リアルとデジタルを融合したマーケティングやHRソリューションサービスを展開するmitoriz。同社ファウンダーの木名瀬博さんは「もともとの出発点は、アサヒビールのラウンダー事業だった。いっしょに働くパート女性たちの能力の高さに驚いた。その事実を世の中に知ってほしい、彼女たちと一緒に成長したいと、独立起業の道を選ぶことになった」という――。(第1回/全3回)

※本稿は、木名瀬博『「当たり前」を極める人だけがビジネスチャンスをつかむ』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

撮影=市来朋久
「『なんであのとき、やるべきことをやらなかったのか?』と悔やむのだけは嫌だった。それが起業の本当の動機です」と語るmitorizファウンダーの木名瀬博さん - 撮影=市来朋久

■ビジネスのヒントは意外なほど身近にある

私が主に家事を専業とする女性たちを活用してラウンダービジネスを始め、現在のmitorizに続く取り組みを始めたのは、そこにたしかな価値を見出したからです。

アサヒビール時代にラウンダーさんたちと一緒に仕事をして、彼女たちの能力の高さに驚かされたと同時に、働きたいけれどその機会に恵まれない女性たちが働けるようになる仕組みをつくれば、それは社会にとっても大きなメリットになるということに気がつきました。

実際にやってみて、そこにあったのは、文字どおり「宝の山」でした。

■日本全国の売り場を支えているラウンダー

ラウンダーの仕事といっても、よくわからない人もいるかもしれません。これは、メーカーの営業担当の代わりに小売店を訪問し、売り場づくりのフォローやアドバイス、販促活動などを行い、売上アップを図る業務です。

メーカーが自社の社員を使って自力で実行しようと思ったら、より多くの営業スタッフを用意しなければならなくなります。

しかし、人手を増やせば、必然的に諸経費が膨らむことになります。そこで威力を発揮するのが外部のラウンダーです。作業をアウトソースすることで、メーカーはコスト削減できるからです。

■同業他社と異なるビジネスモデル

一般的には、ラウンダー業務を外部に委託すると2割程度コストが削減できるといわれています。私たちmitorizなら、それよりもさらに2割以上安く抑えることができます。

理由は、他社とはビジネスモデルが異なるからです。

通常委託料は、スタッフ1人一日当たりの単価が決まっていて、何人を何日(何時間)派遣するかで料金が決まります。

仕事が終わらなかったときは、メーカーは追加料金を支払って人数や日数を増やさなければならなくなります。予算オーバーになれば、満足のいく結果が出る前に作業を終了させなければならなくなることだってあるでしょう。

その点、mitorizは出来高制で仕事を引き受けているため、予定より時間がかかったからといって追加料金が発生することはありません。

当社にはもう1つ、他社にはない特徴があります。それは、受注した業務結果のデータを定量的なデータとして提出する点です。発注したメーカー側は「これだけお金をかけてこれだけの効果が得られた」という費用対効果が明確にわかるようになっているのです。

■優秀な契約キャストの生産性は正社員の4倍

私たちが業務委託契約を結んでいるキャスト(ラウンダーや調査などの業務を行うスタッフ)は、現在全国に約10万人。主婦を中心とした多くの女性が活躍しています。

メーカーの営業と同じレベルの仕事ができるのか疑問に思う人もいるようですが、そうした心配は無用です。メーカーから依頼されるラウンダーの仕事で、非正規雇用の女性には無理、というようなものは実はありません。

むしろ、いくつかの現場を経験して慣れている非正規雇用の女性のほうが、社員よりもよっぽど手際よく作業するし、できあがりの質も上だといっていいくらいです。

だいたい、女性で正社員でないからメーカーの社員よりも能力が劣ると考えること自体、単なる思い込みにすぎません。

前職のアサヒビール時代にラウンダー業務をお願いしていたスタッフさんの仕事ぶりを数値化したところ、なんとラウンダー業務における生産性が「正社員の4倍」という結果が出たことがあります。しかも、人件費は3割安いのです。

■どうすれば働きたい女性にとって働きやすくできるか

ラウンダー事業を始めるにあたっては、どうすれば非正規雇用の女性にとってより働きやすくなるかを念頭に、ビジネスモデルを考えました。その結果、時給ではなく訪問単価制を採用することに決めました。

家庭で働く女性にとっていちばんの難題は、間違いなく時間の捻出です。

いくら条件がよくても、1日中拘束されるような仕事だと働ける人は限られてしまいます。しかし、訪問単価制なら、時間に縛られず、自分の生活スタイルに合わせて都合よくシフトを組むことが可能です。

たとえば、1週間に5軒分の仕事を請けた場合は、月曜日から金曜日まで毎日1軒ずつ訪問してもいいし、ある曜日にまとめて5軒回るというやり方もできます。「1軒いくら」の契約ですから、作業にかかった時間が30分でも1時間でも、報酬は変わりません。

仕事が終われば、今度はお客として、同じ店で夕食のおかずを買って帰れる点も、家事や育児で忙しい女性にとってはメリットだといえます。

写真=iStock.com/Adene Sanchez
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Adene Sanchez

■マニュアルと経験値で最高の売り場を実現

当社では、入店から退店までにやるべきことを順序立てて定めた、これぞベストプラクティスというキャスト用の「マニュアル」を用意しています。初めての人でもこれがあれば効率よく仕事ができる、きわめて実効性の高い指南書です。

ベースになっているのは、アサヒビール時代のスタッフさんの中から選んだ優秀な20人の働き方から抽出した「基本活動20」です。

ラウンダーに必要な働き方の要素を抜き出して整理していくと、当初その数は76項目になりました。その中から、どの店舗でも必ず実施可能な、売上との関連性がとくに強い20項目を選び出し、これを誰もが必ずやらなければならないラウンダーの「基本活動」とすることにしたのです。

社員が会議室で話し合って決めたものを、「これが正しいやり方です」と伝えても、しょせんは机上の空論です。その点、この基本活動は、どの項目も実際にスタッフさんが現場でやっていることなので、「できないのではなく、やる必要のある活動」と納得感があります。

「基本活動20」はスタッフさんたちの格好のマニュアルだといえるものでした。

書かれている項目を、入店から退店まで順番どおり正確にやっていけばいいのです。何度も繰り返していけばその動きが自分のものになってきて、楽にできるようになってきます。

これに修正を加えてさらに発展させたものが、現在のmitorizキャストのマニュアルになっています。

■競合のいないブルーオーシャン

黒字化するまではたいへんでも、その後加速度的に成長するのは、ある程度見込んでいました。それがこのビジネスの特徴だからです。

当社がラウンダー業務を受注し、年間通して活動を行うと、発注元であるメーカーの売上は確実に上がります。しかも、同業他社よりも2割は安いし、チェーン分析に使える数値データも手に入る。

当初は出来高制のメリットを実感できなくても、1年たってその成果を目の当たりにすれば、ほとんどの企業は継続を選びます。さらに、そこに新規の受注が加わるので、毎年座布団が積み重なるようにクライアントの数が増えていくのです。

当社がクライアントとしている消費財メーカーは全国に約400社あります。それらの企業が毎年新商品を投入するわけですから、需要は必ずあるのです。しかも、同業者はいても当社のようなビジネスモデルで競合するようなところはほとんどありません。

まさにブルーオーシャンです。

■次なる宝の山は「レシート」

今後、より力を入れていこうと考えているのが、レシートデータを活用したメーカーや小売りチェーンのマーケティング支援事業です。

少子高齢化で日本の人口が減ると、売上も縮小してしまいます。今後は顧客の確保や、つなぎとめが、とくに消費財メーカーにとっては重要な経営課題のひとつになるでしょう。

どんな商品をつくれば買ってもらえるのか、あるいは、それをいつ市場に投入すればいいのかなどを、正確に判断できるかどうかにかかっているといってもいいかもしれません。

その答えを知っているのは、消費者です。消費者の購買行動や店頭での声を大量に集めれば、これからどういう商品がどのように売れるかが自ずと見えてきます。

しかし、消費者に紐付いた情報は、POSデータではわかりません。レジ横の聞き取り調査で消費者のリアルな意見や感想を集めるという方法はありますが、マーケティング戦略に生かすだけの量を集めるには膨大なコストがかかります。

そこで、私が注目したのがレシートです。

レシートなら購入店名や日時に加え、商品名も記録されています。そこに個人の意見や感想を加えてデータ化すれば、メーカーが喉から手が出るほどほしがっている情報を得ることができます。

■10万人の女性キャストを生かした新サービス

当社のキャストには、家事に従事する女性を中心に10万人を超える人が登録しています。

木名瀬博『「当たり前」を極める人だけがビジネスチャンスをつかむ』(プレジデント社)

キャストの主な仕事はラウンダー業務ですが、そのほかにもクライアントの店頭プロモーションの展開状況、売り場レイアウトや商品陳列状況などを、消費者を装って採点する店頭調査という仕事もあります。

このときに、実際に指定された店舗を訪れたことを証明するために、キャストには100円程度の買い物をしてもらって、レシートをスマートフォンで撮影し、画像を報告書に添付してもらっていました。

当社にはもともとレシートを集める仕組みがあったのです。

この画像を集計してOCR処理すれば、どの商品がいつ、どこで、どれだけ売れたかがわかります。また、レシートの持ち主は特定できますから、その人から、なぜその商品を買ったのかといった理由を聞くことも可能です。

消費者データというのがこれまでにもなかったわけではありませんが、そこから消費者の購買行動が読み取り、企業にとって本当に有用なものとなると、ほとんど見当たりません。

今後追随するところが出てくるとしても、早く始めれば当分の間は独走できます。

■みんながやらないなら自分がやるしかない

非正規雇用の女性にしても、レシートにしても、私のほかに誰もその宝の山が目に入っていなかったかといったら、そんなことはなかったと思います。わかっている人はいたはずです。

しかし、それが市場として成立していなかったのは、わざわざビジネスにしたいと誰も思わなかったからでしょう。

たとえば、濁った水も処理を施せば飲み水になることはみな知っていますが、そのためには多くのプロセスが必要だとわかったら、自分でやろうという気に普通はなりません。それと一緒です。

みんながやらないなら、自分がやるしかないじゃないですか。それが私たちmitorizの考えです。

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木名瀬 博(きなせ・ひろし)
mitorizファウンダー
1988年、立教大学法学部卒業。同年、アサヒビール入社。2002年、アサヒビール100%出資にて店頭営業支援会社スマイルサポート(現アサヒフィールドマーケティング)の設立に関わり、企画部長に就任。1500人のパート契約スタッフをアサヒビールから受け入れ、PDAを活用したSFAの成功事例として注目を浴びる。2004年、アサヒビール社内独立支援制度に応募し、合格第1号事業として独立。2004年、ソフトブレーン・フィールド(現mitoriz)を創業し、社長に就任。2025年、会長に就任、現在に至る。
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(mitorizファウンダー 木名瀬 博)