〈年収2,000万円超〉の60歳・勝ち組サラリーマン〈退職金4,000万円〉をもらって華麗に会社を去ったが…5年後、同期会で噂になった「定年エリートの悲惨な転落ぶり」
多くの企業で60歳を定年としていますが、「老後のお金の問題」から仕事を続ける人がほとんど。しかしお金の問題がクリアしたら悠々自適な生活が待っている――とはいえないのが現実のようです。
60歳定年…最低限の生活を30年送るなら8,352万円が必要
2025年4月には、65歳までの雇用確保が義務となります。また現在、70歳までの雇用確保は努力義務となって、いずれは70歳までの雇用確保が義務となる日も訪れるかもしれません。ただ定年はこれまで通り60歳とする企業が多くを占め、いつまで働くかはサラリーマン個々が決める時代が訪れようとしています。
総務省『労働力調査』で男性の年齢別就業数・就業率をみていくと、2023年、50代後半と60代前半で60万人ほど、また60代前半と60代後半で90万人ほど就業数が減少しています。
【男性・年齢別就業数・就業率の変化】
20〜24歳:229万人/71.3%
25〜29歳:298万人/90.0%
30〜34歳:302万人/92.4%
35〜39歳:337万人/93.6%
40〜44歳:370万人/93.7%
45〜49歳:436万人/93.8%
50〜54歳:449万人/92.8%
55〜59歳:376万人/91.5%
60〜64歳:313万人/84.4%
65〜69歳:221万人/61.6%
70〜74歳:179万人/42.6%
75歳以上:135万人/17.0%
※数値左:就業数、右:就業率
ここから推測されるのは、多くの企業で60歳を定年としているものの、その時点では仕事を辞めず、65歳を過ぎてから仕事を辞めるという現実。60歳で仕事を辞めると無収入になり、ただ貯金が減っていくだけ……それであれば、年金の受け取りが始まるまでは働こうと考える人が多いのでしょう。60歳時点では老後に向けた資産形成がまだまだ不十分な人が多いという裏返しともいえそうです。
公益財団法人生命保険文化センター『「生活保障に関する調査 2022年度』』によると、夫婦2人で老後生活を送る上で必要と考える最低日常生活費は平均23.2万円。余裕のある老後を考えるなら平均37.9万円でした。60歳以降、最低限の生活を30年送ると考えると8,352万円、余裕のある生活を考えるなら1億3,644万円が必要ということになります。65歳から年金を受け取ることを考えて、収支的に問題なければ「60歳で仕事を辞めてもいいかな」と検討できそうです。
羨望の眼差しを送っていた同期のエリート…定年後のまさかの転落
山本哲也さん(仮名・65歳)。60歳で継続雇用制度を利用し、年金を受け取れるようになる65歳まで働き、先日、40年以上勤めた会社を退職したといいます。
60歳定年を前に、仕事を続けるかどうか、特に悩むこともなかったと山本さん。「無収入になるなんて、怖くてとてもじゃないけど無理。定年で辞められるのは、サラリーマンでも勝ち組だけですよ」といいます。実際、山本さんの会社でも、60歳定年後、ほとんどが継続雇用を希望。同い年で60歳で仕事を辞めたのは、知る限り1人だけだといいます。
――佐々木という同期は入社した時点で一目置かれるような存在で、すでにエースでした。定年前は本部長を務め、近々役員になるという話もありましたが、定年で会社を去りました。「もう十分だから」と。当時は羨ましくて仕方がありませんでした
定年後は地元である田舎に帰るといっていた佐々木さん。年収は2,000万円近くあり、定年退職金は月収の40ヵ月分の4,000万円を超えるだろうから、もう老後の心配はいらない。田舎に帰って、悠々自適に暮らすのだろう……そんな噂が広がっていたといいます。
――さすがに正確な金額はわかりませんが、本人から田舎に帰って農業でもすると聞いていました。ごみごみとした都会から離れてのんびり暮らす……そんな話に、当時は羨ましくて仕方がありませんでした
たびたび「当時は」という山本さん。その真意を聞くと、「悠々自適な老後、という話ではなかった」といいます。先日、65歳でほとんどの同期が会社を去ったのを機に、久々に同期メンバーで飲み会を開催。そこで佐々木さんの新たな噂話で持ちきりだったといいます。
実は佐々木さんが田舎に帰ったのは両親の介護のため。90歳近い父親・母親はともに寝たきり状態で、長男である佐々木さんは家族と離れ、単身、実家に戻ったというのが定年退職の真相でした。
ひとり介護するでも大変なのに、それが両親ともなると……その負担、相当なものであることは想像に難くないでしょう。「施設に入れたりとか、佐々木ならできたんじゃないのか?」と誰かが疑問を口にしましたが、「親を捨てるなんて親不孝もの!」と親戚から猛反対されたとか。「真面目な性格の佐々木のことだから、その言葉を真に受けたんじゃないか。両親の介護を一手に担っていたらしい」といいます。
すでに佐々木さんの両親は他界したらしく、介護負担からも解放……ただ話には続きがあり、実は重すぎる介護負担からか、佐々木さん、心の病を患ってしまったといいます。「結局、両親ともに介護施設に入り、佐々木も入院……最初から無理しなければ、こんなことにならなかったのに」と、同期のひとりがポツリとつぶやきます。入院はいまだに続き、佐々木さんの奥さんの疲弊も相当のものだとか。
これまで老老介護は、配偶者同士がほとんどを占めていましたが、長寿化に伴い、定年を迎えた子どもが高齢の親を介護するケースなど、多様化しているとされています。また厚生労働省『令和4年国民生活基礎調査』によると、65歳以上の要介護高齢者がいる世帯のうち、実に63.5%が主な介護者も65歳以上の老老介護であることがわかりました。
定年を迎えたら、年金を受け取るようになったら、悠々自適な生活を。そんな老後を実現するためには、お金の心配をクリアすればいい……どうやら、そんな単純な話だけではなさそうです。
[参考資料]
総務省『労働力調査』
公益財団法人生命保険文化センター『「生活保障に関する調査 2022年度』』
厚生労働省『令和4年国民生活基礎調査』