習近平が狙う「中国版の新世界秩序」とは何か…「人類運命共同体」を掲げる大国の野望
ロシアによるウクライナ侵攻、世界的な移民排斥運動、権威主義的国家の台頭、トランプ2.0、そして民主主義制度基盤の崩壊……。
「なぜ世界はここまで急に揺らぎはじめたのか?」。
発売からたちまち重版が決定した話題書、『新書 世界現代史 なぜ「力こそ正義」はよみがえったのか』(川北省吾 著)では、共同通信社の国際ジャーナリストが、混迷する国際政治の謎を解き明かすために、国際政治学者や評論家、政治家や現場を知る実務家へのインタビューを敢行。辿り着いた答とは?
本記事では、〈なぜロシアの暴走を止められないのか?…「大国の特権」に異を唱えたウェナウェザーが仕掛けた「一計」〉に引き続き、リヒテンシュタインの国連大使・ウェナウェザーが考える安保理の実態と、新秩序を狙う中国の動きについて詳しくみていく。
※本記事は、川北省吾『新書 世界現代史 なぜ「力こそ正義」はよみがえったのか』より抜粋・編集したものです。
激増する二重拒否権
ウェナウェザーや同志たちの取り組みは光明だが、安保理に集約的に表れる戦後秩序の行き詰まりが解消されたわけではない。いくら総会が行動しても、制裁や軍事行動を決定できる安保理が機能しなければ、平和を維持することはできない。
大国の国益がぶつかり合う安保理は世界の縮図だ。その時々の力関係を如実に映し出す。安保理が袋小路に陥っているのは、冷戦の覇者アメリカの威信が低下していることと密接に関わっている。
それを如実に示すのが、ロ中による「ダブル・ヴィートー(二重拒否権)」の激増である。ロシアがソ連崩壊後の混乱に苦しみ、中国が今のように強くなかった時代は少なかったが、2010年代から常態化し始めた。
拒否権は強力な外交上の武器だ。単独で発動すると、突出した印象を与える。だから目立つのを避けるために、共同行使する場合が従来は多かった。ところが、近年は積極的に二重拒否権を行使し、スクラムを組んでアメリカの行く手を阻むケースが目立つ。
ウェナウェザーによると、二重拒否権が多用されるようになったのは「この10年余りのこと」だという。アメリカがアフガニスタンやイラクの戦争で疲弊し、13年に「世界の警察官」の座を降りてからの時期と重なる。
「米英仏とロ中の対立は、ウクライナ侵攻が引き金になったわけではない。安保理の機能不全は、もっと前から始まっていた。2010年代以降の大国間の力関係の変化がもたらした帰結に過ぎない」
今後、米中の対立により、「安保理がさらに多くの問題で動けなくなるのは明らか」とウェナウェザーはみる。「ウクライナ問題を巡るロシアとの根深い分断は、一時的な現象ではない」と断言した。
ソ連の初代国連常任代表(大使)で、後に外相を務めたアンドレイ・グロムイコは、冷戦下の安保理で拒否権を連発し、「ミスター・ニェット(ノー)」と呼ばれた。「新冷戦」と呼ばれる今、同じ状況が再来しているのである。
存在感増す中国
国連におけるもう一つの変化は中国だ。「あらゆる問題に首を突っ込み、それぞれの分野で役割を果たそうとしている」とウェナウェザーは言う。「世界観を語り、人類の未来を口にする。習近平体制下の外交は以前と様変わりした」
その象徴が「人類運命共同体」だ。「東昇西降(中国は興隆し、アメリカは衰退する)」の世界観に基づき、習が打ち出した理念である。米国主導の秩序と一線を画し、途上国と連携した新秩序の形成を追求する。
「中国は『人類運命共同体』の具体化に向け、しばらく前から『発展』『安全(保障)』『文明』といったグローバルイニシアチブを次々と打ち出している。中国版の『新世界秩序』構想だろう」
ウェナウェザーがニューヨークに着任した20年余り前、中国の外交活動は抑制的だった。台湾やチベットなどの「核心的利益」を中心に取り組み、「『主権尊重』や『内政不干渉』といった題目を念仏のように唱えていた」。
ところが、力を付け、腰の低い「韜光養晦(とうこうようかい)」から脱し、大国外交を推し進めるにつれて「国連における存在感は飛躍的に高まった」。とりわけ「総会の3割程度を占めるグローバルサウス(新興・途上国)への影響力は顕著だ」という。
「人類運命共同体」の名の下に構築される中国の新世界秩序。それは第2次大戦中からルーズベルトが構想し、米国主導で形成した戦後の秩序に真っ向から挑み、激しくきしんでいる。
第2次大戦では、連合国の中核だった米英ソ中が結束し、日独伊の枢軸国を打倒した。大きな国が足並みをそろえてこそ、「国際の平和と安全」を維持できるとの考えが、ルーズベルト構想の土台にある。
しかし、そうした状況はもはや望み薄だ。1945年10月24日の国連創設から80年を経た今、「警察官」構想は破綻している。国の上に立つ世界政府が存在しない以上、「大国が国際法を破っても、誰も止められない」(マハティール)。
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さらに〈「世界の警察官」の座を降りたアメリカの「ギブアップ宣言」がもたらしたもの…なぜアメリカは「唯一の超大国」ではなくなったのか〉では、アメリカが「世界の警察官」を辞めることになった経緯や、それによる国際秩序の混乱について詳しく見ていく。
【つづきを読む】「世界の警察官」の座を降りたアメリカの「ギブアップ宣言」がもたらしたもの…なぜアメリカは「唯一の超大国」ではなくなったのか
