豊洲のタワーマンション群〔PHOTO〕iStock

写真拡大

マンション販売が失速しているにもかかわらず、販売価格がなかなか下がらない。オリンピック特需後の不況を期待する声もあるが、価格は維持されると見る専門家は多い。

デベロッパーをはじめ不動産業界の人たちは、常に「今後、価格は上昇する」と吹聴するので、話は半分に聞いた方がよいが、客観的に見て価格が下がりにくくなっているのは事実である。しかも、首都圏への人口流入が加速する一方、新築マンションの供給は限られており、今後は中古マンションの価格高騰を招く可能性がある。

マンション価格の異変

不動産経済研究所が発表した9月の首都圏マンション販売戸数は2359戸と前年同月比で30%の大幅減となった。8月については、東京オリンピックの選手宿舎村を活用した大型物件「晴海フラッグ」の販売が始まったことから、前年同期比で2割増となったが、ここ半年はマイナスとなる月が続いている。

豊洲のタワーマンション群〔PHOTO〕iStock

つまり新築マンションの販売は失速した状況にあるわけだが、価格は一向に下がる気配がない。9月の平均販売は5991万円となっており、前年同月比で16.6%も上昇している。平均販売価格が6000万円というのは相当な水準であり、自己居住を前提とするならば、もはやギリギリのレベルといってよいだろう。

マンションが売れていないにもかかわらず、なぜ価格が下がらないのだろうか。理由はいくつかある。

ひとつは資材価格や人件費の高騰である。近年、日本以外の諸外国における経済成長が著しく、資材価格の高騰が続いている。経済の低迷によって、日本の購買力は年々低下しているので、資材の安価な調達が難しくなっている。

国内に目を向ければ、建設作業員の人件費が高騰しており、これも建設単価を押し上げる要因になっている。リーマンショック直後と比較すると、東京における建設コストは15%以上も上昇しており、デベロッパーは安売りしたくてもコスト的に難しいという状況だ。

もうひとつの理由は量的緩和策による超低金利である。

金利が極端に低下したことで、住宅ローン利用者の金利負担が大幅に低下し、その分だけマンション価格の上昇を吸収する余地が出来てしまった。低金利を背景に無理なローンを組む人が増えており、これが価格高騰に拍車をかけている。

一部からは、販売不振が長引くことで、デベロッパーが値下げに転じると期待する声も出ているが、上記の経済環境を考えると、その可能性は低いといわざるを得ない。むしろデベロッパーは、販売が低迷しているにもかかわらず価格を下げられないというジレンマに直面している。

日本の不動産市場の「特殊さ」

では、マンション市場は今後、どのように推移するのだろうか。筆者は首都圏の不動産市場には大きなパラダイムシフトが発生しつつあり、従来の常識とはかけ離れた動きが顕在化すると予想している。それは中古市場と新築市場の逆転である。

日本の住宅市場は流通する物件の85%が新築で占められているが、これは先進国の中でも極めて特殊な環境といってよい。米国や英国では、売買される住宅の8割〜9割が中古となっており、新築物件は極めて少ない。新築の比率が多少多いフランスでも、パリ中心部において新築マンションが分譲されることはほとんどなく、ほぼすべてが中古物件である。

日本の住宅購入者には「新築信仰」という奇妙な慣習があり、市場では新築物件の供給が最優先されてきた。住宅市場には「新築プレミアム」というものが存在しており、新しいというだけで価格が大幅に高くなる(これも収益還元による価格形成が原則の諸外国ではあまり見られない傾向といってよい)。

だが新築に過剰に偏った市場構造は、日本の住宅市場に大きな歪みをもたらしており、人口減少によってこうした弊害が徐々に顕在化しつつある。今後、人口減少のペースが激しくなるという現実を考えると、近い将来、不動産に関する従来の常識がまったく通用しなくなる可能性は高い。

人口減少というのは、各地で均等に人の数が減るのではなく、都市部への人口集約を伴う形で進行してくる。首都圏はその影響を大きく受けており、日本全体では人口が減っているにもかかわらず、東京都は大規模な人口流入が続いている。

東京都の人口は毎年10万人以上増えているが、日本全体では毎年20万人以上、人口が減っている。東京と日本全体はまったく逆の動きとなっており、この傾向は当分の間、継続する可能性が高い。

これは一種のフラクタル構造になっており、首都圏と地方を比較すると首都圏への集約化が進んでいるが、各県レベルでは、県の総人口減少と、県庁所在地への人口集約が同時並行で進んでいるはずだ。つまり人口減少時代というのは、都市部に人口が集中する時代であると言い換えることができる。

中古物件に人が殺到

先ほど述べたように東京都は毎年10万人ずつ人口が増えている。住宅も年間平均6万戸ほど増加しているが、一般的な新築分譲マンション供給数は約2万戸しかなく、残りの多くは賃貸か中古物件(あるいは少数の戸建て住宅)ということになる。つまり、現時点においても、新築マンションに住めるのは少数派といってよい。

首都圏のマンション価格は、資材価格や人件費の高騰から安くできない状況が続いており、大量の人口流入が続いていることもあり、価格が高騰しやすい環境にある。

現在、首都圏において自己居住目的で新築マンションを買っている層の多くは、親に頭金を援助してもらい、超低金利をフル活用して長期ローンを組み、夫婦共働きで返済することで何とか購入にこぎ着けている。一般的な労働者の年収には上限があるので、これ以上、価格が上昇してしまうと、中間層が新築マンションを手に入れることができなくなってしまう。

では、今後、首都圏に流入してくる人たちはどのようにして家を確保するのだろうか。一部はマンションの購入を諦め、一生賃貸に入居することを前提に、人生設計を行うことになるだろう。だがそうでない人たちは、新築に比して割安な中古物件に殺到する可能性が高い。

現在のマンション価格がほぼ上限に達しているのだとすると、首都圏など都市部における中古物件の価格は、理屈上、現在の新築マンションのレベルまで上昇する余地がある。しかも首都圏においては、中心部に近い便利な場所はほぼ開発され尽くしており、今後は土地の確保もままならない可能性が高い。

お手頃な価格帯の新築マンションが提供できない以上、今後のマンション市場は、中心部から遠いエリアの新築物件と、中心部の中古物件に二極化することになるだろう。中心部においては、新築と中古に著しい乖離があるという日本独特の市場環境が崩壊する。

行政も消費者も価値観の転換が必要

一連の動きは、人口動態の変化がもたらすマクロ的なものであり、この動きを人為的に止めるのはほぼ不可能である。日本全体としては、人口が減少し、それに伴ってマンションやアパートの空室率が大幅に上昇すると予想されている。こうした環境において、一部の都市圏だけ、郊外の新築マンションが増えるという現象はあまり望ましくない。

現在、急ピッチで人口増加が続く東京も、いつかは人口減少に転じるタイミングがやってくる。この時、郊外に住宅地が過剰に広がっていると、現在、問題視されている団地のゴーストタウン化と同じ問題を再び抱える結果となるだろう。

日本の住宅政策は、景気対策というニュアンスが強く、新築物件の供給にばかり焦点を当ててきた。だが、人口減少と都市部への集約化が進むこれからの時代は、行政側も根本的な意識の転換が必要である。首都圏を中心とした都市部においては、中古物件の再活用を促したり、良質な賃貸住宅を提供する方向性に政策を切り換える必要がある。

消費者も、何が何でも新築という概念は捨て、賃貸のままで生活を続ける、あるいは中古物件の取得を積極的に検討するなど、価値観を変えていくことが重要である。