『あなたの正義 わたしの絶望〜その「主観」が毒になる時〜』より


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子どものために良かれと思ってしたことが、子どもにとっては苦痛だった。そんな状況は多かれ少なかれどこの家庭にもあるかと思いますが、過剰な干渉は悲劇に繋がることも…。

自分と他人との間に生じる「認識のズレ」をテーマにした短編漫画で注目を集める漫画家・理系女ちゃん(@rikejo_chan)。SNSで発表した「先輩は綺麗な人だった」の投稿が話題を呼び、オムニバス短編集『あなたの正義 わたしの絶望 〜その「主観」が毒になる時〜』の電子書籍化に至りました。

今回はその作品集の中から、ある親子の物語をご紹介します。

「頭が良くて優しい最高の息子」と自分の息子の成長を見守る母親とその息子は、一体どんな結末を迎えるのでしょうか。

■「最高の息子」あらすじ

その才能に気づくのに…


天才なのだと確信した


不安だった


夫を説得して


3歳の時に小学2年生の算数の問題を解いた息子の春樹を見て、母親は「生まれつきの天才だ」と思い進学塾に入れることにします。春樹は難なく中高一貫の男子校に合格し、健やかで真っすぐな青年に成長しました。

『あなたの正義 わたしの絶望〜その「主観」が毒になる時〜』より


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『あなたの正義 わたしの絶望〜その「主観」が毒になる時〜』より


春樹は超有名私立大学に合格。母の日には花束をプレゼントしてくれて、「こんな完璧な息子はいない」と母親は誇らしく感じます。いつか彼女を作ってこの家を出ていく日が来るのを寂しく思った母親は、恋人がいないのか聞いてみましたが、「そういうの興味ないから」と嫌そうな顔をされたのでした。

『あなたの正義 わたしの絶望〜その「主観」が毒になる時〜』より


一方息子のほうは、「早く家を出たい」「毒親に育てられた」とSNSに本音をつぶやいていました。

『あなたの正義 わたしの絶望〜その「主観」が毒になる時〜』より


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『あなたの正義 わたしの絶望〜その「主観」が毒になる時〜』より


物心がついた頃から勉強をしていないとヒステリーを起こす母親に怯え、机に向かう日々。友達と遊んだり低い点数を取ったりすると怒られ、スマホのメールアドレスもパスワードもすべて母親に申告する必要がありました。

『あなたの正義 わたしの絶望〜その「主観」が毒になる時〜』より


『あなたの正義 わたしの絶望〜その「主観」が毒になる時〜』より


父親が母の過干渉を咎めたことをきっかけに、二人の夫婦仲は崩壊。女の子と話す春樹を見て狂ったように怒りだす母の姿を見てきた彼は、大学に入る頃には母の干渉をうまくやり過ごすようになっていました。

『あなたの正義 わたしの絶望〜その「主観」が毒になる時〜』より


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『あなたの正義 わたしの絶望〜その「主観」が毒になる時〜』より


そして就職して家を出ることを決意した彼は、家から遠い会社ばかりの面接を受けていました。卒業したらSNSの裏アカウントで知り合った女性「レナ」に会ってみたいと彼は思います。ずっと彼の境遇を理解して支えてくれた彼女に会いたいとメッセージを送ります。

『あなたの正義 わたしの絶望〜その「主観」が毒になる時〜』より


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しかし「レナ」の正体は、他でもない、彼の母親が作った裏アカウントだったのです…。

ラストの真相にゾッとするこの物語。著者・理系女ちゃんに作品についてお話を伺っていきます。

■親の愛情や期待が子どもに与える影響

──息子と母親の間に生じた「認識のズレ」を描いた本作。まずこのテーマを選んだ理由やきっかけを教えてください。

理系女ちゃん:親との軋轢に悩む学生をこれまで見てきたからです。子ども自身は親を選べないために辛い状態から抜け出せず、苦しんだ事例を知っているため少しでもこういった問題が認知されればと思い、漫画にしました。

──本作を描くにあたって、参考にしたエピソードやご経験はあったのでしょうか?

理系女ちゃん:周囲の人々の話や、ニュースなどで目にした親子関係の事例からインスピレーションを得ました。特に、成功を強く望む親が子どもに期待をかけすぎるケースや、子どもがそのプレッシャーにどう対応していくかという点に焦点を当てました。

『あなたの正義 わたしの絶望〜その「主観」が毒になる時〜』より


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──このテーマを描くにあたって、キャラ設定やセリフなどで気を付けた点はありますか?

理系女ちゃん:母親の愛情が過度になると、どれほど抑圧的に感じるかを表現するため、母親が一見「良い親」に見えるように描きました。また、息子が冷静に母親の行動を受け止めつつも、内面では激しい葛藤を抱えていることをセリフで表現しました。このバランスを取ることで、読者に「表向きは完璧だが、実はそうではない」という不安感を与えたかったです。

『あなたの正義 わたしの絶望〜その「主観」が毒になる時〜』より


『あなたの正義 わたしの絶望〜その「主観」が毒になる時〜』より


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──前半だけ読むと、少し過保護な母親と素直な息子という素敵な親子に見えました。まさか後半であんな展開になるとは...。我々読者は息子視点で描かれた後半を「事実」と受け取ってしまいがちですが、それで良いのでしょうか?

理系女ちゃん:息子視点で描かれた後半は、もちろん息子の主観によるものです。そのため、完全な「事実」として受け取るかどうかは読者に委ねています。ただ、母親の視点では息子は「完璧な存在」ですが、それは美化された記憶でしかなく、息子自身は母親との関係に苦しんでいるのは事実なのだと思います。

──この作品を読んだ読者に、どのようなことを考えてほしいですか?

理系女ちゃん:親の愛情や期待がどのように子どもに影響するか、そしてそれが必ずしもポジティブなものではないことについて考えてほしいです。また、親自身が子どものためだと思っていることが、実は自分の期待を押し付けているだけかもしれない、という視点も考慮してほしいです。読者に、親子関係の複雑さや、期待とプレッシャーのバランスについて再考してほしいと思います。

     *    *    *

母親が仕掛けた「裏アカウント」の正体が明かされるラストシーンは、静かな衝撃とともにゾッとさせられます。教育虐待や過干渉が社会問題となる今、この母子関係の闇は決して他人事ではありません。このエピソードを通して、今一度自身の「主観」で見ている世界を疑い、見つめ直してみませんか?

※敬称を含むペンネームのため、本来は「理系女ちゃんさん」となりますが、本文中では読みやすさを優先し「理系女ちゃん」と表記しています。

取材=mk/文=レタスユキ