【改めて賃上げは進むのか?】第一生命経済研究所・首席エコノミスト 熊野 英生
マクロで考えると、2026年度の春闘はトランプ関税15%の負担が加わる分、企業の賃上げ余力が低下して伸び率は一服するだろう。25年冬のボーナスも、関税の影響で伸び悩みそうだ。どうしても賃上げの勢いは衰えよう。政府として、賃上げを通じた好循環の促進のために、何の貢献ができるのかを再考する必要がある。
高市首相の持論は、積極財政、金融緩和維持である。これだけで賃上げを後押しできるとは到底思えない。仮に、円安が進んで、関税負担が軽減されたとしても、輸出企業が高い賃上げに動くとは思えない。また、25年に議論された中小企業への裾野の広い賃上げについても、これと言ったアイデアが示されているように見えない。高市内閣は成長戦略として17分野への重点投資を表明するが、賃上げへの寄与はやはり不透明である。この点は、まだ着手されていない内閣の課題だと考えられる。
そこで筆者は、自分なりに賃上げ促進の戦略を考えてみた。賃上げをより積極的に推進する企業は、そうでない企業との間にどんな違いがあるのか。まず、データ分析でわかるのは、生産性の上昇している企業はやはり1人当たりの賃金上昇率も高いという傾向である。これは、大企業から中小・零細企業まで共通していた。大企業では、人員が減少ないし横ばいで、業務プロセスを機械化・システム化しながら生産性を上昇させていた。コロナ以降については、ソフトウェア投資が飛躍的に伸びて、人手不足を緩和するかたちで省力化が進んでいることもわかった。それが23年頃からの賃上げを裏側でサポートする、一つの原動力になってきたと理解できる。
ならば、中長期の視点で賃上げを継続しようと思えば、企業の省力化等投資を増やすことが1人当たりの生産性を高めることにつながる。人手不足感が特に強いのは中小・零細企業なので、彼らにとってもDX化等が生産性向上をもたらせば、賃上げの余地が出てくるはずだ。最近話題のAIもそうした効果が期待できよう。問題は、チャットGPTなどのAI等をどう活用するかを指南してくれるアドバイザーが身近にいないことだ。例えば、中小企業診断士のように、AIを使いこなしたい中小企業にアドバイスして伴走型でサポートできる人員が数千人単位でいれば、もっと中小企業の生産性は高まる。これが、筆者の考える賃上げのための処方箋である。
