恋人の「姪」の顔を見て、ひっくり返るほど驚いた…結婚もハメられた? それでも41歳夫が夫婦でいることにしがみつくワケ
【前後編の後編/前編を読む】出産祝いに訪れた先で“産後のママ”と不倫したら、自分の母にも「秘密」があった 結婚という重荷を求める41歳男性の孤独
船井浩太郎さん(41歳・仮名)は、就職して3年たったころ、先輩の妻である由布子さんと関係を持った。ほどなくして先輩に露見し、一度は「持っていけよ」と言われる修羅場を迎えたが、結局夫婦は元のさやに。その後、父を亡くした後の母もまた不倫関係にあったと知る。「生きるよすが」を考えていた35歳のとき、コロナ禍のワーキングスペースで千瑛さんと出会った。
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千瑛さんは浩太郎さんと同い年だった。両親と暮らしているので、家では仕事に集中できず、会社に話してそういったスペースを使っているのだという。

「会議も多いんだけど、うちの母親は入るなと貼り紙をしても、私の部屋をノックして『お茶でも飲まない?』と言ってしまうような人で。私は仕事三昧で、なかなか家にいなかったから、この事態がうれしいみたいで困るんですよねと笑っていました。ごく普通の感じだった。そのごく普通さに惹きつけられました」
考えれば、先輩の妻である由布子さんも、母親も、彼の言うところの「普通」ではなかったのだろう。一緒にいるとホッとできる。こういう人と一緒になれたら、と彼は夢を見た。
「ある日、今後は出社することになったと彼女に言われて、連絡先も聞いてないと焦りました。これからも会えませんかと遠慮がちに言ったら、『私もそう言おうと思ってました』って。うれしかったですね。学生時代に、こんなふうに照れながら連絡先を交換したことがあったなあと思い出して。普通のつきあいをしたい、普通の恋愛をしたいと強烈に感じました」
プロポーズに「結婚じゃないとダメ?」
浩太郎さんも出社する日が増えていき、ときどき千瑛さんと待ち合わせて食事をしたり映画を観たりするようになった。強烈な思いがわき起こるような関係ではなかったが、彼女との間にはいつもそよ風が吹いているような心地よさがあった。
「38歳のときだったかな、結婚してほしいと言ったんです。すると彼女の顔がちょっと曇った。『結婚じゃないとダメなの?』と。結婚したくないなら、それでもいいけど、一緒に暮らさない? そう言うと彼女は困ったような顔をした。まさか結婚してるとか? と言ったら『さすがにそれはないわよ』と。ただ、複雑な家庭に育ったので、結婚に対してあまりいいイメージをもっていない、せっかくいい関係を築けているのに、これが壊れるのが怖いって。実は僕もそうなんだけどさ、と言いました」
聞かせてほしいと言われたが、母のことは話したくなかった。父が早くに亡くなり、母も自ら命を絶った。それだけを伝えた。重いねと彼女はつぶやいた。
「そっちはどうなのと聞いたら、うん、と言うだけでなかなか話してくれなかった。1度、うちに来てみるかと言われたので、週末、行くことにしました」
顔を見て「ひっくり返るほど驚いた」
彼女と一緒に行ってみると、両親が揃って迎えてくれた。ふたりとも60代半ばだというが若く見えた。穏やかそうな両親だった。
「4人でお茶を飲んでいると、2階からとんとんと足音がした。『こんにちは。いらっしゃい』と挨拶をしたのは中学生くらいの女の子。その顔を見て、僕はひっくり返るほど驚きました。由布子さんにうり二つだったんです。僕が言葉も出ないのを見て、千瑛は関係性を説明してくれた。『この子は私の異母姉の子。異母姉は、いろいろあってずっと行方がわからないの』と。その姪が5つくらいのときに、異母姉と一緒に実家に戻ってきたのだが、1年後、異母姉だけが姿を消した。それ以来、両親と私が家族なの、と」
異母姉の名前をおそるおそる聞いた。やはり由布子さんだった。行方不明というのはどういうことなのか……。もちろん失踪者届は提出しているが見つからない。一度も連絡もない。もう死亡したものと考えてもいいのだが、両親はいつか帰ってくるはずだと待っている。もちろん、その姪も。
「うちは隠しごとはしないの。異母姉はきっと何か事情があって帰れないだけ。この子のことは気にかけているはずだし、私たちもこの子の成長を楽しんでるからと、千瑛は明るく言っていました。姪である由布子の娘も、陰のある感じではなかった。ちょっと友だちと遊んでくると出かけた後ろ姿を見送ってから、千瑛は『異母姉もかわいそうだったの。生まれてすぐ母親に死なれて、父はひとりでは育てきれずに実家に預けた。それでこの母と再婚して異母姉を引き取り、その後、生まれたのが私。そのときすでに異母姉は5歳だったから、もう事情をおぼろげながらわかってる。母は異母姉もきちんと愛したと思うけど、彼女にしてみれば自分はよけいな存在だと悩んだ時期もあったみたいで』と。それが由布子さんのあのなんとも言えない妙な強引さや執着みたいなものを引き起こしていたのかもしれないなと思いました」
バレてる?それとなく尋ねると…
離婚して戻ってきたのかとさりげなく尋ねると、両親と千瑛さんは静かに頷いた。自分のことを知られているのかもしれないと警戒したが、そんな様子はなかった。
「千瑛は本気で由布子さんのことを心配しているようだったし、両親と千瑛には特にねじ曲がったような暗さも感じなかった。ただ、父親は『由布子には本当にかわいそうなことをした。どうすればよかったのかわからないんですよ、今でも』とうつむいていた。母親も、『由布子は問題のある子ではなかった。いい子だったし、千瑛のこともかわいがってくれた。でも言葉にできない何かがあったんでしょうね』としんみりしていました。こういう家庭状況だから、結婚に対してちょっとね、と千瑛が言うと、『まあ、そのあたりはふたりで話し合ってくださいね』と母親に言われました」
わが身を振り返ると
どうしたものかと浩太郎さんは本気で悩んだ。千瑛さんとの関係を阻むものはなにもない。ただ、由布子さんへの思いが、そんな「普通に生きたい」気持ちの邪魔をする。
「今も由布子さんを好きだというわけではないんですが、あの頃の彼女を思い出すと、妙な必死さがあったなあ、あれはこういう環境から来ているんだとしみじみわかって、せつないような気の毒なような。これで僕だけ幸せになっていいんだろうかと考えてしまったんですよ」
自分のせいで、千瑛さんの姪は親と疎遠になったのではないか。少なくとも離婚にいたる要因は浩太郎さんにも責任がないとは言えないのだから。もうひとつ不安だったのは、やはり「他の女性を今後好きになる可能性」だ。由布子さんの情熱を思い出すと、ああいうタイプの女性に言い寄られたら断れないと感じていた。若気の至りとは言い切れないものがあったのだ。
それでも千瑛さんと結婚。なぜならば…
それでも結局、浩太郎さんは千瑛さんと結婚した。あらゆる葛藤を振り捨て、前に進む道を選んだ。なぜなら千瑛さんが妊娠したと言ったから。
「責任をとるというよりは、単純に自分の子がいたらどういう気持ちになるのか、少なくともかわいいと思えるだろうなと感じて。家庭をどうマネジメントしていけばいいかは、僕にはわからないけど、困ったらきっと千瑛の両親が支えてくれるのではないか、千瑛の姪っ子にも僕たちのところに遊びに来てほしいし、なんてドラマみたいなことを考えていたんですよ」
派手な式などは挙げず、千瑛さんの両親と姪と食事をした。千瑛さんの体を慮って、彼は家事のほとんどを引き受けた。
そんなことってある?ハメられた?
1ヶ月ほどたったころ、彼が帰ると千瑛さんが床に座り込んでいた。
「どうしたのと言ったら、生理が来たと。妊娠していたんじゃなかったのと聞くと、『私の勘違いだった』と。医者に行ったはずじゃなかったっけと思ったけど、彼女は病院で妊娠が確定したとは言ってなかった。もともと生理不順だったため、てっきり妊娠だと勘違いしたのだというわけです。そんなことってあります? もしそうだとしても、一応、病院に行って確認しません? 僕は意図的に嘘をついたとは思いたくない、もともと千瑛は結婚に乗り気ではなかったのだし。だけど、結果的には嘘をついたわけですよね。しかも男がそう言われたら、どうにも逃げようがない決定打ですよ。僕がずっと黙っていると、『私はどうしても結婚したいわけじゃなかった、むしろ恋人関係のままでいたかった。でもなんだか結婚の方向に話が進んでいった。そんなとき生理が遅れて、妊娠だと思い込んじゃったの』と釈明していましたが、なんとも不可解でした」
残ったのは、後味の悪さだけだ。1ヶ月間、彼は多忙な仕事をやりくりして、朝から妻のためにお弁当を作り、夕飯の下ごしらえをした。帰宅するとすぐ夕飯を作り、夜中に洗濯や掃除もした。週末はお風呂やトイレの掃除、とにかく妻が快適に過ごせるよう、ひたすら努力を続けたのだ。千瑛さんは、それを見ながら妊娠していない可能性を考えはしなかったのだろうか。
「きみとなら快適な生活が送れると思ったのに。僕は思わずそう言っていました。これからよ、これからは私ががんばるからと千瑛は叫ぶように言っていた。本当に勘違いなの、勘違いも許されないの? そう言われたら何も返せない」
自分の努力がムダだったことへの怒りなのか、子どもができたと聞いてこれからの展望が急に開けたような気になったのに、それを裏切られた感覚なのか、あるいは生きるよすがとなるはずの子どもが「勘違いだった」と片づけられた絶望なのか、ともあれ、浩太郎さんの無力感は相当なものだったようだ。
夫婦は続けているけれど…「どちらかが浮気しちゃいそう」
今も浩太郎さんは千瑛さんと同居はしている。だが、あれからやはりしっくりとはいかなくなった。お互いに遠慮しながら、人前では「とりあえず仲のいい夫婦」を演じていることもある。義両親には、もともと妊娠の件は伝えていなかったのだが、先日、義父に「大丈夫?」と聞かれた。浩太郎さんは泣きそうになったという。
「自分が離婚したいのかどうかも、わからないんです。千瑛を憎んでいるわけではないし、いつか由布子さんが帰ってきたら迎えて謝罪したい気持ちもある。結婚はしなくていいという自分の信念みたいなものに反して結婚を決めたのだから、もう少しこの道にしがみついていたいような未練もある。千瑛への未練ではなく、自分の選択と決断に対する未練。でもそんなものにしがみついても、人生が開けるわけでもないとわかってる」
あれからまったく性的な関係をもっていないので、千瑛さんが本当に妊娠することはない。千瑛さんから誘ってくることもない。
「どちらかが浮気しちゃいそうな気もしています。そうなったときに、僕らの本当の気持ちが浮かび上がってくるのかもしれません。そうならないと本心が見えないのも、情けない話だと思いますが……」
少し不可思議な、少し歪んだ夫婦関係は、今日もひっそりと続いている。
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千瑛さんとの関係に踏みとどまりながら、自分の選択への未練を手放せずにいる浩太郎さん。記事前編では、結婚を避けてきた彼が、先輩の妻との不倫関係、母の知られざる横顔を経て、千瑛さんに出会うまでを紹介している。
亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。
デイリー新潮編集部
