”心室の穴”はいったいどこへ…「安倍元首相暗殺の真相を究明する会」の現役救急医が指摘する「一審判決」の矛盾
2022年夏に発生した安倍晋三元首相の銃撃事件。2025年から始まった裁判員裁判において山上徹也被告は、検察の求刑通り1月21日に無期懲役の一審判決が言い渡され、事件は司法の場において一つの区切りを迎えた。
一連の裁判は、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)への恨みを募らせた山上被告の「単独犯行」という前提で進められてきた。しかし、その判決内容には、単独犯として片づけてしまうには、あまりに多くの疑問が残されているという。
この疑問を追及しているのが、弁護士、医学博士、警察関係者ら専門家で構成される「安倍元首相暗殺の真相を究明する会」だ。今回、同会メンバーである現役の救急専門医が、医師の立場から一審判決における数々の不自然な点について疑問を投げかけた。なかでも最大の疑問は、現場で治療にあたった救命医と、のちに遺体を調べた解剖医の所見が大きく違っているということだという。司法の場で言及されなかった「心室の穴」の正体と、裁判で解明されなかった謎とは──。
現場の救命医が明言した「心室の穴」
事件当日の夕方、搬送先の奈良県立医科大学附属病院で行われた記者会見で、治療を指揮した福島英賢教授は、記者の質問に対し明確にこう答えていた。
「たぶん、弾丸による心損傷、大きな穴ですね。心臓の壁に空いた穴です」
「心臓の心室ですね。心臓の壁です」
しかし、裁判で認定された死因は全く異なるものだった。法廷に立った解剖医の証言によれば、死因は「左右鎖骨下動脈の損傷による失血死」。つまり鎖骨のすぐ下を走り、心臓から腕などへ大量の血液を送る太く重要な血管が損傷した、ということだ。福島教授が明言していた「心室の穴」には一切触れられていないのだ。
「安倍元首相暗殺の真相を究明する会」のメンバーである現役の救急専門医は、両者の見解の食い違いについてこう指摘する。
「福島先生はおそらく左の第4か第5肋間を開けているはずです。そこを開けると心臓が見えますし、手を入れて心臓の状態を確かめることもできる」
心臓はこんにゃくのようなソフトな感触で、優しく触れば損傷状態は容易にわかるという。
「触った時に心臓の挫滅具合は確実に分かります。その所見が弾丸による挫滅だと判断したのでしょう。福島教授が『心室に穴があった』と言っている以上、穴がなかったということはあり得ません」
治療には福島教授だけでなく、20人以上の医療スタッフが関わっていた。「心室の穴」を見間違えるとは考えづらい。
心臓が即座に止まったとしか考えられない
「真相を究明する会」がまとめた調査報告書によれば、解剖医が主張する「鎖骨下動脈損傷による失血死」という死因は、医学的・物理的事実と全く整合しないという。
調査報告書は、成人男性が失血によって意識を喪失するには、全血量の約30%(1500ml)以上の急速な失血が必要であり、鎖骨下動脈断裂時の出血率から計算しても、意識消失までには最低でも20〜30秒間は痛覚への反応や防御姿勢を取ることが可能だとしている。
当時の映像などを振り返ると、安倍氏は被弾直後、崩れ落ちるように膝をつき、横たわった後は微動だにしなくなった。
救急専門医はこう語る。
「倒れる瞬間にわずかな防御反応はしていますが、横たわった後は微動だにしていません。つまり撃たれて2〜3秒で完全に意識を失ったということです。脳への血流の断絶により、このような意識障害が生じます。心臓が破裂した場合や、上行大動脈の断裂ならともかく、人差し指ほどの太さの鎖骨下動脈から、わずか3秒で缶ビール3本分(1500cc)の血が噴き出すことはありません。心臓が即座に止まったとしか考えられません」
撃たれて数秒で完全に意識を失い、心臓が瞬時に停止したと推測されるこの「即死」状態こそが、まさに福島教授が語った「心室に穴が開いていた」という所見を裏付けるものだという。
さらに救急専門医は、福島教授らの救命チームと解剖医では、傷の数や弾丸の出入り口について全く違っている、と指摘する。
福島教授は会見で「来られた際に、頸部2ヵ所の銃創がありまして」と明言。記者からの「2つの傷はかなり近いところにあった?」という質問に対しても、「距離的には5センチぐらいですかね」と答えている。
しかし、裁判での解剖医の所見では、首の銃創は右前頸部の1ヵ所のみとされ、もう1ヵ所は単なる「擦過傷(かすり傷)」とされている。
また、弾丸の抜け道については見解が完全に逆転しているという。福島教授は記者から「貫通したような」傷の有無を問われ、
「1つだけ左の肩に別の傷があったので、おそらくそこが射出口と言われるところだったんじゃないかというふうに考えています」
と述べた。ところが、解剖医はこの左側の傷を「左外側上腕部射入口」と断定し、ここから入った弾丸が右胸腔まで進み、左右の鎖骨下動脈を傷つけたと結論付けている。
現役救命医は次のように、見落としの可能性を否定する。
「医師は学生の時に法医学で射入口と射出口について必ず勉強します。また救急医なら、銃創があった場合、『これは射入口なんだろうか? 射出口なんだろうか?』と、まず考えます。ですから見間違えることは一般的にはないと思いますね」
山上被告の撃った弾ではない可能性
矛盾は医学的な見地にとどまらないという。弾丸の物証について、「真相を究明する会」の吉田龍洋事務局長は不可解な点を指摘する。
「事件現場となった立体駐車場の壁面には、山上被告が手製の銃から発砲したとされる弾がめり込んでいましたが、直径は7〜10ミリと報道されていました。一方、安倍さんに命中した2発のうち、死因にはならなかったとされる右上腕骨に残っていた弾が証拠として提出されていますが、こちらの直径は11.3ミリ。そもそも弾のサイズが違っているんです。また、山上被告の手製銃の口径は21ミリです。そこに11.3ミリの弾を複数詰めようとすれば隙間だらけになり、威力を発揮できない。一方、9ミリだと3発が21ミリにキッチリ収まる。安倍さんの体から出たとされる弾は、山上被告の撃った弾ではない可能性が高いのです」
さらに、同会の報告書によると、弾丸が体内を進んだ「弾道」や「射入角度」にも物理的な無理があるという。
現場の状況を振り返ると、安倍元首相は高さ約40センチの演台の上に立っており、地上にいた山上被告の銃口からは、弾丸は下から上に向かって約8度の「仰角(上向き)」で飛んでいくはずである。
裁判では、致命傷になった弾丸は左肩(左上腕部)から入って、鎖骨下動脈を切断したとされている。そもそも角度的にその解釈自体にも無理があるが、福島教授が語っていたように、左肩ではなく首の銃創が入射口だったとした場合、そこから下に向かって心臓に弾が当たったとなれば、山上被告の位置から撃たれた弾丸の角度(下から上への仰角)からはあり得ないということになるのだ。
さらに不可解なのは、体内に入ったとされる2発のうち、致命傷を与えたはずの弾丸が体内のどこからも見つかっていないという事実だ。解剖医は法廷で、未発見の理由について「胸に溜まった血を抜く際に、一緒に吸引されたくらいとしか推測できない」と答えるにとどまり、肝心の弾丸は結局発見されずじまいとなっているのである。
山上被告は単独犯なのか…
同会の吉田事務局長は、「山上被告を単独実行犯と断定する根拠は存在しない」として、次のように語る。
「検察は致命傷となった物的証拠の弾丸を提示できず、科捜研の実験結果も実際の被害状況と致命的に矛盾しています。さらに、国家指導者の暗殺という重大犯罪に対し、検察が最高刑である『死刑』を求刑せず『無期懲役』にとどめたことは、政治的妥協ではないかとの疑念を禁じ得ません。証拠不十分や物理的矛盾を抱えたまま死刑を求刑し、万が一にも無罪判決が出たり、証拠の不備が露呈したりすることを当局が恐れたからではないでしょうか。この中途半端な求刑は、真実究明を回避し、事件を早期に幕引きしようとする意図が透けて見えます」
現場の救命医が目視しながら、一審では言及されることのなかった「心室の穴」。来る控訴審で、死因について解明されることはあるのだろうか。
こちらもあわせて読む『「愛してくれてありがとう」山上徹也被告が「驚きのメッセージ」を送った相手』
