大船渡・佐々木朗希(左)と星稜・奥川恭伸【写真:編集部、沢井史】

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最も評価が高い選手は? 佐々木の163キロを計測したスカウトは…

 101回目の夏が終わった。聖地で輝いたヒーローもいれば、夢叶わず散った球児もいる。彼らの中にやがてプロの世界で羽ばたく逸材はどれだけいるのか。

 中日のスカウト陣に現時点でリストアップされている主な高校生について聞いた。まず、単刀直入に最も評価が高い選手は誰か。米村明チーフスカウトは即答した。

「佐々木(朗希・大船渡)です。別格。高校時代の大谷翔平より上と判断しています。ストレートはもちろん、変化球も素晴らしい。あと、高身長ですが、牽制やバント処理もうまい」

 日本中に衝撃が走ったのは4月のU18日本代表合宿で163キロをたたき出した瞬間だ。実はこれを計測したのは中日の清水昭信スカウトのスピードガンである。

「近大のグラウンドでした。甲子園のスピードガンと同じ位置にしようと思い、やや一塁側のバックネット裏に陣取ったんです。投球練習でいきなり154キロ。本番で163キロ。でも、一番驚いたのはクイックで161キロが出た時です」

 その佐々木は岩手大会の決勝で登板を回避。体力面での不安を指摘する声もあるが、米村チーフスカウトは「その件で評価が下がることはありません」と明言。では、中日は佐々木を指名するのか。

「奥川(恭伸・星稜)、及川(雅貴・横浜)、西(純矢・創志学園)もこの夏に伸びています。春の段階では佐々木が頭一つ抜けていましたが、3人が近付いてきました。ドラフトは現場の意向も聞きますから、今は1人に絞れません」

奥川、及川、西…それぞれの評価は?

 奥川の評価はいかに。

 「勝って当たり前と言われる試合で勝つことほど難しいことはありません。これはプロで痛感することであり、勝ち切るピッチャーがどれだけ尊いか。まず、彼は本調子でない中、石川大会を勝ち抜いた。甲子園でも決勝は負けましたが、それまでは勝ち続けた。その調整力、集中力こそ価値があるんです」

 及川の成長は投球フォームにあるという。

「テイクバックで左肘がかなり背中側に入る投げ方でしたが、スクエアに修正し、カーブが決まるようになりました。我々は2ボールというカウントに注目します。この夏、及川はここで簡単にストライクをカーブで取れるようになりました。これが大きい。スピードは前より抑えられていますが、それでも145キロは出るので十分」

 西はどうか。

「大人になりました。味方がエラーした後の仕草や表情が変わったんです。感情を剥き出すのを控え、心は熱いままで態度がクールになりました。相変わらず、スタミナはすごい。彼の良さは体の強さです」

 BIG4に続く存在は誰か。

「霞ヶ浦の鈴木(寛人)ですね。春は背番号10でしたが、努力でエースナンバーを掴みました。プロで飯が食えるかどうかの1つに特殊球を持っているかどうかがありますが、鈴木はスライダーが独特。1回戦で履正社にやられましたが、あれは先頭バッターに打たれて舞い上がったから。大舞台の経験不足はありますが、素材は一級品です」

 野手はどうか。中日が渇望しているのは右の大砲だ。
 
「井上(広大・履正社)は長打力があり、ナゴヤドームでも一発が期待できます。タイプは広島の鈴木誠也。プロでは何回も同じ投手と対戦するので、大切なのは対応力。その点、井上は凡打の中にも意図を感じます。ただ、右膝のクリーニング手術をしているため、試合の終盤に足を引きずる場面があります。膝の調査は必要でしょう」

地元にも上位候補、東邦・石川は「野手評価」

 地元にも上位候補がいる。東邦の石川昂弥を推すのは東海地区担当の中原勇一スカウトだ。

「選抜優勝投手ですが、野手評価です。自分のポイントを持っていて、反対方向へ長打を打てるのが魅力。DeNAの宮崎(敏郎)のように率も残せるタイプだと思います。送球が安定しているのも長所」

 近年、地元志向でもある中、中原スカウトは甲子園未出場の選手をマークしている。

「菰野の岡林(勇希)はエースで4番。150キロを投げる上、足が速い。変化球を当てに行かず、フルスイングできます。外野手として育てたいですね。愛産大三河の上田(希由翔)も積極性があり、逆方向へ飛ばす力があります」

 得点圏であと一本が出ない戦いが続く中日。今、必要なのはチャンスに強い男だ。米村チーフスカウトは智弁和歌山の東妻純平の名前を挙げた。

「ランナーがいない時は一発を狙いますが、試合を左右するここぞの場面では必ずヒットを打つ勝負強さがあります。キャッチャーですが、内野手をできるセンスも持っています」

 今年のドラフト会議は10月17日。米村チーフスカウトは最後にこう言った。

「若狭さん、今年も当日は会社にいてください」

 私がドラフト取材に行くと、中日はくじを外すというジンクスがある。疫病神とまで呼ばれている以上、スカウト陣の1年の苦労を水の泡にすることはできない。ただ、社内待機を要望するということは競合覚悟ということか。運命の日が楽しみだ。(CBCアナウンサー 若狭敬一/ Keiichi Wakasa)
<プロフィール>
1975年9月1日岡山県倉敷市生まれ。1998年3月、名古屋大学経済学部卒業。同年4月、中部日本放送株式会社(現・株式会社CBCテレビ)にアナウンサーとして入社。テレビの情報番組の司会やレポーターを担当。
また、ラジオの音楽番組のパーソナリティーとして1500組のアーティストにインタビュー。2004年、JNN系アノンシスト賞ラジオフリートーク部門優秀賞。2005年、2015年、同テレビフリートーク部門優秀賞受賞。2006年からはプロ野球の実況中継を担当。
現在の担当番組は、テレビ「サンデードラゴンズ」(毎週日曜12時54分〜)「High FIVE!!」(毎週土曜17時00分〜)、ラジオ「若狭敬一のスポ音」(毎週土曜12時20分〜)「ドラ魂キング」(毎週金曜16時〜)など。著書「サンドラのドラゴンズ論」(中日新聞社)。