ヨーロッパのロックダウン  Photo:infinityyy / PIXTA(ピクスタ)

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「今年はどんな年になるのだろうか?」という予想を毎年書いている。昨年の予想を読み返してみたが、コロナ禍も2年目ということで状況もわかってきており、幸い大きく外れたものはなかったようだ。ここでは、最近考えていることをざっと紹介しておきたい。

[参考記事]
●[2021年の予想]アメリカは「左派ポピュリズム」、ヨーロッパは「瓦礫化」、日本は「老老格差」が今後を占うキーワードになる

世界は「リベラル化、グローバル化、知識社会化」の潮流

 私はこれまで一貫して、世界は「リベラル化、グローバル化、知識社会化」の大きな潮流のなかにあり、「保守化、排外主義、反知性主義」というのはそのバックラッシュだと述べてきた。

 昨年の『無理ゲー社会』(小学館新書)『裏道を行け ディストピア世界をHACKする』(講談社現代新書)は、19年発売の『上級国民/下級国民』(小学館新書)と合わせた三部作で、日本と世界でなにが起きているかについてはほぼ書きつくしたと思う。

 これについては昨年末に個人のブログ(橘玲 公式BLOG)に書いたので繰り返さないが、これは構造的な問題なので数年単位で変わるわけもなく、今年も経済格差/評判格差は拡大し、知識社会に適応できないひとたちの不満がつのり、「下級国民」によるテロリズムが散発的に起きるだろう。

 東京オリンピック開会式の演出をめぐる混乱で明らかになったように、過去の言動などを理由に著名人の社会的地位の抹消(キャンセル)を求める「キャンセルカルチャー」が日本にも本格的に到来した。今年も同様の炎上騒動が起きるのも間違いないだろう。

 社会がぎすぎすするのは、誰もが「自分らしく生きたい」と思い、中間共同体が解体してひとびとが孤独になり、あらゆるところで利害が衝突するからだ。これは「リベラル化」の必然的な帰結で、リベラルな政策では原理的に解決できない。これは「予想」ではなく、予定調和的に構造的な問題が現実化しているだけだ。

欧州の「リベラル」は自由の抑圧すら躊躇しない「功利主義的リベラリズム」

 新型コロナについては、「感染抑制、経済活動、自由の3つすべてを満たす政策はない」というトリレンマ理論を一昨年から唱えている。

 オミクロン株が欧州で猛威をふるっているが、重症化率がデルタ株より低い(とされている)こともあって、各国政府はロックダウンのような感染抑制策を取らず、経済活動の維持を優先している。その一方で、「人権宣言の国」であるフランスは、ワクチンを接種していないと(PCRの陰性証明だけでは)大規模集会への参加はもちろん、国内の長距離移動やレストラン、百貨店の入店も認めないという「人権抑圧」に踏み切り、イタリアやドイツもこれに続いた。

 なぜこうなるかというと、「感染抑制」と「経済活動」の2つを選べば「自由」を犠牲にするしかないからだ。このフレームワークを使うひとは(なぜか)ほとんどいないが、欧州で起きている事態をもっともシンプルに説明できるだろう。

 新型コロナの対応では、当初、欧米諸国は「感染抑制」と「自由(プライバシー保護)」を選択したため、長期にわたるロックダウン(経済活動の抑制)を余儀なくされた。それに対して、「感染抑制」と「経済活動」を選択した中国は、国民の自由を徹底して管理することで一定の(あるいは大きな)成果をあげた。フランスなどの強権的な対応が中国と似ているのも、このトリレンマ理論ですっきり説明できる。選択するものが同じなら、その結果も同じになるのだ。――ただし中国の場合、ゼロコロナがあまりに成功したために、そこからの転換が困難になるリスクはあるだろう。

 日本では「リベラル」を自称するひとたちが、「ワクチンを打つか打たないかは本人の自由」「ワクチン接種で異なる対応をとるのは差別」とあちこち(とりわけ「リベラル」なメディア)で述べていた。だがいまやこうした主張は「保守派/右派」「トランプ支持者」「排外主義者」「反ワクチン派」「Qアノンの陰謀論者」のものになっている。

 日本の「リベラル」はずっと欧州を礼賛してきたが、それが、国民の生命を守るためなら自由の抑圧すら躊躇しない「功利主義的リベラリズム」であることをそろそろ認識すべきだろう。

中間選挙で民主党が大敗すれば4年の大統領選でのトランプ復活が現実味を帯びる

 今年の大きな政治イベントは、アメリカの中間選挙(11月)、フランスの大統領選(4月)、日本では参院選(夏)になるだろう。

 純化したメリトクラシー社会であるアメリカでは、高度化した知識社会から脱落したグループの存在が社会を動揺させている。最初に脱落したのが黒人で、その黒人を「自己責任」「福祉の女王」などと非難していた白人労働者階級が次に脱落した。ある朝気づいたら、鏡に映った自分の姿が黒人になっていたというのが、高卒以下の白人層で「絶望死」が起きている理由だろう。失業と生活保護への依存は、彼ら/彼女たちの自尊心を徹底的に破壊したのだ。

 そしていま、その白人労働者階級を「レイシスト」「白人至上主義者」などと罵倒していた大卒の一部(下位3分の1)が知識社会から脱落しつつある。これが「不満だらけのelite-wannabes(エリートなりたがり)」で、専門職など望む仕事につけず、飲食業など「高卒の仕事」をせざるを得なくなったことで自尊心を傷つけられ、「資本主義」を否定し、警察予算の削減を求めるなど過激な主張をするようになった。バイデン政権が迷走するのは、党内で穏健なリベラルと急進的な左派(レフト)の分断が進んでいるからだ。

 それに対して共和党は、党内の予備選ではトランプ寄りの主張をし、本選では穏健な政策を掲げて中道リベラルの票を獲得する戦略を編み出した。中間選挙で民主党が大敗するようなことになれば24年の大統領選でのトランプ復活が現実味を帯びてきて、アメリカ社会はさらにぎすぎすした雰囲気になるだろう。

 欧州政治には疎いのだが、フランス大統領選で国民連合のマリーヌ・ルペンや“極右”のエリック・ゼムールが決選投票で勝つようなことはないのではないか。その理由は、いまだに「階級社会」の残滓が残るヨーロッパはアメリカほどメリトクラシーが徹底されておらず、ルペンやゼムールにはトランプほどのカリスマ性もないからだ。ただしマクロン現大統領も国民の人気が高いとはいえず、中道右派のヴァレリー・ペクレスに足元をすくわれる可能性はあるだろう。

 欧州の状況は“低位安定”で、イギリスに続いてEUから離脱する国が出ることはなく、移民問題は原理的に解決不可能なのだから、どちらが大統領になってもさしたるちがいはないだろう。

 昨年の菅前首相の総裁選出馬断念と衆院選での自民党(与党)勝利を見れば、政権支持率がコロナの感染者数に連動していることは明らかだ。

 今後、オミクロン株の第6波が来て、昨夏と同様に、治療を受けられないまま自宅で死亡するひとが続出する事態になれば、今夏の参院選は自民党にとってきわめてきびしいものになる。当然、そのことはわかっているはずなので、前回の失敗を繰り返さないような対策をとっているだろう(と思いたい)。欧米と比べてコロナの抑制がうまくいっているのなら、衆院選と同様の結果になるのではないだろうか。

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