「結婚よりも自立を求める気持ちが強かった」。35歳で起業してから仕事に人生を捧げてきた板橋理恵さん。しかし50歳で乳がんに罹患したことで、初めて結婚を意識したそう。50代からの婚活。パートナーに求める10個の理想をリスト化して行動した結果、出会った男性。しかし、決め手は意外なものでした。

【写真】「55歳で初婚」板橋さんの運命を変えた旦那さん(5枚目/全10枚)

50歳で乳がんになり、変わった人生観

一級船舶免許を保有し、海や船が好きな板橋さん

── 50歳での乳がん宣告後、仕事一筋だった人生で初めて「結婚」について真剣に考え始めたそうですね。女性は「結婚」への圧力が今以上に強かった時代を過ごしてきた板橋さんですが、結婚願望はなかったのでしょうか。

板橋さん:私は結婚よりも自立を求める気持ちのほうが強かったんです。周囲には「どうやってキャリアを積んでいくか」にフォーカスする女友達が多かったため、独身のままでいる人は珍しくなかったんですね。母は専業主婦でしたが、私は自分の足でしっかり立って自由に生きたかった。

起業後にお付き合いした相手はいましたが、目の前の仕事に一生懸命で、結婚には至らないまま50代になっていました。

── その後、55歳で初婚を迎えますが、どういった経緯だったのでしょうか?

板橋さん:このまま生涯独身でいくのかなと思っていましたが、50歳で乳がんを患ったことが、生き方を見直すきっかけになりました。仕事はこのまま頑張りたい。さらに、日常の何げない会話を楽しみながら、日々の苦楽も分かち合えるパートナーがいたらより豊かになれると思ったんです。

そこで、「こんな相手が現れたらいいな」という条件をリストアップ。運転ができる、料理ができる、自立している、優しい…など、条件リスト10項目考えて、意識して行動するようになりました。

── 旦那さんとはどの段階で出会ったのでしょうか?

板橋さん:リストを書き出してから半年後でした。同世代の女友達が「海に遊びに行こう」と誘ってくれたので参加したところ、そこに集まった10人くらいのメンバーのなかにたまたま彼がいたんですよ。

ちょっと話してみたら、とても楽しいし気負いなく話せる。また、4歳上の彼は免疫学の研究職に就いているというので、「仕事で読めない英語論文の内容を教えてもらえたら助かるな」とも(笑)。その後、2人で食事に行きながら親しくなりました。 

乳がんで乳房全摘した話をすると

── 板橋さんが掲げていた「条件リスト」は満たしていたのでしょうか。

板橋さん:いえ、運転ができる、家事が得意などは当てはまりましたが、それでも半分くらいでしょうか。10項目はあくまで目安であって、すべて完璧にできるパートナーが欲しかったわけではないんです。10項目満たしていても、別の事柄がNGだったら結婚相手にはならない、ということだってありえますし。

── また、彼にはどのタイミングで乳がんについてお話しされましたか?

板橋さん:交際が始まって少ししてからですね。乳がんで乳房を全摘出した話をしなければいけない。それでダメなら縁が無かったんだ、と割り切って「乳がんの治療をしている」と話をしました。彼の周りでも乳がんを罹患した人がいたことや、2人に1人はがんになる時代と理解していたので、落ち着いて話を聞いてくれました。

また、彼と出会ったときはすでに手術と再建が終わっていて、投薬と経過観察をしている状態でした。私自身もあとはいい方向に向かうだけだと思い、穏やかだったと思います。

その後、彼の仕事の都合で引っ越しをするタイミングで結婚しました。55歳のときでした。

── すでに自分の生活リズムが確立された50代の2人がひとつ屋根の下で暮らすとなると、ストレスもたまったのでは?

板橋さん:それが、そうでもなかったんですよね。むしろ、ちょっとしたことを話せる相手がすぐそばにいることがすごくありがたくて。何かあったときに相談できる存在がいることが心強いです。「あれ買っといて」なんて雑用を気軽に頼めるよさも実感しています(笑)。

ただ、そう思えるのはお互いの生活パターンがあまり重なっていないからでしょうね。私は平日でも会食が多いし、週末もいろんな予定を入れているから、毎日べったりというわけではないので。自立した大人同士の同居生活、という感覚です。

お金の管理も、最初に共有の口座にそれぞれこれくらい生活費を入れましょうと話し合いましたが、それ以外の財布は別です。自分が欲しいものは各自で買うので、「この鍋、私が欲しいから買うね」みたいな感じですね。

50代で結婚相手に出会えた理由

専門職大学でキャリアについて講演する板橋さん

── とはいえ、相手にイライラすることや、ケンカすることもあるのでは?

板橋さん:私が暑がり、夫が寒がりなのでエアコンの温度設定で揉めることはしょっちゅうありますね。車で移動するときは車内を私好みの温度にするので、彼は厚着して耐えています(笑)。

そういえば以前に「私、メンタル強いみたい」と話したら、「あなたは鋼のメンタルだよね。周りを傷つけながらでも前に進んで行く」と夫に言われたことがあります。私としては自然体で結婚生活を送っているつもりですが、彼にしてみれば傷ついて疲れることもあるのかもしれません。

それでも、私に対して細かいことをうるさく言ってくるようなことはいっさいないので、そんな彼のおおらかさのおかげで上手くいっている気もします。

── 50代で結婚する人の割合は男女ともに1%未満、100人に1人もいないという極めて低い確率です。板橋さんが理想的なパートナーと出会えたのはどんな要因が大きいと思われますか。

板橋さん:これはあくまで私の考えですが、私の場合は自立できていたことが一番の理由だと思います。多分、私が自立していなかったら、結婚はできていなかったでしょうね。それは彼も同じで、50代以降の結婚となると、どちらかに「相手に依存したい」という思いがあると難しくなる気がします。

若い年代での結婚と、私のような50代での結婚の決定的な違いは、後者が「パートナーシップの構築」に重心が置かれるようになることだと私は思っています。一緒に子どもを育てるとか家庭を築くといったステージはもう通り過ぎているので、ただ純粋に対等なパートナーとして関係を築くことができる。そこが大人の結婚のいいところだと思うし、自分も多少なりともそのお手本になれたらなと思っています。

60代になった今、あらためて思いますが、結婚でも何でも始めるのに遅すぎることはありません。私の友人は53歳のときにご主人を亡くしましたが、その後にパティシエの免許を取ったり、宅建(宅地建物取引士)の資格に挑戦したりと精力的に人生を謳歌していますよ。

取材・文:阿部花恵 写真:板橋理恵