by REVOLT

1962年にアシックスの前身である「オニツカタイガー」のアメリカ販売権を取得した公認会計士のフィル・ナイトが、ゼロから世界規模に築き上げたブランド「ナイキ」。あらゆる企業が最初はスタートアップであり、それぞれの創業秘話を持っていますが、ナイキはどのようにして最初の5万足を売り上げたのかという歴史が公開されています。

How Nike sold its first 50,000 shoes

https://marketingexamples.com/direct/how-nike-sold-first-shoes

ナイキの創業者であるフィル・ナイトは1964年、会計士をやめ、車を走らせてひたすら靴を売っていました。初期のナイトの販売戦略は非常にシンプルで、太平洋岸北西部の陸上競技会を渡り歩き、コーチやランナー、そしてファンたちに靴を見せながらとにかく話しかけまくるというものでした。この戦略はかなりうまくいき、「注文書を書くのが間に合わないくらい」だったとナイトは述べています。



その後、ナイトは第一社員であるジェフ・ジョンソンを1965年に雇います。ジョンソンはなんと、10カ月で3250足の靴を売ったとのこと。ナイトは「自分ではあり得ない」偉業だとジョンソンについて述べています。

ジョンソンの戦略もナイトと同じで、陸上競技会に行き、フィールドに立ち、高校のアスリートのコーチたちとおしゃべりするというものでした。ただし、顧客と関係を構築することにおいて、ジョンソンの才能は他の追随を許さないレベルだったそうです。

ジョンソンは靴を売る度に、その顧客についてのインデックスカードを作っていたとのこと。カードには顧客の靴のサイズ、靴の好み、長距離/短距離の好みなど、あらゆる詳細情報が書き込まれました。



そしてこの情報と共にジョンソンはバースデーカードを送ったり、トレーニングのコツや、大会前の応援メッセージなどを送り続けました。いわば現代のメーリングリストのようなジョンソンのメッセージに対する返信率はなんと95%で、顧客が自分の人生やケガ、問題などについてジョンソンに打ち明けていました。

しかし、ジョンソンが有名になったのはメーリングリストだけが理由ではありません。あらゆる事柄について一歩踏み込むその行動力も大きな理由でした。

例えば顧客が「この靴は長距離に耐えられるだけの十分なクッションを持っていない」といえばジョンソンは、新しいラバーソールを持つ靴職人を雇い、数日もたたないうちに新しい靴を顧客に送りました。その顧客は後にボストンマラソンで優勝することになったとのこと。

そして1967年、ナイトはジョンソンに「ブルーリボン・スポーツという会社を東海岸で設立する」という課題を課しました。これは、ゼロからネットワークを再構築することを意味します。

ジョンソンは、再びインデックスカードを使った戦略を取り、東海岸における陸上競技会のスターを見つけるまで、ひたすら学生たちの家を回り、靴を紹介しまくりました。ここでもジョンソンは学生たちの家族に好かれ、夕食に呼ばれるようになり、学生たちと一緒に走ることで「尊敬するコーチ」のポジションを得ることになります。



by Pat Kwon

ジョンソンの卓越した能力を一言でいうと、「顧客をファンに変えること」でした。顧客がファンになったとき、その顧客はジョンソンの製品を他の人に対して売り始めるのです。

Instagramをスクロールしてランニングシューズの広告が表示されたとしても、人はそれを友だちに話すことはありません。

ジョンソンは情熱を持って人々を引きつけ、相手にぴったりの靴を作り、大会の前には激励し、家族と一緒に食事を取り、誕生日にはカードを送りました。人々はジョンソンの靴について知人に話すのではなく、ジョンソンのランニング・クラブ全体について人に話しました。

近年は、最初の顧客を自分の手ではなくデジタルで獲得しようとすることも多く、ガラス張りのオフィスの中からスーツを着た人々が「CPA、CPL、CTR、CLVを最適化しているなら、大事なのはオンラインになるよね」と発言しているかもしれません。

もちろん、Facebookページのフォロワーを増やすことも大事であり、幸運であれば1年で325フォロワーを増やせることもあります。しかし、ジョンソンが何もないところから始めて1年で3250組の靴を売り上げたことは心に刻んでおくべき事実。

スタートアップが成功するのは、創業者が会社を「成功させた」からであり、ユーザーをただ待っていたわけではありません。ナイトとジョンソンがどうやってナイキを成功させたのかという物語は、このことを示す重要な例といえます。

なお、フィル・ナイトの自伝は日本語翻訳版も購入可能。Amazonのレビューは以下の通りです。

SHOE DOG(シュードッグ)―靴にすべてを。 | フィル・ナイト, 大田黒 奉之 | スポーツ | Kindleストア | Amazon



進むべき道に悩む若い人に

お勧めしたい一冊です。彼ほどの成功を収められるかどうかは別としても、人の人生では無く、会社や組織の大小でも無く、自分の信念に従いご自身の道を見つけて欲しいと思います。本書でも紹介さているように、かつての日商岩井のような方々も自身の信念に従って、自身の道を進まれたのだと思います。還暦を後2年で迎える初老から幾ばくかの後悔も含めて、お勧めします。