「年収800万以上で、早慶以上」を条件に婚活する32歳女。しかし、現実は…
東京都内には、“お嬢様女子校”と呼ばれる学校がいくつもある。
華やかなイメージとは裏腹に、女子校育ちの女たちは、男性の目を気にせず、のびのびと独自の個性を伸ばす。
それと引き換えに大人になるまで経験できなかったのは、異性との交流だ。
社会に出てから、異性との交流に戸惑う女子は多い。
恋愛に不器用な“遅咲きの彼女たち”が手に入れる幸せは、どんな形?
▶前回:「一生独身かもしれない…」真剣に婚活を始めた32歳女が悟った真実

恋愛経験が乏しいお嬢様SE:加奈子【後編】
「実は、私、母親に勧められて結婚相談所に入ったんだよね」
金曜の夜、豊女時代の同級生・夏帆とミズキと、新宿三丁目『もつ煮込み専門店 沼田』で集まったときに、私は、近況報告をした。
なかなか結婚相談所事情を聞く機会もないのだろう。2人とも興味津々だ。
「加奈子、理想高そうだからな〜。相手に求める条件は?」
相手の条件にこだわりがなく、彼氏が途切れないミズキからの質問が飛んでくる。
「最低年収800万円で、早慶以上。都内在住で…年齢は40歳まで広げてるんだけど…。
できれば東京出身で私立大卒で、長男以外がいいとは言ってる…」
「厳しすぎ!そんなに経歴で独身となると、こじらせ男ばっかりになるよ」
「やっぱり、そうかな…。それに、もし性格がいい人がいたとしても、引く手あまただよね。私なんか選ばれないかも」
先日コーディネーターの高島さんから告げられて知った“自分が断っているつもりだったが、実は、男性側からお断りされていた”という事実を思い出し、胸が苦しくなる。
― やっぱり、この条件って厳しすぎるのかな。もう少し自分の身の程をわきまえた方がいいのかも…。
「例えば、どの条件を変えるべき?」
「年収はそのままでいいんじゃない?やっぱりお金は大事だもん。学歴はMARCH以上で十分よ!地頭がよければOK」
大学受験をして共学に通い、この中で一番恋愛上級者の夏帆が経験にもとづいてアドバイスしてくる。
「それに、都内在住の条件も必要?結婚ってなったら2人で住む場所考えればいんだから、まずは、出会わないと」
― 確かに、条件を緩めれば、いいなって思える人ともっと出会えるかもしれないよね…。
次につながる出会いがないことに私は焦りを感じていたが、まずは会う人の幅を広げてみることにした。
◆
1ヶ月後。
夏帆とミズキのアドバイスを受け、高島さんと条件を下げる相談をしてから、興味を持てる男性との出会いが圧倒的に増えた。
そして今日、ようやくもう一度会ってみたいと思える男性に出会った。
大手不動産会社に勤めている36歳の亮介さん。
彼は金沢出身で、立教大学を卒業している。元々の条件では出会えなかった人だ。
早速電話で、コーディネーターの高島さんに報告する。
「亮介さんとまたお会いしてみたいなと思って…」
「よかったです!彼も加奈子さんとまた会いたがっていると聞きました。仮交際おめでとうございます!」
電話越しの高島さんの明るい声色に、私はほっとする。

「早速次のデートの調整をしましょう。今度は、ドライブとか夜にお酒も飲んで食事をされるのもいいと思います」
初回は、ホテルのラウンジでお茶をするのが決まりとなっているので、かしこまった雰囲気のデートになる。
でも、夜の食事となると、リラックスできるので話も弾みそうだ。
「仮交際の期限は3ヶ月。それまでにご結婚の意志を固めてください」
「3ヶ月ですか。あっという間ですね…」
「仮交際は3名まで同時に進めることができるので、他の方と比較しつつ決めていただけますよ。結婚を目的として活動しているんですから、ダラダラと長い期間交際する必要はありません。
毎週デートすれば、10回以上会えるんですから、その中でしっかり見極めていきましょう!」
― ということは、このままうまくいけば、年内に婚約とかあり得るかな…。
高島さんの勢いのある言葉で、亮介さんとこれから関係を深めていくことが楽しみになってきた。
◆
1週間後の土曜日。
今日は、亮介さんとのデートの日だ。
高島さんから届いたお店の詳細を見ながら、銀座トレシャスにある『サーラ アマービレ』に向かう。
― こんな高級そうなレストランで食事するなんて、ちょっと緊張するな…。
エレベーターで12階まで上がり、店内に入ると、まだ亮介さんは到着していないようで、先に席に案内される。
約束の時間になっても彼は現れず、慣れない高級レストランにひとりで待たされている状況に、少し落ち着かない。
「遅れてすみません!!」
10分ほど遅れて、亮介さんがやってきた。
「全然大丈夫です!」
「道が混んでて、思ったよりもタクシーの時間がかかっちゃって…ごめんね」
急いできたのか、少し息が上がっている。
申し訳なさそうに、慌てて登場した彼を責めることはできなかったが、正直、仮交際初回のデートに余裕を持って来ない彼に対して、少しがっかりした。
― 時間にルーズな人なのかな…。
3ヶ月以内に結論をださないといけないと思うと、相手をしっかり観察しないと、と厳しい目で見てしまう自分がいる。
― これも相談所ならではの“期限付き交際”だからなのかな…。よくない、よくない!
私は気を取り直して、亮介さんとのデートを楽しむことに集中することにした。

コース料理はとても美味しかったし、飲み慣れないワインも、料理とのペアリングで少しずつ運ばれてくると、味の違いがわかる気がして、思いのほか楽しめた。
「加奈子さんは、普段ワインは飲む?」
「実はあんまり飲み慣れていなくて…。
でも、お食事に合わせて出てくるので、詳しくなくても今日はとても楽しめました!」
「実は僕も、こういうオシャレなレストランで女性と食事をする機会がそんなに多くなくて、お店もすごく悩んだんだけど…少し背伸びして選んじゃったんだよね。
普段は、ビールばっかり飲んでいるよ」
本音をこぼした亮介さんに、少し心を開いてくれたのかなと、私は嬉しくなった。
「次は、居酒屋とかでおつまみでも食べながら飲むのはどうですか?私、ハイボールも好きです!」
私とのデートのために少し背伸びをしてくれた彼と、素直にまた会ってみたいなと思った。
決断のとき
「お約束の3ヶ月になりますが、亮介さんとはどうされますか?」
久しぶりに恵比寿の結婚相談所を訪ねると、高島さんが単刀直入に聞いてきた。
「すぐに亮介さんと結婚という決意は固まっていないのですが、かといって、もうこれでお別れと思うと悲しいです」
到着早々に切り出された気の重くなる質問に、私は抽象的な言葉ばかり並べてしまう。
亮介さんとも毎週のようにデートを重ねてきた。それは間違いなく、彼に興味があるからだ。
でも、毎回デートに遅れてくる時間にルーズなところや、仕事に対する上昇志向があまりないところなど、気になるところもある。
それに、私は、1ヶ月ほど前から39歳の銀行マンとも仮交際をスタートさせた。
どっちもどっちという印象で、決め手に欠ける。
「他の方とも仮交際してることもあって、比較すると余計に迷いが生じちゃっています」
「つまり、結論は?」
「もう少しだけ期限を延ばしてもらうことは可能ですか?」
「何度もお伝えしていますが、“結婚相手を選ぶために入会している”ということを忘れないでください。もう判断するに十分な時間を過ごされていると思います。
これから何度会っても、その迷いは晴れないと思いますが、それでも、結論延期でいいんですね?」
高島さんの言葉に、胸が少しチクリと痛くなる感覚もあったが、私はうなずいた。

相談所を出たあと、私は恵比寿駅に向かいながら、「HELP」のグループLINEに近況を送る。
『ふたりと仮交際中なんだけど、真剣交際に移行する決め手がなくて3ヶ月で結論出せなかったよ…』
『夏帆:粗探しをしたら、いくらでも悪いところは見つかっちゃうから、減点方式禁止!ちょっとした欠点は変えられるし、もっと一緒にいたいと思えるなら、それで十分合う人だよ!』
このメンバーで一番恋愛経験の豊富な夏帆からの言葉は心強い。
― 確かに、デートで遅刻してきたのが嫌だとか、粗探ししてたのかも。変えることができる部分は、多少目をつぶらないと…。
夏帆の言葉で、私は、自分の中にある完璧な理想像を亮介さんに求めすぎていたのだと気づかされた。
― これからは、“この先の人生を一緒に歩みたいか”っていうシンプルな気持ちで、亮介さんと向き合ってみよ!
◆
「加奈子さんのお答えを亮介さんにお伝えしたところ、お断りのご連絡がありました」
「え…?」
翌日、高島さんから電話口で伝えられた想定していなかった言葉に、頭が真っ白になる。
「私が結論を出せなかったから…?」
「結論を延期したいという申し出も時々あります。
ですが仮交際の期限は基本3ヶ月。このくらいの期間があれば、結婚の意志を固めることができるという見立ての上です。
その期間で意思決定ができないということは、結婚を強く望む男性にマイナスに捉えられることもあるのです」
確かに、この先ふたりの時間を重ねても、私の気持ちは固まらなかったかもしれない。
― やっと前向きに、亮介さんと一緒にいる未来を考えて向き合おうと思ったところだったのに…。
結婚相談所が、“結婚をゴール”に出会う場所だという覚悟がまだ足りなかったのだと実感させられる。
「加奈子さん自身の選択で導かれた運命です。
もう一人仮交際の方もいますし…これからも相談所での婚活を続けられますか?」
今回のように結論をいつまでも出せずにいたら、一向に結婚はできない。
当たり前のことだけど、私だけの意志ではなく、相手の意志もないとできないものだから。
「高島さん。私、ここで続けて、結婚できますか?」
「本当に結婚がしたいなら、これから会う人たちの中から選べば、必ず結婚できますよ」
彼女がどう答えてくれるかなんてわかっていたけど、以前は苦しかったこの言葉が、私の後押しになっていた。
「結婚って、人生においてとても重要なことだと私は思っています。だからこそ、相手を選ぶ上で決断することがとても難しくて。でも、それがとても大事なことだと気づきました。
ここで、必ず結婚します!」
「任せてください。結婚したい方を結婚させるのが、私の役目ですから」

数えきれないほどの女性を結婚に導いてきた高島さんの言葉は、やはり心強かった。
女子校育ちで、恋愛に疎いと自覚していた私にとって、これまで“結婚”は正直あまり現実味がないものだった。
でも、ここに入会しようと決心したその決断が、“結婚”というゴールを確実に、私の近くに手繰り寄せている。
― 結婚願望はあるけれど、恋愛に臆病で、積極的に恋愛をしてこなかった私にとって、期限の決められた結婚相談所での婚活は、実はぴったりかも!
恋愛遅咲きの私は、32歳になってようやく、婚活のスタートラインに立とうとしていた。
▶前回:「一生独身かもしれない…」真剣に婚活を始めた32歳女が悟った真実
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