記事のポイント
Temuは従来の中国直送モデルから脱却し、米国内の倉庫網と地元業者の獲得を本格化。和牛ステーキなどの食品販売を通じて「あらゆる商品が揃う場」への変革を急いでいる。
2025年の米少額免税制度の廃止により、越境通販のコストメリットが低下。Temuはこれに対応し、Shopifyとの連携や国内在庫の拡充を進めて事業の安定化を図っている。
食品分野への進出は、中国で農産物を足がかりに急成長した親会社ピンドゥオドゥオの戦略を再現するものだ。すでに冷凍食品ブランドがTemu経由で売上の2割を稼ぐ事例も出た。


和牛のハラミステーキ。ジャンボサイズのチキンウィング。フィレミニョン(牛ヒレ)ステーキ。これらは、格安通販サイトのTemuで、購入できるようになった食品のほんの一部だ。

中国から直送される安価な雑貨で有名なこのアプリは、3ドル(約450円)のスマホケースや5ドル(約750円)のドレスと同じカートに冷凍リブアイステーキを放り込んでもらおうと、買い物客を説得しようとしている。

SNSは困惑の声、それでもTemuは食品販売を加速



この動きはネット上で多くの困惑を呼んだ。インフルエンサーがTemuのステーキを調理する自分の姿を撮影した動画が、次々とバズっている。

@lifewithrekinaというクリエイターは、このEコマース企業との有料スポンサーシップの一環として、Temuのリブアイステーキをレビューした。彼女が2026年2月にステーキを称賛して以来、その投稿は170万回以上再生されている。

コメント欄ではより懐疑的な声が並んだ。「私はTemuで服すら買わないのに、あなたたちはあそこで肉を買うの!?」とあるユーザーが書き込んだ。「本当に何百万ドルも支払われたんだろうな。だってどれだけ大金を積まれても、Temuのステーキを食べる気にはなれないから」と別のユーザーは言った。「みんな、自分の医療費がタダじゃないってわかってる?」と書いた人もいた。

しかしジョークの裏側には、Temuが次にどこへ向かおうとしているのかという、より大きな物語がある。

2024年以降、Temuは航空貨物で小型パッケージを発送する「中国直送」モデルを超えて事業を拡大することに注力してきた。具体的には、米国内に倉庫を建設し、より多くの国内販売業者を誘致してきた。

Temuは、地元の業者や米国内在庫、認知度の高いブランドを揃えた「あらゆる商品が揃うマーケットプレイス」へと、自らを作り変えようとする姿勢を強めている。ステーキを含む食品は、その戦略の一部だ。

「彼らは中国からステーキを発送しているわけではない。地元の業者から仕入れているのだ」と、独立系Eコマースアナリストのユオザス・カジューケナス氏は語る。

「地元販売業者が加わったことで、Temuのマーケットプレイスは現在、シューズから家具、食品まで700以上のカテゴリーを取り扱うようになった」とTemuの広報担当者は声明で述べた。

「食品は比較的新しい追加カテゴリーのひとつであり、プログラムに参加している食品販売業者は米国を拠点とする企業で、米国内の在庫からフルフィルメントを行っている。カテゴリーレベルのデータは公には開示していないが、食品はローンチ以降急速に成長しており、食料品の定番から専門ブランド、地域ブランドまで取り揃えている」。

少額免税の終息とTemuの国内シフト



Temuは中国の親会社PDDホールディングスの子会社で、2022年後半に米国で事業を開始した。中国の工場や業者から直接発送される超低価格の商品を提供することで、瞬く間に米国でもっともダウンロードされたショッピングアプリのひとつとなった。

このeコマース企業は、米国の消費者に「億万長者のように買い物をしよう」と呼びかける派手なスーパーボウル広告を含む、高額なマーケティング攻勢によって急速に成長した。この戦略によりTemuは、米国におけるAppleの無料アプリダウンロードランキングでトップに躍り出た。

Temuの初期の成功は、少額免税(de minimis)制度にも大きく依存していた。

これは800ドル(約12万円)未満の小包を、最小限の通関審査でアメリカに無関税で持ち込める制度だった。しかし2025年、中国と香港を原産地とするすべての商品に対してこの抜け穴が塞がれたあと、Temuやシーイン(Shein)のような越境通販企業は大きな課題に直面することとなった。

中国から米国の消費者へ安価な商品を個別に発送することを採算可能にしていた経済的なメリットが、突如として大幅に魅力を失ったのだ。

同社は米国を拠点とする販売業者の採用を強化し、販売業者に国内倉庫での在庫保管を促し、何百ものカテゴリーへと品揃えを広げてきた。

2026年初めにはTemuは、販売業者がマーケットプレイスに直接商品を出品できるShopifyとの連携も導入した。

EC売上の20%を占めるまでに成長したブランドも



Temuの「食品&食料品」セクションを検索すると、食料品、飲料、輸入スナック、お菓子、冷凍食品、さらには米国を拠点とする販売業者からの魚介類や精肉などが、奇妙なほど雑多に混在しているのがわかるだろう。

なかには、コストコやウォルマートの商品を割高な価格で販売している転売業者からの出品もあるようだ。また、小規模な専門店からの出品もある。

そのなかでも、もっとも目立つ存在のひとつが、ザ・グランピー・ブッチャー(The Grumpy Butcher)だ。ニューヨーク拠点の冷凍食品企業で、Temuを通じてステーキ、チキンウィング、調理済みミールを販売している。

そしてインターネット全体に漂う懐疑的な空気にもかかわらず、Temu上のレビューはおおむね好意的で、ザ・グランピー・ブッチャーが取り扱う61商品の平均評価は4.6つ星となっている。

同社の商品はそれなりに人気がある。Temuの出品情報によれば、ザ・グランピー・ブッチャーはプラットフォームに参加して以来、Temu上で1万3000点以上を販売してきた(Modern Retailが見つけられたもっとも古いレビューは2025年6月上旬のものだった)。

同社のサーロインステーキ6本パックだけでも、これまでに2200個以上を販売している。TemuのWebサイト上のブログ投稿によれば、Temuはプラットフォームへの参加から5週間以内に、ザ・グランピー・ブッチャーのオンライン売上の12%以上を生み出したという。

TemuがModern Retailに語ったところでは、現在では同プラットフォームがザ・グランピー・ブッチャーのEコマース総売上の20%を占めているという。ただし、ザ・グランピー・ブッチャーはコメント要請に応じなかった。

ザ・グランピー・ブッチャーだけではない。カリフォルニアを拠点とするアジア系食料品チェーン99ランチマーケット(99 Ranch Market)はTemuを使って食料品を販売している。

さらに、ジョージア州を拠点とする南部の地域ブランドで家族経営のホッグス・ヘブン・ポーク・ラインズ(Hogs Heaven Pork Rinds)もまた、看板商品のポークラインズ(豚皮揚げ)を同プラットフォームで販売している。

姉妹会社ピンドゥオドゥオの成長軌跡を映す



それでも、これでTemuが次のインスタカート(Instacart)になろうとしているという意味ではない。食品の大半は冷凍や常温保存可能なものであり、当日配送を前提とした生鮮食料品ではない。

Temuでステーキを買うという行為は、依然として少し非現実的に感じられる。何しろこのアプリは、米国の消費者を、模倣品ガジェットや怪しいほど安いレギンスに夢中にさせてきた、まさにそのアプリなのだから。

「Temuといえば、中国製の安価な商品の代名詞だ。私の中には依然としてそんな古いイメージが残っているため、奇妙に映る」とカジューケナス氏は言う。

調査企業イーマーケター(eMarketer)のプリンシパル・リテール・アナリストであるスカイ・カナベス氏によれば、Temuの食品分野への進出は、姉妹会社であるピンドゥオドゥオ(Pinduoduo)の成長を映し出すものだという。

ピンドゥオドゥオは食品や農産物に重点を置くことで、中国で爆発的な支持を得た。Temuと同様に、ピンドゥオドゥオはサプライヤーと消費者のあいだの仲介業者を排除することで、大幅に割引された食品を提供することが可能になり、地方都市や中小都市の数百万人のユーザーを獲得している。

「Temuが米国で事業をはじめて以来ずっと、彼らが食品で何か仕掛けてくるのを待ち続けていた」とカナベス氏は語った。

「この動きは中国におけるピンドゥオドゥオの原点を彷彿とさせる。ピンドゥオドゥオは、小規模事業者、農家、農業関連企業が中国全土に商品を販売できるプラットフォームを、長年にわたって提供してきたアプリなのだ」。

少額免税措置の終了が同社に致命傷を与えるという予測にもかかわらず、Temuは事業が安定してきているようだ。Temuの親会社PDDホールディングスは最近、ホリデーシーズンに四半期売上高の成長率が加速したと発表した。

これは、関税変更や貿易圧力に絡む数四半期の不安定さを経て、事業が再び勢いを取り戻しつつあることを示唆している。カジューケナス氏は、少額免税措置がなくなる頃には、Temuはすでに混乱を生き延びるのに十分なほど大きく、認知された存在へと成長していたと指摘する。

彼の表現を借りればこうだ。「あの恩恵を失い、一部の価格を引き上げたとしても、顧客にとっての価値提案が完全に台無しになったわけではなかった」。

[原文:Marketplace Briefing: Temu wants to sell you a steak now]

Allison Smith(翻訳、編集:藏西隆介)