『名探偵コナン 隻眼の残像』副音声付き上映の贅沢さ キャストが語る“もうひとつの物語”
シリーズ史上最速で公開19日間の興行収入が104億円を突破し、観客動員は920万人を超えたシリーズ第28作『名探偵コナン 隻眼の残像(フラッシュバック)』。本作では、シリーズ初の試みとなる副音声付き上映が実施されている。
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オーディオコメンタリーに参加したのは、江戸川コナン役の高山みなみをはじめ、毛利蘭役の山崎和佳奈、毛利小五郎役の小山力也、大和敢助役の高田裕司、諸伏高明役の速水奨、上原由衣役の小清水亜美の主要キャスト6名。副音声では、アフレコ現場の裏話や上映中の各シーンに対する感想などを、軽快なテンポで語り合っている様子が楽しめる。クロストークならではの自由なやりとりも心地よく、この6人のトークを約2時間たっぷり楽しめるという点だけでも、十分に贅沢な内容だ。
実際に長野を訪れたキャストによる、現地にまつわるエピソードも、副音声の大きな見どころのひとつ。たとえば、高山が佐久平駅を訪れた際の体験や、劇中で描かれた蘭がタクシー内から富士山の写真を撮るシーンについて、実際に足を運んでみて気づいた発見や違いが語られる場面もある。さらに、作中で登場した印象的なパラボラアンテナにまつわる小話もあり、ファンなら思わずニヤリとしてしまう内容となっている。
本作の副音声では、こうした作品にまつわる小話の数々も魅力だが、特に注目してほしいのは、キャスト陣が語る“時代とともに変化してきたコナン”についての見解だ。たとえば「シリーズ開始当初はまだシネコンというものがなかった」「当時はセル画を実際にもらっていた」といった、今とは違った制作現場の裏側や、懐かしむようなエピソードが次々と飛び出す。また、コナンの収録は基本的に1日で行われており、今回はなんと朝10時から夜11時半近くまで収録が続いたという。高山みなみによると、過去最長は『名探偵コナン 絶海の探偵(プライベート・アイ)』で、深夜2時半までかかったこともあったそうだ。
少し話は逸れるが、こうした副音声の試みは、リピート視聴が当たり前となった今の映画体験にこそフィットしているように思う。SNSでの感想共有や“考察文化”が浸透した今、一度観て終わるのではなく、細部に意識を向けながら何度も劇場に足を運ぶ観客も珍しくない。副音声は、そんな視聴スタイルに寄り添い、物語に重ねて“もうひとつの物語”を楽しめる新しい体験を提供してくれる。
■『すずめの戸締まり』再上映にみる、リピート体験の魅力 たとえば『すずめの戸締まり』では、Blu-ray&DVD発売を記念した「おかえり上映」で、新海誠監督と三木陽子助監督によるオーディオコメンタリーがスマホアプリで配信され、大きな話題を呼んだ。物語の核心に迫る内容から、制作現場での葛藤、意外な裏話まで、何気ない言葉が理解と没入感を一層深めてくれる。
リピート体験を後押しする仕掛けとして、週替わり特典が「所有の楽しさ」だとすれば、副音声は「理解が深まる楽しさ」。キャストの言葉や制作の舞台裏に触れることで、観客はもう一歩、作品の内側へと踏み込める。
キャストトークの音声や映像が特番やBlu-ray特典として収録されることはあっても、それを映画館の大スクリーンで楽しめる機会はそう多くない。その点で、今回の『名探偵コナン 隻眼の残像』は、“理解の深まり”を体感できる副音声上映を、エンターテインメントとして高い完成度で成立させた好例といえるだろう。
複数回鑑賞が浸透した今、副音声は、より自由で開かれた映画の楽しみ方として、これからさらに広がっていくだろう。複数回に渡って劇場に足を運ぶ理由が“観る”だけでなく、“聴く”ことにもなる。そんな新しい映画体験の時代が、すぐそこまで来ているのかもしれない。(文=すなくじら)
