『ハイスクール!奇面組』©新沢基栄/集英社・奇面組

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 テレビアニメ『ハイスクール!奇面組』の放送や配信が1月9日から始まった。新沢基栄が1980年から1987年まで『週刊少年ジャンプ』に連載していた『3年奇面組』(集英社)と『ハイスクール!奇面組』(集英社)が原作で、アニメ化は1985年から1987年まで放送された『ハイスクール!奇面組』に続いて2度目。40年前の人気作品は令和の今にどのように受け止められているのか?

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 令和版『ハイスクール!奇面組』を観て、懐かしいと思うのはどういう人たちだろう。10歳くらいで最初のアニメを観ていたとしたら50歳くらい。絶大な人気を誇ったアイドルグループ・おニャン子クラブから主題歌を歌うために結成されたユニット・うしろゆびさされ組のファンだったら、さらに10歳くらい上の世代がいても不思議はない。そういう人たちが、今回の大歓喜でリブートを喜んでいるかは答えに迷うところだ。

■80年代リブートの潮流 高橋留美子の漫画が原作の『うる星やつら』や『らんま1/2』、北条司原作の『キャッツ・アイ』、武論尊原作、原哲夫作画の『北斗の拳』といった1980年代アニメのリブートが続いているが、これらには世界へと作品が広がって高まった人気に最新の技術で答えるなり、壮大で凄絶なストーリーを改めて語り直して新たなファンを育て集めるといった目的がある。『奇面組』の場合は、作品というより毎回のギャグで笑わせるコント番組のようなところがあって、その時代だからこそ楽しめていたところがなくもない。

 一堂零をリーダーに、冷越豪、出瀬潔、大間仁、物星大という顔立ちも名前も性格も個性的な5人が、ナンセンスな言動を繰り広げながら動き回る。そこに、河川唯や宇留千絵といった同級生の女子が関わり、令和版ではSnow Man佐久間大介が声を担当している切出翔率いる色男組や、似蛭田妖が率いる不良グループの番組といった、顔立ちはともかく個性だけなら負けていない面々も絡んで、ドタバタとした展開が繰り広げられるギャグアニメだった。

 これは、令和版でも変わらない。当時を知らない今の若い世代には、「日経エンタテイメント!」2026年2月号で佐久間が話していたように、ギャグの表現の仕方に世代の違いを感じる人も多そうだが、続けて佐久間が「それぞれの個性を大事にする今の時代だからこそ、ぴったりだと思いました」と言っているように、同調圧力が強く輪からはみ出しづらい現在の状況で、自分を貫く大切さでありその道筋を示す作品として、関心を持たれる可能性もなくはない。

 だからこそのこのタイミングでの『奇面組』リブートだったのだろう。ただ、当時の『奇面組』にあった様々なコンテクスト、つまりは文脈なり背景がごそっと抜け落ちているところに、あの頃の喧噪をそのまま再現しづらい難しさがある。たとえば「おニャン子ブーム」。その人気ぶりはモーニング娘。やAKB48を先取りしたような凄まじさで、オープニングやエンディングを歌ったうしろゆびさされ組やうしろ髪ひかれ隊への熱い注目を受けるかたちでアニメも盛り上がった。

■家族でテレビを囲んでいた時代の笑い それから時間帯。土曜日の17時半から30分枠で放送されていた『奇面組』を観るスタンスは、ひとり深夜のテレビの前で構えていたり、逆に出先で配信を“ながら観”したりするものとは違って、リビングでゆったりといった感じのものだった。そこで繰り広げられているのは、『8時だョ!全員集合』(TBS系)や『欽ちゃんのどこまでやるの!』(テレビ朝日系)といったバラエティ番組で観たようなドタバタギャグ。観て心をほぐした後、20時から始まる『俺たちひょうきん族』を観てさらに深い笑いの渦に引きこまれるというルーティンの中で『奇面組』も面白がられた。

 アニメファンには、一堂零を演じた千葉繁という希代の名優を筆頭に、冷越豪を玄田哲章、出瀬潔を二又一成、大間仁を龍田直樹、物星大を塩沢兼人といった名前の知られた面々が演じたことでアピールできた。千葉は1981年から始まった『うる星やつら』のメガネ役で一気に知名度を高め、1984年スタートの『北斗の拳』のハイテンションなナレーションですっかり人気者になっていた。ハチャメチャな役ならお手のものの声優が、全力で演じたのだから受けたのも当然だ。

 そうしたコンテクストがなく、漫画連載という土台すらないところに、かつて大ヒットしていたギャグ漫画でありそのテレビアニメというだけの状態で、令和版『奇面組』は送り出された。懐かしさは覚えても、かつての感動を今一度味わえると嬉しがれない理由がそこある。

 アニメ自体に不足はない。絵柄については1980年代に放送されたものだと言われても違和感を覚えないくらいにシンプルで、背景のディテールが足されているということもない。キャラクターの設定やストーリーも変わっていない。赤塚不二夫の漫画を原作にした『おそ松さん』が、大元の『おそ松さん』からキャラの年齢を引き上げ、大きくなっても家でゴロゴロしているニートたちという“現代化”によって新味を出そうとしたことと比べると、真逆と言っていいほど愚直な再アニメ化だ。

 その意味で、『奇面組』というアニメそのものをどう楽しむのかといった文脈作りが今、必要なのかもしれない。「日経エンタテイメント!」の記事で佐久間は、疲れて帰ってきた時に観て笑って、あとは風呂に入って寝るだけといったが楽しみ方ができる作品だと指摘している。そうして楽しんでいるうちにキャラへの関心が浮かび、個性が大切だというメッセージを感じ取って興味を深めていく。そうなっていくための仕掛けとして、佐久間の起用があり昭和版に負けず豪華な声優陣の起用があったのかもしれない。

■鳥山明と並んだ存在だった新沢基栄 作品そのものの知名度も、当時に比べて薄れてしまっている。実は『奇面組』と新沢基栄は、あの鳥山明と並ぶ存在なのだ。1980年、『週刊少年ジャンプ』で後に大人気となる2つの漫画の連載がスタートする。1本は鳥山の『Dr.スランプ』で、もう1本が『3年奇面組』だった。

 1986年から1992年まで『週刊少年ジャンプ』の編集長を務めた後藤広喜が2018年に刊行した『「少年ジャンプ」黄金のキセキ』(集英社)によると、「『少年ジャンプ』が新人漫画賞を募集してからヒット作を飛ばした漫画化で、無冠の漫画家は鳥山明と新沢基栄(『3年奇面組』)だけである」とのこと。選外でありながら見どころを感じて編集者が声をかけたという意味で、新沢は鳥山と並ぶ存在だったと言える。

 『奇面組』の連載は『ハイスクール!奇面組』とタイトルを変えて1987年まで続いて当時の『週刊少年ジャンプ』を支える。秋本治『こちら葛飾区亀有公園前派出所』やゆでたまご『キン肉マン』は『奇面組』と併載され続け、そこに高橋陽一の『キャプテン翼』や北条司『キャッツ・アイ』、桂正和『ウイングマン』、『北斗の拳』などが加わり、鳥山の『ドラゴンボール』や車田正美『聖闘士星矢』も始まって、ギャグありバトルありラブコメありといった全方位のラインアップが揃っていく。

 ギャグ漫画の系譜も、徳弘正也『シェイプアップ乱』やえんどコイチ『ついでにとんちんかん』、佐藤正『燃える!お兄さん』などを経て、江川達也『まじかる☆タルるートくん』へと続いていく。後藤元編集長の『「少年ジャンプ」のキセキ』には、1970年代後半の『週刊少年ジャンプ』には、解決しなくてはならない緊急の課題として、子どもが好む「ギャグ漫画」と「対決漫画」の新規開拓があったと書かれている。

 対決ではすぐに『キン肉マン』が現れ、『北斗の拳』へと至り『ジョジョの奇妙な冒険』であり『幽☆遊☆白書』 であり『鬼滅の刃』『呪術廻戦』へと続く太い流れができた。ギャグでは『Dr.スランプ』であり『奇面組』がブーストの役割を担った。それだけの作品だったのだ。

 もっとも、『「少年ジャンプ」のキセキ』で大きくページを割かれている『Dr.スランプ』や鳥山に比べ、新沢も『奇面組』も登場はわずか数行。他のギャグ漫画もほとんど語られていない。それは、ギャグ漫画がその時々にこそ必要なものだからだろう。だからもし、令和版『奇面組』がこれから大いに盛り上がるとしたら、今に必要なものであることを知ってもらい、感じてもらう必要があると言えるのかもしれない。(文=タニグチリウイチ)