研究者らが岩石からリチウムを取り出す新たなプロセスを開発

スマートフォンから自動車までさまざまなデバイスに搭載されているリチウムイオン電池の原料であるリチウムについて、「リチウムを岩石からエネルギー効率良く抽出する方法」が新たに発明されました。
Valorization of lithium hardrock concentrates into battery raw materials and commodity products | Science

Researchers develop a new process to get lithium out of rocks - Ars Technica
https://arstechnica.com/science/2026/05/researchers-develop-a-new-process-to-get-lithium-out-of-rocks/
さまざまな化学組成に基づく電池が製造されていますが、記事作成時点でリチウムイオン電池のような規模で生産されている電池は存在しません。この規模ゆえに、リチウムイオン電池の経済性は競争上非常に厳しいものとなっており、優れた電池技術を開発してもリチウムのサプライチェーンや製造効率に匹敵するほど迅速に製造コストを削減できるかどうかは不透明です。
この状況を一変させる可能性がある唯一の要因は、供給面です。リチウムは非常に広く分布していますが、経済的に抽出できるリチウムとなると話は別です。最も安価な抽出方法は塩水からの抽出ですが、リチウムを豊富に含む塩水は主に南米に限られており、他の供給源からもリチウムを入手することはできますが、そのコストはかなり高くなってしまう模様。
しかし、科学誌のScienceで発表された「岩石からリチウムを抽出するエネルギー効率の優れた方法」ならば、既存の方法よりもはるかに少ないエネルギーで岩石からリチウムを抽出することができます。さらに、原料となる化学物質をすべて再生し、販売可能な副産物を生成することも可能です。

他の金属と同様に、リチウムはさまざまな鉱物中に存在しますが、特にリチウムを豊富に含む鉱石がペグマタイト鉱物の一種であるリシア輝石(リチウムアルミニウムケイ酸塩)です。最も安価な塩水からではなくリシア輝石からリチウムを抽出する場合は、リシア輝石を約1000℃まで加熱し、硫酸を用いてリチウムを浸出させる必要があるため、「エネルギー集約型で、大量の廃棄物が出る」という問題を抱えています。
これに対して、新たにマサチューセッツ工科大学の研究チームが開発した「岩石からリチウムを抽出するエネルギー効率の優れた方法」は、フッ化アンモニウムを用いるもので、比較的低温でリチウムを抽出することができます。この手法を用いると、リチウムだけでなくアルミナやシリカといった化学物質も再利用可能な形で生成可能です。これにより廃棄物を減らすことができます。また、従来の方法よりも安価にリチウムを抽出することが可能。
フッ化アンモニウムは溶融状態で直接使用することも可能ですが、加熱すると必ずフッ化水素が発生するという非常に危険な物質です。そこで新たに考案された手法では、フッ化アンモニウムを水に溶かし、約70℃まで加熱することでフッ化水素アンモニウムイオンを生成。するとアンモニアガスが発生しますが、これは後のプロセスで使用することが可能です。このフッ化水素アンモニウムイオンはリチウムにフッ素を供与し、フッ化リチウム水溶液を残します。
フッ化リチウム水溶液は一般的な電池の電解質であるヘキサフルオロリン酸リチウムの製造原料のひとつ。このフッ化リチウム水溶液を硝酸と反応させることで再びフッ化水素を生成し、硝酸リチウムを残すことが可能。この硝酸リチウムを加熱すると酸化リチウムに分解することができ、これは他の電池原料に容易に変換することができます。

なお、マサチューセッツ工科大学が考案したリチウム抽出方法は、リチウム含有鉱石の初期処理における高温工程が不要となるものの、アルミニウムやシリコンといった有用な物質の製造においては、後の工程で高温が必要となります。そのため、研究チームは考案したリチウム抽出方法が既存の方法と比べてどれだけ優れているかを包括的な経済評価を用いて検証。
既存のリチウム抽出方法は「鉱石と硫酸を焙焼する」というもので、使用可能なリチウムを1トン生成するのに9000ドル(約143万円)弱のコストがかかります。これに対して、マサチューセッツ工科大学が開発した新しいリチウム抽出方法では、リチウムを1トン生成するのにかかるコストが5000ドル(約79万7000円)程度と試算されました。これは、高品質の塩水からリチウムを分離する方法のコストとほぼ同額で、シリコンとアルミニウムも抽出できればプロセス全体のコストは1000ドル(約15万9000円)以上も削減可能という、非常に費用対効果の高いものであることが明らかになっています。
すべてのペグマタイト鉱物から同等の品質のリチウムを抽出できるわけではなく、新しいリチウム抽出方法に切り替えることで新しい工業設備が必要になるという問題もあります。そのため、現実世界においてこのリチウム抽出方法がどれくらい有用になるのかは不明です。
