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2025年から2026年の年越し、どのように過ごしましたか? 「テレビを観ながらカウントダウン」 「お酒に酔って気づくと年が明けていた……」「初詣。良い一年になりますようにと手を合わせながら」。それぞれが大切な人と素敵な年越しを過ごしたことでしょう。では「老人ホーム」に入居している人たちは、どんな年越しをしたのか、介護施設での勤務経験がある武田拓也FPが、80歳男性の事例を紹介します。

高齢化が影響?…日本の「年末年始の過ごし方」傾向

年末年始の過ごし方は家庭ごとに大きく異なります。

株式会社フォーイットが行った調査によると、20〜69歳の男女500人に「大晦日から元旦にかけてどのように過ごすか」を尋ねたところ、最も多かったのは「年越しそばを食べる」(56.6%)で、次いで「テレビ番組を観る」(42.0%)、「紅白歌合戦を観る」(29.4%)という結果でした。いずれも昔ながらの年越しスタイルがいまも広く受け継がれていることがわかります。

一方、年末年始に「旅行」や「外出」などアクティブに過ごす人はごくわずかであり、静かに年越しを迎える人が多いのが実情のようです。

[図表]大晦日(から元旦にかけて)をどのように過ごしますか? 出典:株式会社フォーイット(https://www.afi-b.com/beginner/archives/tsushin/14858/)※複数回答可

この背景には、日本が「高齢化社会」であることも影響していると考えられます。

現代の高齢者は、配偶者を亡くしたあと1人で暮らす人も少なくありません。こうした場合、介護が必要になった際の選択肢として挙がるのが「老人ホーム」への入居です。

老人ホームで仲間たちと安心して年末年始を過ごす人もいる一方、「本当は家族と過ごしたかったのに叶わなかった」という複雑な思いを抱える人も少なくありません。

息子から勧められ老人ホームに入居した80歳男性

佐藤光治さん(仮名・80歳)は、数年前に妻に先立たれてから、月19万円ほどの年金で一人暮らしをしています。数十年前に建てた自宅は、浴室もトイレも昔ながらの造り。段差も多く、移動するのがやっとです。

そんな光治さんが心配で、たびたび様子を見に来ていた息子の智博さん(仮名・50歳)はある日、光治さんに「老人ホーム」への入居を勧めます。

父に対する心配はもちろん、毎週の実家通いが時間的にも費用的にも負担となっていたことも理由でした。

当初は拒んでいた光治さんですが、息子に負担をかけていることの負い目もありいくつかの施設を見学したところ、気に入った施設が見つかり入居を決断。施設はきれいで、設備も充実しており、専門スタッフのサービスも丁寧で安心感があります。

「ここなら安心して暮らせそうだ」

光治さんも息子の智博さんもひと安心です。

ただ、光治さんにはひとつだけ心配していることがありました。

光治さんの心配ごと

「次の正月はどうするんだ?」

毎年、年末年始の息子一家の帰省が、光治さんの一番の楽しみだったそうです。

施設の様子を見に来た息子に光治さんが訊ねると、智博さんは少し考えてからこう言いました。

「う〜んそうだな……みんなで旅行にでも行こうか。気分転換になりそうだし。外出許可とか諸々確認しておいて」

「そうか! 旅行なんて久しぶりだし、体力つけておかないとな」

光治さんは「年末年始の旅行」を楽しみに、準備を進めることにしました。

しかし……。

叶わなかった「正月旅行」の夢

親が老人ホームに入ったことで安心したのか、息子もなかなか施設に顔を見せなくなり、12月に入ってもなんの連絡もないことから、光治さんは智博さんに電話をかけました。

「もしもし。正月の旅行、どうなった?」

すると、焦った声色で息子は言いました。

「あ〜……ごめん、中止になりそう」

理由を聞くと、「子どもの友人家族と熱海温泉に行くから」というもの。予想外の返答に、光治さんはショックを隠せません。

――そして、老人ホームで迎えた新年。光治さんの自室は静まり返り、隣の部屋から漏れ聞こえるテレビの音が、かすかにお正月の雰囲気を伝えています。

施設の入り口には門松が立ち、食卓には豪華なおせち料理が並びますが、家族と過ごす年末年始とはまるで違っています。

老人ホームなんて、入るんじゃなかった……」

佐藤さんは孫に渡すはずだったポチ袋を握りしめたまま、肩を落としました。

老人ホームのメリット・デメリット

老人ホームへの入居は、専門スタッフによる質の高いケアが受けられ、家族の介護負担が軽減されるという大きなメリットがあります。バリアフリーの環境や食事・介護サービスが整っている点も、自宅での生活と比べて快適で魅力的です。

一方で、「家族と過ごす時間」が以前より少なくなってしまうというデメリットはあります。それまで頻繁に様子を見に来てくれていた家族であっても、親が施設に入ったことで仕事や自分たちの生活が優先され、面会の頻度が減ってしまうケースは珍しくありません。

年に数回の面会や電話では、入居者本人にとっては「物足りない」と感じることもあるでしょう。特に、年末年始のような“特別な時期”には、その思いがより強くなる傾向にあります。

老人ホームへの入居を後悔する人の特徴

入居者の「こころのケア」は、施設運営においても大きな課題のひとつです。スタッフは日々のケアに細心の注意を払っているものの、家族と会う機会が少ない高齢者ほど孤独感を抱きやすいという報告もあります。

佐藤さんのように、家族との時間に期待と失望を繰り返した結果、老人ホームに入居したことを後悔する高齢者も少なくありません。

望まれる「心のケア」と関わり

老人ホームは、介護が必要になった高齢者に対し生活の安全と安心を提供する重要な場です。しかし、「安心した老後」を送るためには、物理的なケアだけでなく、それまであった家族との心のつながりをどう保つかという視点も重要になってきます。

支える家族としては、本人が「家族に忘れられてしまった」と感じることのないよう、日々の生活のなかに自然と「家族とのつながり」を感じる仕組みや意識が求められます。

老人ホームで暮らす高齢者にとって、家族と過ごす時間がなによりも豊かで大切なひとときなのです。

武田 拓也
株式会社FAMORE
代表取締役