ヘルパーの大半は泣き寝入りの実情とは(※写真はイメージ)

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 2018年、介護業界で最大規模の労働組合である日本介護クラフトユニオンがアンケート調査を行った。それによると、有効回答者2411人のうち、何らかのハラスメントを受けたことがある、と回答した人は1790人で全体の74・2%。そのうち、セクハラを受けたことがある人は718人で、全体の29・8%。実に、約3割がセクハラ被害を受けていた、という驚きの実態が明らかになった。

「私は介護ヘルパーを始めて29年目になりますが、これまで訪問して介護した人は1000人を超えています。そのうち約3割が男性でしたから、300人ほど。その中で、約1%、30人くらいからセクハラを受けました」

 と語るのは、藤原るかさん(63)である。7月末に、介護ヘルパーのセクハラの実態を描いた、『介護ヘルパーはデリヘルじゃない』(幻冬舎新書)を出版した。

ヘルパーの大半は泣き寝入りの実情とは(※写真はイメージ)

「11年に、99歳のおばあちゃんを連れて厚生労働省に行ったことがあるのです。厚労省が、生活援助(高齢者本人や家族が家事を行うのが困難な場合、ヘルパーが掃除や洗濯、調理などを援助する)自体を介護保険から外そうと目論んでいたので、それでは高齢者の生活の質(QOL)が保てず、ヘルパーの労働条件の悪化につながると抗議したのです。それをYouTubeで見た編集者から、執筆の依頼がありました。今回の著書が2作目となります」

 藤原さんは、30代から40代の頃にセクハラを受けたという。その内容を、著書の一部から紹介すると、

〈一般的に70代以上のお年寄りというと、枯れたイメージがあるかもしれませんが、実際にはそうではありません。性的衝動はいつまでも残っていることを実感します。私がヘルパーとして関わった80代のKさんも、そうしたひとりでした。半身不随がある方で、食事を食べさせた後、薬を飲ませ、歯を磨いて、寝間着に着替えるのを手伝い、最後にベッドに寝てもらうのが仕事です。これを就寝介助といいます。そのときも、私が「じゃあ、ベッドに寝ましょうね」といいながら、身体を支えようとしました。すると、いきなり麻痺していないほうの腕で抱きつかれたのです。あやうくベッドに引き倒されるところでした。反射的に身体をもとの体勢に戻し、Kさんから離れました。そして、結果的にベッドに横になった格好のKさんの身体に布団をかけ、何食わぬ顔で「これから茶碗を洗わないといけませんから、先に寝ていてくださいね」といい、台所に戻ったのです。Kさんはというと、不満そうに、「だって、ベッドに寝ようっていったじゃないか」と文句をいっています。これを聞いて「男性はいくつになっても性的な欲望があるんだ」と驚きました〉

 藤原さんの知人のヘルパー(30代)もこんな被害を受けている。

〈脳梗塞の後遺症がある70代の男性利用者から悪質なセクハラを受けたことがあります。
 男性が布団から腕を伸ばし、「上体を起こしたいから手を貸して」というので、手を握って起き上がらせようとしたら、強い力で引き寄せられ、抱きしめられたのです。そのまま下半身をなで回され、頬や耳、うなじなどにキスされたため、突き放そうとしたのですが、相手の力が想像以上に強く、足も絡められてしまい、身動きが取れなくなってしまいました。恐怖に駆られ、大声を出したら、やっと腕を離してくれたそうです。思わず、「何をするんですか、いい加減にしてください」と睨むと、「はははは、いや、冗談、冗談」と笑い、彼女の身体をなめるように見つめたといいます〉

股間を思いっきり蹴り上げる

 こうした悪質なケースは、報告を受けた上司が家族に連絡し、同様の事が起きたらサービスを停止すると警告するという。もっとも、これは犯罪として成り立つような気も……。

「介護ヘルパーは、利用者の家を訪問して介護するわけですから、密室の中で1対1になるケースが多い。そのため、ヘルパーは襲われたときのために護身術を身に着ける人が少なくありません。警察官の護身術と同じようなものですね。まず、声を上げる場合は、『助けて』ではなくて、『ドロボー』、『火事だ』と叫ぶ。人が来てくれるからです。手を握られたら、払う。私は柔道をやっていたので、投げ飛ばしたこともありました。怖かったのは、70代の元自衛官です。体格がよく、体重は80キロありました。あるとき、いきなり前から迫ってきたのです。普通、セクハラをやる人は、台所で料理をしていいたりすると、背後から行為に及ぶことが多い。元自衛官は前からきてギューッと抱きしめられ逃げることもできなくなりました。そこで私は相手の股間を思いっきり蹴り上げ、相手がたじろいだ隙に逃げました」

 元自衛官の介護は女性では危険なため、その後男性ヘルパーに代わったという。

「レビー小体型認知症の70代の男性は、注意力の低下、幻視、歩行が困難になったりして、興奮を促す薬を服用していました。ところが、この薬によって性的興奮を起こすことがあります。ある時、その男性の自宅に伺い、身支度をしていると、後ろに下半身を露出したその男性が立っていました。これは危ないと思い、テーブルの方に移動すると、追いかけてきました。そして、テーブルのまわりをぐるぐると追いかけっこをする形に。5分くらい走り回りました。いつまでも走っているわけにもいかず、テーブルの下に隠れて男性が落ち着くのを待ちました」

 96歳の男性からは、こんなことをされたという。

「普段は、まったくセクハラをしない方だったのですが、体力が衰え、死が目前に迫っているのを感じたのでしょうか、私に、“最後に1回やらせてくれ”と懇願するのです。私は、“お元気ですね、でも、私はお相手することはできません”といいました。その方はその1週間後に亡くなりましたが、死の間際でも、種の保存が組み込まれたDNAの強さを感じました」

 実は、男性介護へルパーもセクハラ被害を受けているという。同性愛者から、股間を触られたり、おばあちゃんを入浴させるとき、お姫様抱っこしてやると、頬にキスされることもあるそうだ。

 介護費は最高で月36万円。本人負担は年金額にもよるが、普通は1割負担なので3万6000円。最も安いのは月6万円なので、本人負担は6000円。これが全体の2、3割を占め、このクラスがセクハラの率が高いという。だが、ヘルパーたちはセクハラされても、法的に訴えるケースは、ほとんどない。

「セクハラをする人は、医者や教授、会社の社長とか、地位の高い人が多い。キャバレーなんかで、女の子の体を触って遊んでいたのでしょう。同じことをヘルパーに求めているのです。ヘルパーにはなにをしてもいいと思っている。セクハラでショックを受けて離職する人もいます。セクハラを受けて上司に相談すると、スキがあったんじゃないかといわれます。余程の事でない限り、利用者に抗議するのは仕事減につながるからです。結局、泣き寝入りとなってしまいます。この本でヘルパーへのセクハラの実態を知っていただきたいです」

週刊新潮WEB取材班

2019年8月14日 掲載