濱中治が語る阪神の前半戦総括&後半戦展望 後編

(前編:「納得できなかった」大山悠輔の起用法、佐藤輝明の「対応できていない」課題>>)

開幕前の「矢野監督退任騒動」について

――今シーズン開幕前の時点で、矢野燿大監督の今季限りでの退任が決まっていました。これはかなり異例な事態だと思いますが、濱中さんはどのように受け止めていますか?

濱中 僕も、正直かなりビックリしました。あれはキャンプイン直前の1月31日のことでしたけど、「さぁ、これからキャンプだ」と気持ちが入っている時期での退任発表は、選手からしたら戸惑いのほうが大きかったと思うし、決して士気が上がるものではなかったと思います。

 もし僕が現役選手だったとしても、かなり戸惑っていたと思います。「今季限りで辞める」という監督に対して、どうやってついていけばいいのか。下手をしたら、「投げ出しちゃったのかな?」と捉えられかねないですからね。


後半戦も活躍が期待される(前列左から)湯浅京己、青柳晃洋、(後列左から)佐藤輝明、近本光司

――この発言が、結果としてスタートダッシュ失敗に結びついてしまったという可能性はありますか?

濱中 あると思います。何をどう信じて、何をすればいいのか、どんな気持ちでプレーすればいいのか。そのあたりが見えずに、地に足がつかないままフワフワした状態で開幕を迎えてしまった気がします。

――これは想像になってしまいますが、どうして矢野監督はシーズン前での退任発表をしたと思われますか?

濱中 矢野監督はずっと「予祝」ということを大事にしてきました。「あらかじめお祝いする」ことの集大成として、あの時期の発言に繋がったのかもしれません。ただ、やはり選手やコーチたちにとっては気持ちの面で難しかったと思いますが。

――さて、前半戦を振り返ってみると、広島東洋カープ相手に2勝11敗2分と大きく負け越しています。後半戦の巻き返しはここが大きなポイントとなると思われますが、ここまで大差がついてしまった原因は何だと思われますか?

濱中 何でしょうね、僕にもよくわかりません(笑)。個人的にはなぜか、(ライアン・)マクブルームによく打たれている印象があるし、マツダスタジアムでは阪神打線が沈黙してしまうイメージがありますね。僕が現役だった頃は、現在のバンテリンドーム(当時のナゴヤドーム)ではなかなか打てなかったし、勝てなかったんですけど、選手たちだけでなく、首脳陣の中にも苦手意識が芽生えてしまっているのかもしれません。

後半戦開幕のヤクルト戦がポイントに

――何か打開策はありますか?

濱中 こういう時には「意識的に試合を動かそう」としたほうがいいと思いますね。意識的に盗塁を試みる、普段よりもヒットエンドランを多用するといったように、積極的にこちらから仕掛けていくこと。秋山翔吾も加入して、さらに厚みを増した広島は要注意ですけど、互角に戦うことができれば貯金も増えるわけだから、後半戦は「対広島」が大きなポイントになるでしょうね。

――前半戦の終盤は投打の歯車も噛み合った理想的なゲーム展開が続きました。オールスターブレイクを挟んでもなお、この勢いは続くと思いますか?

濱中 いい形で勝っていたので、タイガースとしてはオールスターブレイクを挟むことなく、ずっと試合が続いたほうがよかったと思いますね。だからこそ、僕が一番注目しているのは、後半戦のスタートとなる本日7月29日からの対ヤクルト戦です。ここでタイガースが3連勝すれば、「よし、これでいけるぞ!」というムードが一気に高まる。選手たちはもちろん、ファンにとっても大きな3連戦になるでしょう。

――前半戦終了時点で、首位ヤクルトとは11ゲーム差がつきました。この差を縮めていくためにはどうすればいいと思いますか?

濱中 繰り返しになりますが、後半戦スタート3連戦を3連勝すること。直接対決で3連勝すれば、その差は一気に8ゲームになります。そうなればムードが高まってくる。こうしたムードはとても大事です。仮にこの3連戦を2勝1敗で終えたとします。すると、ゲーム差は10。ゲーム差が2ケタあるのは心理的にも、実際にもキツイですよ。そういう意味でも、ヤクルトとの3連戦、特に初戦は絶対に落とせません。

――オールスターゲーム初戦に先発して2イニングを投げた青柳晃洋投手ではなく、西勇輝投手の先発が発表されています。

濱中 ここは西のピッチングに期待したいし、さらに(ジョー・)ガンケルも伊藤将司も万全の状態で登板するでしょうから、いずれにしてもタイガースとしてはベストの布陣で勝負をかけると思います。タイガースは残り49試合。この時点で11ゲーム差ですから、残りを35勝はするつもりで向かっていってほしいですね。ヤクルトとしては「3タテを喰らわなければいい」という心境だと思うので、この3連戦は本当に重要になります。

「11」のゲーム差を縮めるために

――あらためて、後半戦に向けての戦い方を伺いたいと思います。前編で述べたように、まずは投手陣については死角ナシといったところでしょうか?

濱中 投手陣については間違いなくいいです。先発は青柳を中心に、先ほど名前を挙げた伊藤、ガンケルがいて、西勇輝、(アーロン・)ウィルカーソンはいずれもクオリティ・スタートが期待できるし、きちんと試合を作れます。そこに、今年復活した才木浩人や、藤浪晋太郎、秋山拓巳などが加わってくれば、かなり厚みが出ます。投手力に関しては12球団の中でも随一ですね。

――中継ぎ陣は、前編で話があったラウル・アルカンタラ、岩貞祐太、ケラー、湯浅京己、岩崎優投手らが控えますね。

濱中 先発投手陣が長いイニングを投げられる上に、中継ぎ陣のコマもそろっています。この点に関しては心配はいりません。タイガースの場合はとにかく打線がカギになると思いますね。前半戦だけで17回も完封負けを喫しているのは大問題です。ヤクルトの場合、打線が爆発して中継ぎ投手陣を休ませる試合が多いですよね。タイガースでも、夏場にかけてはそういう試合が重要になるでしょう。

――打線のキーマンは誰でしょうか?

濱中 やっぱり、四番と五番、佐藤輝明と大山悠輔ですよ。そこに三番、もしくは一番を任されることになる近本光司の"ドライチトリオ"がカギになるでしょうね。やっぱり、佐藤と大山にはホームランがある。一発の魅力は大きいですから、彼らがいかに爆発できるかが、タイガースがさらに浮上するための大きなポイントになります。

――ここに、新加入のロドリゲス選手がどのように絡んでくるかも注目ですね。

濱中 一番・中野拓夢、二番・島田海吏、三番・近本と続けば、相手バッテリーとしては足を警戒しなければいけない嫌な打線になります。その後に佐藤、大山、ロドリゲスが機能すれば理想です。でも、仮にロドリゲスが機能しない中で一番に近本を持ってきても、僕はかなりいい打線が完成すると思っています。いずれにしても、タイガースの課題は打線。彼らが奮起すれば、ヤクルトを追い上げることは十分に可能だと思います。