J1第23節で実現した、首位の横浜F・マリノスと2位の鹿島アントラーズとの直接対決。戦前から注目された首位攻防戦は、しかし、意外なほどの"大差"で決着を見た。

 試合は序盤こそ、互角の展開で推移した。鹿島にもいくつかのチャンスがあり、それが決まっていれば、結果は別のものになっていた可能性もある。

 だが、前半半ばに差し掛かるあたりから、次第に横浜FMがボール支配を強め、試合が鹿島陣内で進む時間が長くなった。

 横浜FMは、ただボールを保持していただけではない。十八番のサイド攻撃を中心に相手ゴールへと迫り、特に後半はあわやの得点機をいくつも作り出した。

 得点こそ、前半にFWエウベルが、後半にMF岩田智輝が、それぞれ1点ずつをとったにすぎない。

 しかし、シュート数を見れば、横浜FMの17本に対し、鹿島はわずか2本。しかも、1点を追う鹿島が反撃態勢を強めなければならなかったはずの後半に至っては、1本のシュートも打つことができなかったのである。

 鹿島のレネ・ヴァイラー監督が「現状においては、相手のほうが強かった。横浜のほうがすべてにおいてよかった」と認めたように、内容的に見れば、2−0というスコアをはるかに上回る横浜FMの完勝だった。


2位の鹿島アントラーズ相手に2−0と快勝した横浜F・マリノス

 これで首位と2位との勝ち点差は8に拡大。横浜FMは、徐々に独走態勢を固めつつある。

 とはいえ、貴重な勝利を手にした横浜FMも、「今日までの準備期間は本当に簡単なものではなかった」(ケヴィン・マスカット監督)ことは間違いない。

 横浜FMは、先のE-1選手権に出場した日本代表に7人の選手を送り出し、最後の韓国戦に出場した選手は、中2日でこの日の鹿島戦を迎えていた。

 実際、韓国戦に先発出場したDF畠中槙之輔、DF小池龍太は、鹿島戦でベンチにも入っていない。韓国戦と鹿島戦の両方に先発出場したのは、岩田とMF西村拓真のふたりだけだ。

 一方、鹿島は日本代表にひとりも選出されておらず、チーム全体で練習できる時間や疲労度という点で言えば、横浜FMには相当なハンデが課されていたはずである。

 だが、終わってみれば、少々のハンデなどどこ吹く風の完勝。韓国戦に先発出場し、鹿島戦でも後半80分から途中出場したMF水沼宏太は「疲れはまったくなかった。もっと出たかった」と言って笑い、こう続けた。

「誰が出ても同じレベルで戦えるのが、自分たちの強み。みんなで勝ちとった勝利だと思う。2位相手に勝ちきれたことは大きい」

 今季の横浜FMは、試合ごとに選手を頻繁に入れ替えて臨んでおり、選手層の厚さはJ1随一。代表に7人の選手を貸し出したところで、何ら動じることはなかった。

「彼らが(日本代表に)選ばれた時は、チームも自分もうれしかった。やってきたことが選ばれる結果につながったのは喜ばしいことだ」

 そう話すマスカット監督は、頼もしい選手たちを絶賛する。

「チームに残っていた選手も、代表に行っていた選手も、全員が90分を通してメンタルの強さをしっかり見せてくれた。選手を誇りに思う」

 しかしながら、「今日までの準備が簡単ではなかった」のは、それだけが理由ではない。

 むしろ、それ以上に大きかったのは、FW宮市亮がせっかくの代表戦で大ケガを負ったことだったのではないだろうか。

 他の6選手とともに、E-1選手権で日本代表に選出されていた宮市は、それがおよそ10年ぶりの代表復帰だった。

 高校卒業後、Jリーグを経ることなくフェイエノールトへ加入(アーセナルからの期限付き移籍)した宮市は、デビューと同時に大ブレイク。一躍、期待の注目株となり、アルベルト・ザッケローニ監督時代に日本代表にも選出されたが、その後は両膝の靭帯断裂をはじめ、幾度も大ケガに見舞われ、地獄を味わった。

 それだけに宮市は、「10代のときは、5年後、10年後にこうなっていたいというのがあったが、今は一日、一日のマインドが変わった。サッカー選手としてプレーできることに、本当の意味での感謝ができるようになった」と語り、代表復帰を喜んでいた。にもかかわらず、ようやく戻った晴れ舞台で、またしても右膝の前十字靭帯を断裂。あまりに無慈悲な結果だった。

「宮市の話をすると感情的になってしまう」

 背番号17のユニフォームを身にまとい、試合後の記者会見に臨んだマスカット監督もそう語っていたように、本人はもちろんのこと、チームに与えたショックも決して小さなものではなかったに違いない。

 しかし、指揮官はこんな話を続ける。

「宮市が(代表から)帰ってきた時、個人的にも長い話をしたが、話し始めて2、3分後、彼は自分のことではなく、チームのことを考えていた。走ったり、ピッチに立ったりすることはできないが、ピッチの外からできることは最大限やると言ってくれた。悔しい思いをしたと思うが、今はチームのことだけを考えて行動している。そんな彼がチームメイトにいることを、クラブとしても誇りに思うべきだ」

 宮市の気持ちを痛いほどに理解するチームメイトたちが、これに何も感じなかったはずがない。

 ケガをした宮市から引退も考えたという話を聞き、「かける言葉を見つけるのも難しかった」と振り返る岩田は、言葉に力を込める。

「亮くんのために(持っている力を)出しきって、どんな形でもいいから勝つことだけを考えていた。それができてよかった」

 すでに手術をすることが決まっている宮市が、今季中に復帰することはまず不可能。横浜FMは貴重な戦力を欠いたまま、今季の残り試合を戦うことになるだろう。

 しかしだからこそ、水沼は決意の言葉を口にする。

「勝ち続けて、優勝して、アイツにカップを掲げさせる。大事な仲間のためにやりたいと思う」

 思いの乗ったチームは強い。優勝しなければならない理由ができた今、横浜FMはさらに強さを増すはずである。