「父は世代的に日本のことをあまりよく思っていませんが、母は『若いうちにいろんな経験をしたほうがいい』と応援してくれました。韓国から近いことから、日本で就職を考える人は珍しくなく、大学には日本語能力検定(JLPT)の最高難易度『N1』を突破している学生もたくさんいますよ。

それに新人として働くならば、お金も日本のほうがいいんです。’23年に韓国で正社員として働いたとき、給料は時給換算すると1000円以下でしたが、日本では1500円。韓国は2年働いても50円しか昇給しなかったので『日本って最高!』って感じです」

チェさんもまた、日本の職場では「ぬるさ」を実感したという。

「日本は仕事のスピードがゆっくりだし、優しい人ばかり。韓国でミスしたときは、一日中怒られていましたね。

ただ、個人で成果を出したいと思ったときに、どうしても日本は“ぬるさ”や“非効率さ”を感じてしまうことはあります。仕事ぶりに対しては『大丈夫』としか言われないし、もう少しフィードバックがほしいくらいです」

現在は大学を卒業し、就職するため韓国に戻ってきているというチェさん。日本ではその働きぶりが評価され、元上司から「いつでも待ってる」とラブコールを受けているそうだ。

韓国人材にとって日本は“パラダイス”ではない

続々と来日してくる韓国人材は、日本人材を圧迫するのだろうか。

日韓関係を取材するライターの安宿緑氏は、「一部の業界に限られるのではないか」と補足する。

「ITやゲームといった『日本語が完璧でなくても戦える分野』や、ホテルや化粧品のような『韓国語が武器になる分野』では流入が進みます。

韓国の大学生は、並行して専門学校に通って異なるスキルをつけることも珍しくなく、軒並み高スペックで向上心が強い。日本企業からしても魅力的に映るでしょう。韓国人材が熾烈すぎる競争社会から離れ、日本企業に目を向けるのは自然な流れだと思います」

ただ、「日本は楽に稼げる国」という認識で日本に過度な期待を寄せる韓国人材について、安氏は懐疑的な態度を示す。

「近年は、円安の影響で日本で働く経済的メリットが著しく低下しています。

かつてのような『日本企業から欧米企業へのステップアップ』というルートもほぼ存在せず、日本語のコスパの悪さに気づく人が現れるのは時間の問題でしょう」

また、日本で韓国人を受け入れているメンタルクリニックには、想像とのギャップに苦しむ患者が後を絶たないという。

「日本企業特有の“空気を読む文化”や“ことなかれ主義”に適応できなかった韓国人は『自分だけが頑張っている』と孤立し、メンタルを崩して帰国するケースもあります。

来日者が増えれば、同じ割合で“去る人”も増えていくでしょうね」

“ぬるさ”だけに惹かれて日本にたどり着いたとしても、そこは“ぬるい地獄”かもしれない。

<取材・文/松浦聡美>

【松浦さとみ】
韓国のじめっとしたアングラ情報を嗅ぎ回ることに生きがいを感じるライター。新卒入社した会社を4年で辞め、コロナ禍で唯一国境が開かれていた韓国へ留学し、韓国の魅力に気づく。珍スポットやオタク文化、韓国のリアルを探るのが趣味。ギャルやゴスロリなどのサブカルチャーにも関心があり、日本文化の逆輸入現象は見逃せないテーマのひとつ。X:@bleu_perfume