酒屋とかパチンコ屋のバイトのほうがよっぽどしんどかったですね(笑)。

サノ:
介護のつらさとして、よく…その…「下のお世話」とかが挙げられるじゃないですか…?

りんたろー。さん:
あ〜、それは全然抵抗なかったッスね。

慢性鼻炎だったんで


そういう問題でもない気がする

サノ:
じゃあ、「介護はみんなが思ってるほどつらくないぞ」っていうことなんですかね?

りんたろー。さん:
そういうわけではないです!

俺のツイッターアカウントには、介護に悩む人たちからたくさんリプライが送られてくるんですよ。




介護職の人、家族の介護に悩む人からのリプに返信するりんたろー。さん

りんたろー。さん:
ハッキリ言って、みなさん、ストレスを溜め込んでパンク寸前の状態になってます

サノ:
りんたろー。さん、一つひとつのリプに本当に丁寧に返信されてますね。

りんたろー。さん:
介護の課題って、国単位で動いてもらわなきゃどうにもならない部分がたくさんあるんで、俺にできることなんて何もない。

それでも、今頑張ってる一人ひとりが明日も頑張れるように、せめていただいた悩みには応えたくて、リプだけもするようにしてます。

サノ:
泣かせるチャラ男だな、チクショー…

りんたろー。さん:
ただ、どうしてもすべての方にはお返事できないし、俺が考えていることを伝えるのも難しい。

だから、今介護に悩んでいる人や、“今はピンとこない”けど将来関係するであろうR25世代の人たちに、この記事を通してメッセージを送れたらと思って…それでこの取材を引き受けたんです。


そういう理由で…

りんたろー。さん:
もうすぐすべての人にとって介護が自分ごとになる時代が来ると思うけど、そのときに“親を嫌い”にならないように、とくに若い人に向けて、俺の経験から言えることがあるなと思って。

「介護業界はみんないい人」なんてウソ。“ダメ人間”でいい。

サノ:
早くもいい人さがあふれまくってますね…

介護業界の方は、やっぱりりんたろー。さんみたいにいい人が多いんですかね?

りんたろー。さん:
え? 全然そんなことないッスよ!

介護業界、ふつうにダメ人間多いですもん!


えええええええ

サノ:
そんなめちゃくちゃバッシングされそうなことを…!! い、今すぐ撤回してください!

りんたろー。さん:
あっはっはっはっは! すいません、ダメは言いすぎか(笑)。

いやでも、ホントそうなんですよ。「介護」って、とくに若い人から見ると、仕事内容的に「すごいエライ」とか言われがちなんですけど…

サノ:
違うんですか?

りんたろー。さん:
そりゃそうでしょう。

俺だって、介護をやってたことで「いい人」とか褒められてますけどね…

正直言って、俺が8年も介護を楽しく続けられたのは、 “介護に100%向き合わなかった”からなんですよ。



サノ:
どういうことですか?

りんたろー。さん:
俺には相方がいて、お笑いで売れるという夢があった。

自分としてはお笑い70%、介護30%くらいの感覚で介護に向き合ってたんですよ。

「失礼だ!」って思う人もいるかもしれないけど、俺が8年間パンクせずにいられたのは、絶対「100%で向き合わずに済んだおかげ」なんです。



りんたろー。さん:
誤解を恐れずに言いますけど、介護に向いてるのって「抜くとこ抜ける人」だと思うんです。

「いい人」どころか、全部完璧にやろうとせず、力抜けるとこでは力抜く「ちょっとダメなやつ」のほうが向いてる

サノ:
ダメなやつでいいんだ!?

りんたろー。さん:
介護って命にもかかわる仕事だし、病気を抱えた人を相手にすることもあるから、「いい人」ほど、「支えてあげないとダメだ」って、100%で向き合っちゃうんです。

とくに家族介護の場合、本当に365日つきっきりで面倒を見ようとしちゃう。

サノ:
僕マジメなので、将来介護をすることがあったら、そう思っちゃいそうです…

それはなぜよくないんでしょうか?


「介護する相手が親だとしたら…」

りんたろー。さん:
100%向き合うと、絶対親のことを嫌いになっちゃうからです。親が、「自分の時間や夢を奪う存在」になってしまうから。

大切な友達も、大切な彼女もいるでしょ。なのに親のために100%時間使わなくちゃいけないってなったら、「いい人」は折れちゃいますよ!

サノ:
ああ…!

りんたろー。さん:
大好きな人を嫌いになってしまうかもしれないって、すごく怖いことですよね

愛があるからこそ、1人で抱え込まない勇気をもってほしい。

自分で100%向き合わないで、“いい意味でダメ人間”になろうとするくらいのほうが、最悪の状態にはならずに済むと思うんですよ。

サノ:
ダメ人間であれ…

りんたろー。さんはてっきり、「この人の人生の支えになってあげなきゃ!」みたいな良心が原動力だったのかと…

りんたろー。さん:
そんなこと思ったことないですね。なれるわけないんで


断言だ

コミュニケーションは普段と変えない。ツッコんだっていい

りんたろー。さん:
さっきも言ったように、「介護=聖人君子」じゃなくていいんです。

俺はもう、おじいちゃんおばあちゃんにツッコんだりしてましたもん

サノ:
ツッコむ!?

りんたろー。さん:
「いやそれさっきも言っただろ!」「さっき飯食ってたやん!」って。

もちろん相手のキャラクター次第ですけど、変に腫れ物に触るように扱うと、お互い息苦しくてつらくなるから、そこはある意味力を抜いて、フラットに付き合うことで楽しく過ごさせてもらってました。

サノ:
ああ〜、以前、レクリエーション介護士をやっているレギュラーのお二人に取材したときも、「面白いことがあったら、イジったり笑ったりすることは悪ではない」っておっしゃってたな…

りんたろー。さん:
「丁重に扱わなければいけない」と考える事ももちろん大事なんですけど、過度にコミュニケーションを変えると、それはそれで「やさしさ」の皮をかぶった差別とも言えますからね。

ちょっとくらい力を抜けたほうが、相手にもやさしくなれたりするんです。理不尽なことを言われても、「はいはい、そんなこと言わないの!」って受け流せるんで。



難しいことだけど、ストレスの出口を見つけてほしい

りんたろー。さん:
そういえば、俺らのコンビ名、「EXIT」っていうんですけど…

サノ:
? もちろん知ってます。

りんたろー。さん:
このコンビ名をつけたのは、「みんな、ストレスに向き合いすぎなくてもいい」っていう思いがあったからで。

「観てくれる人のつらいことやストレスの“出口”になるお笑いをやりたい」という考えで「EXIT」という名前にしたんです。



サノ:
…!

りんたろー。さん:
仕事もそうですし、介護にしても、ちゃんと自分なりの「つらさの“イグジット(出口)”」を見つけてほしいと思うんです。

サノ:
ちゃんとストレス発散をしろと。

りんたろー。さん:
…なんですけど、イグジットを見つけるのも、じつはすごく大変

「大変なら施設に入居してもらえばいい」なんて、言うのはカンタンですけど、それを見つけるしんどさも俺は知ってる。

だから「甘えられる場所を見つけなよ」って、あんまり軽々しく言いたくもないんですけど…でもせめて、そう思っていいんだとは気づいてほしくて。

サノ:
逃げ道を探すのもカンタンじゃないんですね…



りんたろー。さん:
誰かに吐き出したくても、場合によっちゃ「冷たい」とか「薄情」とか言われちゃいそうで…グチを言うことすら難しい。

そりゃ、パンクして辞めてっちゃいますよね。

だから、介護でまず一番にすべきなのって、「自分を守る方法を見つけておくこと」なんじゃないかなって思うんですよ。

サノ:
自分を守る…

りんたろー。さん:
とにかく、自分の時間を作って、パンクしそうな自分の空気を抜いて。力を抜いていい。ちょっとくらいダメになってもいい。

なんとか、 “イグジット”を見つけてください。これが、今後介護の問題に直面するであろうR25世代に、僕が言えることッスかね。

サノ:
…今日のりんたろー。さんの言葉が一つの“イグジット”になった方も、きっといるだろうなって思います。

りんたろー。さん:
そうなったらうれしいね!

ってな感じで、おあとがヒュイゴーー!!!



R25世代から、現在介護の問題に直面している人にまで、エールを送り続けてくださったりんたろー。さん。

もちろん介護は命にかかわるシリアスなお仕事だけど、介護する側の心を守ることがまずは第一歩と切実に語るりんたろーさんの言葉を聞いて、すごくぐっときました。

手を抜いちゃダメだけど、力は抜いて。このメッセージが一人でも多くの人に届いたら、僕もうれしいです。

〈取材・文=サノトモキ(@mlby_sns)/編集=天野俊吉(@amanop)/撮影=長谷英史(@hasehidephoto)〉