昨年5月に右足アキレス腱を断裂。懸命のリハビリの末、ピッチに戻ってきた南。21節・長崎戦で待望のJ復帰を果たした。(C)J.LEAGUE

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 南雄太、43歳。プロ26年目を迎えた大宮アルディージャの守護神が、不死鳥のごとくピッチに舞い戻った。

 6月7日に行なわれた天皇杯2回戦のジェフユナイテッド千葉戦。南は今季初めてスタメンに名を連ね、1−0で初陣を飾った。5月19日から指揮を執る原崎政人監督の公式戦初勝利、今季のアウェー初勝利でもある。

 南にとっては選手生命が危ぶまれるほどの大怪我からの復活。385日ぶりの舞台は格別だった。

「勝ったあとのみんなの雰囲気、スタジアムの雰囲気、サポーターの雰囲気はやはりいいなとすごく思った。これのために毎日、頑張っている。サッカー選手っていいな」

 昨年5月18日のJ2第15節、いわてグルージャ盛岡戦で右足アキレス腱を断裂する重傷を負った。第14節の大分トリニータ戦でJリーグ通算661試合出場(J1=266試合、J2=395試合)をマークし、GK最多出場数を塗り替えたばかりでの不運。全治6か月と診断され、人生初の手術を受けて、「サッカーをやれるとは想像できなかった」と振り返る。

 当時42歳のベテランが直面した過去最大とも言える試練。1か月ほどの入院生活で筋肉はみるみる落ち、足はどんどん細くなっていった。「自分のものではない足がついているみたい」な状況。
 
 頭では動かそうとしているのに「ピクリとも動かない足の指もあった。そもそもちゃんと歩けるようになるのか。感覚的なところもどうなるのか」と不安は膨らんだ。

「年齢も年齢なので、さすがにちょっともう終わりかな」

“引退”の二文字が頭をよぎる。下を向きそうな南を勇気づけたのは、同じ経験をした人たちの励ましだった。それは他競技の選手や一般の方々と多方面に渡り、サッカー界では一学年下の中村憲剛氏からもメッセージが届いた。

 中村氏は現役時代の39歳で左膝前十字靭帯損傷と左膝外側半月板損傷で、過酷なリハビリを経て約10か月後に戦列へ戻った“先駆者”だ。

「『絶対に辞めないでください』と連絡をくれた。復帰した時に『すごくいいものがあった。ぜひ、南さんにもそれを見てほしい』と。すごく嬉しかった。憲剛君もそうだし、怪我をされたいろいろな方の言葉はとても力になった。ちゃんとやれば戻るんだなって」

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 その南を大宮の理学療法士、宮間幸久氏が支えた。宮間氏は年齢やGKというポジションを考慮し、リハビリを計画。フィールドプレーヤーならば片足(南の場合は負傷した右足)のジャンプの高さなどが怪我をする前に戻らなくても戦列復帰できるケースもあるが、GKは左右差がパフォーマンスに直結してしまう。

「例えば右方向へのセービングだけが弱いと、パフォーマンスの低下が出ることになる」と宮間氏。南と密にコミュニケーションを取りながら、両足が遜色なく使えるよう目ざすなどリハビリを進めていった。

「一番、気をつけたのは焦らせないこと」だと言い、探究心旺盛な南に対して「ブレーキを踏む役割」も担って、二人三脚で取り組んだ。

 宮間氏の南評は「サッカーをやる、自分がやることに対して妥協のない選手。『これぐらいでいい』がない」。オフシーズンのある日の出来事が物語る。

 南に急用が入り、宮間氏のもとへリハビリメニューを「できないかも」との連絡があった。翌日は宮間氏も一緒に過ごす予定だったため、様子を見て組み直すかを決めるとしていた。

 実際、南に会うと「昨日、やったよ」と一言。急用を終えた南は午後7時頃にクラブハウスへ行き、午後9時頃までにメニューをやり遂げて宮間氏を驚かせた。
 
 真摯にリハビリを重ねた南は、今季始動から全体練習へ合流し、1月28日の水戸ホーリーホックとの練習試合で実戦復帰を果たした。荒天に見舞われたなかで約30分間プレー。豪快なシュートに即反応するなど驚異的な回復をアピールしたかに見えたが、当の本人は「飛びたくても飛べなかった。下から引っ張られているようだった」と明かす。

「頭と身体の感覚が違う」

 実戦に戻れたからこそ知るブランクの大きさ。「自分の描いたことができない。(動体視力も落ち)取れると思った瞬間、取れない。気持ち的にやれる喜びはもちろんあるが、やれることで逆にストレスになることがたくさんあった」。もどかしい日々を送り、シーズンスタート後、しばらくは試合に絡むチャンスもなかった。

 そういったなかでも“妥協のない”姿勢は貫き続け、ついに報われる。前述の天皇杯でフル出場して「憲剛君が言っていた通り」の景色が目の前に広がった。中村氏からは「おめでとうございます」と祝福が送られ、ここまでずっと並走してきた宮間氏は「安心したというか、ホッとした」と南のプレーを見守った。

 6月17日には目標だったJリーグに復帰し、アウェーのV・ファーレン長崎戦で今季初スタメンに。試合は0−2で負けたが、手応えも掴んだ。

「『このまま終わっちゃうかもしれないな』と疑心暗鬼になっている時期もあった。ただ、ここ1、2か月ぐらいで自分のコンディションがすごく上がってきていると実感できていた。そういうタイミングで試合に使ってもらえたのは、すごく良かった。またこうして(Jリーグの)ピッチに立てたというのは非常に感慨深かった」

 南は契約更新時、こうコメントしていた。

「43歳でアキレス腱断裂という大怪我を乗り越えた姿を、一人でも多くの方にお見せして、同じような境遇の方々に少しでも勇気や希望を与えられるような存在になることも、自分の今後の現役生活に課せられた一つの使命だと思っています。

 そのためにも、もう一度、NACK5スタジアム大宮のゴールマウスに立てるように、負傷前以上に日々精進していく所存です」
 
 いよいよ叶う瞬間がやってきそうだ。6月24日、ホームのいわきFC戦で先発の可能性が高くなった。シーズン後半戦の初戦でもあり、出場できれば「自分のできることをとにかくやる」と気合も十分。

 個人の危機は乗り越えたものの、チームが危機に陥っていてJ3降格圏の最下位に沈む。また、相手のいわきは21位と残留争いをするライバルで絶対に負けられない。

「気持ちが伝わる、魂がこもったプレーをしたい。見ている人にはそれが一番大事。いつも以上に闘志を持ってやりたい」

 自らの努力と周囲のサポートでつなぎとめたサッカー人生。情熱がある限り、まだまだ先は続いていく。

取材・文●松澤明美(大宮花伝)