『名探偵コナン ハイウェイの堕天使』©2026 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会

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 劇場版『名探偵コナン』シリーズの勢いが止まらない。2026年4月10日公開の最新作『名探偵コナン ハイウェイの堕天使』も10日で興行収入が61億円に達し、4年連続の興行収入100億円超えが見えてきた。国民的アニメと呼ばれる『ドラえもん』の映画でも届かない実績をコナン映画があげ続けられるのはなぜなのか?

参考:『名探偵コナン』を代表する“最強女性キャラ”といえば? 萩原千速&毛利蘭らの武勇伝も

 観られているから観られる。トートロジーでしかない言い方だが、劇場版『名探偵コナン』シリーズのこの何年かの人気ぶりを考えたとき、やはり真っ先に浮かんでしまう言葉だ。皆が観ている映画だから自分も観ておかなくてはいけないとか、安心して観られるはずだといった意識が観客の足を映画館へと運ばせ、動員記録や興行収入の記録に貢献させるのだ。

■30年にわたる長期シリーズのファン 元より『名探偵コナン』のシリーズは、青山剛昌による原作の漫画を読んでいたり、TVアニメを観ていたりする児童から中高生といった層に加え、30年に及ぶ漫画やアニメの歴史が生み出した大人たちもファンのまま残っていて、ベースとなるファンの層が分厚く広い。その膨大な基礎票から放たれる口コミなり評判なりが、名前だけ知っていたり少しだけ興味を持っていたりする層も引きずり込んで拡大していった結果が、昨今の数字に繋がっている。

 ベースとなるファン層が積み上がった理由は説明するまでもない。1994年から『週刊少年サンデー』(小学館)で連載が始まった漫画が面白く、1996年からスタートしたTVアニメもワクワクするような謎解きをエピソードごとに繰り出してきて楽しませてくれた。黒ずくめの組織によって子供にされてしまった江戸川コナンを中心に、毛利蘭や毛利小五郎、コナンの学校での友だちに阿笠博士といった面々に安室透ら公安が絡み、黒ずくめの組織から逃れてきた灰原哀も加わって関心を持たせ続けた。

 他にも赤井家であったり高校生探偵の服部平次であったり同じ青山の漫画『まじっく快斗』に登場する怪盗キッドであったりと、絡むキャラを重ねていって物語の世界を広げ、誰もがどこかしら引っかかりを覚えるようなフックをいくつも作っていった。それが計画的だったのか、長期化する連載の中で増やさざるを得なかったのかは分からないが、結果としてバリエーションに富んだエピソードを繰り出すことができるようになった。

 147億円の興行収入を確保した2025年の『名探偵コナン 隻眼の残像(フラッシュバック)』は、長野県警が絡むエピソードの劇場版で、過去に登場した大和敢助や上原由衣、そして諸伏高明というコナンに負けない明晰さを持ち、速水奨という超人気声優がアニメでは声を演じているキャラを引っ張り出して、その久々の活躍を観ておかなくてはと思わせた。元より人気の安室も絡めることでファンサービスもバッチリ。小五郎のいつにないカッコよさも話題となって、今回は観なくてもいいかといった気を起こさせなかった。

 こうしたエピソードの出し入れの巧妙さが、近年の劇場版コナンで強まっていることも、100億円超えが続いている背景にはありそうだ。過去最高の158億円を稼ぎ出した2024年の『名探偵コナン 100万ドルの五稜星(みちしるべ)』は、平次と遠山和葉のラブコメに怪盗キッドの登場、そして再度のTVアニメ化が動いていた『YAIBA』のキャラも入れた青山ワールドの総力戦で関心を煽った。

■モチーフを更新しつづける劇場版シリーズの挑戦 悲願ともいえる100億円を超えて138億円の興行収入を稼ぎ出した2023年の『名探偵コナン 黒鉄の魚影(サブマリン)』は、人気の黒ずくめの組織が登場して、コナン同様に追われている灰原に危機が迫るというシリーズでも関心の高いテーマをぶち込み、カーチェイスや格闘といったアクションも見せて観客の満足感を最大級に引き上げた。コナンといえばやはり黒ずくめの組織との戦いという“原点”を思い出させ、その決着を観るまでは離れられないという意識を改めて喚起させた。

 100億円の大台を初めて達成した実績を鑑みて、次もその次も黒ずくめの組織でいけばいいのにといったことにはならない点も、劇場版『コナン』の巧妙さであり長く愛され続けている理由だ。立て続けに同じテーマをぶつければ、観客の間に「またか」という気分が起こってしまう。過去の蓄積の中で散りばめたフックを都度に引っ張り出して、今回はいったいどのようなテーマでどのキャラがどう活躍するのかといったワクワク感を抱かせ続けることで、次もまた次も観たいという気にさせられる。

 それが、劇場版コナンの衰えない人気の理由の一端だろう。

 加えて、毎回毎回、しっかりとした宣伝戦略を立てて観客の中にある劇場版コナンへの意識を途切れさせないところがある。2018年に開催された「AnimeJapan2018」では、その年公開の『名探偵コナン ゼロの執行人』でどのような宣伝活動が行われたかを紹介する展示が行われた。この『ゼロの執行人』では、前年の『名探偵コナン から紅の恋歌(ラブレター)』上映時に、安室透を演じる古谷徹の声で「ゼロ」という声だけで次回作を予告。安室の話になると期待させた。

 11月に安室も登場するキービジュアルと『名探偵コナン ゼロの執行人』というタイトルを発表して気分を一気に盛り上げた。そのあたりから、「AnimeJapan2018」の会場で紹介されていた「ロゴも宣伝だと思っています」という宣伝プロデューサーのコメントどおりに、安室をイメージできるデザインのロゴを作り、キャッチコピーでも安室とコナンの対峙を想像させるものを採用して、何が描かれる映画かをジワジワと浸透させた。これによって、ファンが作品にのめりこめるような雰囲気が生まれていった。

 最新作の『ハイウェイの堕天使』でもそうした戦略が続けられている。『100万ドルの五稜星』公開時にオートバイの音や横溝重悟の声で神奈川県警ものだと想起させ、程なく白バイ隊員の萩原千速を予告映像に登場させていった。千速は安室や黒ずくめの組織ほどシリーズでは目立った存在ではなかったが、バイクで疾走するシーンも登場する予告映像が流れ、公開間際に過去のTVシリーズへの登場エピソードが配信サイトでピックアップされたことで、一気にヒロイン感を高めた。

 結果、活躍する萩原千速に憧れる女性の観客を大勢劇場に引き寄せた印象だ。元より女性ファンの多いシリーズだが、自分たちが気持ちを添えられるキャラの存在に惹かれた観客でどの劇場も例年どおりかそれ以上の賑わいを見せている。

 長い歴史の中で蒔かれた様々な種を埋もれさせることなくしっかりと育て続け、ここぞという時に大輪の花として咲かせた上に、宣伝によって多方面に知らしめる繰り返しが、劇場版コナンを毎年のルーティン以上の存在にして、興行収入や観客動員の記録を伸ばし続けている。(文=タニグチリウイチ)