スバルの衝突実験デモで目の当たりにした安全への執念 知っておきたい強い意志と美学【フォレスター・オーナーの黒木美珠が目撃】
スバルと聞いて、何を思い浮かべますか?
スバルと聞いたとき、頭に浮かぶイメージは何でしょう。筆者の場合は『水平対向エンジン』、『ラリー』、『安全』といった言葉が出てきます。もっとも、ラリーはクルマ好きならではの偏りかもしれませんが、『安全』については多くの方が共感いただけるのではないでしょうか。
【画像】スバルの衝突実験デモンストレーション 知っておきたい強い意志と美学 全82枚
今回この取材について編集部に記事化を相談したところ、「スバルといったらやはり安全ですね、ぜひお願いします」と即答いただきました。それだけ『安全』へのイメージは広く深く定着しているといえます。

スバルのCMやカタログでよく紹介されている衝突実験を、生で見てきました。 黒木美珠
今回訪れたのは群馬県太田市、スバルの本拠地です。
昨年日本カー・オブ・ザ・イヤーを受賞した新型フォレスターが、JNCAPにて『自動車安全性能2025ファイブスター大賞』も受賞。その記念イベントで、群馬本工場内の施設にて実際の衝突実験デモンストレーションを見ることができました。
筆者は長距離移動が多い分だけ、事故のリスクが人より高い自覚があります。現行フォレスターを購入した理由は、疲れにくさと万が一の時も信頼できる安全性、この2点が大きいのです。今回の取材は、その答え合わせをする絶好の機会にも思えました。
そもそもスバルの原点は中島飛行機。かつて東洋最大の航空機メーカーでした。絶対に事故を起こさせない設計、視界の確保、思い通りに機体を動かす技術、乗員の命を守る構造。その飛行機作りのDNAが、現在の水平対向エンジンの低重心設計、シンメトリカルAWD、そしてアイサイトへと受け継がれています。
当たり前に積み重ねてきた五つ星
さて、JNCAPとはどういう機関なのでしょうか?
スバルのプレスリリースからそのまま抜き出すと『自動車の安全性能を比較評価する自動車アセスメント』となりますが、国土交通省とナスバ(独立行政法人自動車事故対策機構)が共同で運営する第三者評価機関であり、予防安全性能、衝突安全性能、事故自動緊急通報の3項目を総合的に評価し、星の数で公表しています。

人や自転車とぶつかった際、致命傷を防ぐ努力のひとつである歩行者エアバック。 黒木美珠
2025年の評価実施車種は全部で4台。五つ星を獲得したのはフォレスターのみで、残る3車種は星4つという結果でした。得点は193.8点満点中184.62点、実に95%という高スコアで全項目においてAランクを取得したのです。
しかしこれは『いつものこと』でもあります。2020年はレヴォーグ/WRX、2021年はレガシィ・アウトバック、2023年はクロストレックとインプレッサ、そして今回のフォレスターと、ファイブスター大賞の受賞を当たり前のように積み重ねてきました。
目標は『死亡交通事故ゼロ』
同社は『死亡交通事故ゼロ』を目標に掲げており、2024年のデータでは日本国内におけるスバル車の死亡事故はわずか1件です。一歩間違えれば人の命を奪う危険性を伴う自動車。それを作るメーカーとしての責任の取り方と使命を感じます。
特筆すべきは歩行者エアバックの存在。現在6車種に装備していますが、正直なところ、歩行者エアバックが決め手でスバル車を選ぶ人はほとんどいないと思います。「へー、ついているんだ」くらいの認識、もしくはずっと知らないまま乗っている方もいるかもしれません。

2024年のデータでは日本国内におけるスバル車の死亡事故はわずか1件です。 黒木美珠
しかしこの装備、もしかしたらメーカーにとっては原価を押し上げる要因と筆者は考えています。それでもつけてくる。
事故を未然に防ぐアイサイトと、それでも防ぎきれなかったときに歩行者や自転車の被害を少しでも軽くし、致命傷を防ぐ努力のひとつとしての歩行者エアバック。それらの存在はめぐりめぐって、事故を起こしてしまったドライバーの過失性の軽減にもつながります。ここに、このメーカーの安全への強い意志と美学を感じるのです。
目の前で砕け散った、見慣れた顔
メーカーの開発者やナスバの担当者による説明が行われたのち、いよいよ今回のイベントの目玉へ。実際の衝突実験デモンストレーションです。
試験内容は『新オフセット前面衝突』。正面衝突ではなく、車両右半分同士がそれぞれ時速50kmで、相対100kmの衝撃を観測するもの。実験前にはこんなアナウンスがありました。

これだけ損傷していても、Aピラーより後ろはいつもの姿のままで、ドアは開くのです。 黒木美珠
「衝突の瞬間は瞬きをしないでください」
事故とは本当に、瞬きひとつのタイミングで人生が変わってしまう出来事なのだと、その言葉だけで痛感させられます。
実験が行われたのは体育館のような大きな実験棟。車両はその中にはなく、部屋の外から速度をつけて走り込んでくる設計です。
10秒前からカウントダウンが始まり、遠くから物体が近づいてくる音がします。室内に車両が入ってきたと思ったら、そこからはあっという間でした。大きな衝撃音とともに白煙が舞い、遅れてエアバックの火薬の匂いが漂います。見慣れたフォレスターの顔が一瞬でグシャッと砕け散り、正直、かわいそうに思えました。
「毎日のようにやっていますよ」
正面は一目では何の車種かわからない顔になってしまいましたが、Aピラーより後ろはいつもの姿のままです。これは意図的な設計で、クラッシュゾーンと呼ばれるエネルギー吸収ゾーンが確実に衝撃を受け止め、キャビンゾーンの生存空間を守る構造になっています。
ドアもいつも通り開きました。乗員が閉じ込められることなく、脱出および救出ができる。壊れるべき部分が壊れ、守るべき空間が守られています。

衝突実験は毎日のように行っているというから驚きました。 スバル
どのくらいの頻度で衝突実験を行っているのか尋ねると、「毎日のようにやっていますよ」という答えが返ってきました。月に一度くらいかと思っていた筆者には、驚きの一言でした。
その積み重ねの先に、ファイブスター大賞がある。礎になってくれた今までの車両に、思わず合掌したくなります。死亡交通事故ゼロを目指すこのメーカーの意志は、言葉だけではないのだと感じました。
