今年1月に横浜F・マリノスからニューカッスル・ジェッツに移籍した水沼。6月13日に契約延長が発表され、新シーズンも豪州でプレーすることが決まった。写真:滝川敏之

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 水沼宏太は2025年1月、横浜F・マリノスからオーストラリアのニューカッスル・ジェッツに移籍した。35歳になる直前、プロ18年目にして初の海外挑戦だった。

 元日本代表MF水沼貴史氏の長男である水沼は、父が偉大な足跡を残したマリノスでプロキャリアをスタート。それ以来、栃木SC、サガン鳥栖、FC東京、セレッソ大阪と渡り歩き、2020年から再びトリコロールを着て戦っていた。

 なぜこのタイミングで日本を飛び出したのか。海の向こうで何を見て、何を感じたのか。海外での1シーズン目を終えた今、さすらいの元気印にじっくり話を訊いた(第1回/全7回)。

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 ある時から急にではない。海外挑戦への意欲はプロ入り当初からずっとあった。もっと成長したい――シンプルな想いからだ。事実、水沼には21歳でルーマニア1部ウニベルシタテア・クルージュの入団テストを受けた過去がある。
 
「やっぱりサッカー選手である以上、『上を目指していく』想いが常にあります。僕がルーマニアに行った時は、マリノスから栃木に移籍して、J2を経験した後にもう1つ上の段階として、J2で連続で試合に出ることができたタイミングでした。『プロのスタート』って感じになったところではあったんですけど、『もっともっと』という想いがあり、海外のチームを探していました。

 今ほど誰もが、海外に行ける状況ではなかったので中々難しくて、ルーマニアには2012年の1月から1か月ほどトライアウトみたいな感じで行きました。その年はロンドンオリンピックがあったので、それに僕自身も出たかったし、『何か一気にドーンって成長できる環境はないか』ってところで探していたんです。

 結局契約には至らず鳥栖に行ったんですけど、そこでJ1の試合に出れて『日本で、Jリーグでこれだけ出れて幸せだな』って気持ちもあったので、一瞬は海外というよりは、とにかく自分がサッカー選手として試合に出続けて成長することを意識してやっていたので、ちょっと海外は頭から離れていました。でも心のどこかではやっぱり想いがあったんですよね。なので、セレッソで天皇杯とルヴァンカップで優勝して、マリノスでも優勝して、日本代表にも入れて、またその想いが沸々と湧いてきたという、それが背景かなと思います」

 ニューカッスル・ジェッツからオファーを貰ったのは、今年の1月に入ってから。「元々マリノスに行きたい気持ちを伝えていたので、『行ってこい』と背中を押してもらった」という。

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 現在35歳。周囲はベテランと言うが、当の本人はどこ吹く風だ。

「年齢は特に気にしていません。僕自身は年を重ねていくごとに、自分のプレースタイルも自信を持って確立していけた部分もあるので。だから今回、34歳でオファーを貰った時も、やっぱり周りは年齢を話題にしますけど、僕自身はそんなに意識していなかったし、『やっと来たな』という感じでした」

 スポーツ界全体で見れば、同い年の菅野智之が、自身とほぼ同じタイミングで読売ジャイアンツからメジャーリーグに活躍の場を移し、海外初挑戦を果たした。

「そういう選手も僕と同じように、『自分がまだまだ成長したいから、そういうチャレンジをしたい』って思っているだろうから、そこの刺激は少なからずあるかもしれないです」

 今年1月から5月までのニューカッスル1年目は、12試合に出場し、2ゴール4アシストをマーク。加入2戦目から3試合連続アシストをやってのけるなど、早々にインパクトを残してみせた。このファーストインパクトは強く意識していたようだ。

「とにかく最初のインパクトが大事だと思っていたので、結果を残せて良かったです。チームとしても結果が出ていないなかで、僕が入ってから7試合連続で負けなしの記録を作れたりして、『入りは良かったな』と。ルーマニアに行った経験を基に『短期間でインパクトを残さないといけない』と思っていたので、『とにかく最初が大事だ』と意識していました」
 
 数字、結果が最も分かりやすいが、インパクトはプレー面以外でも残せる。

「結果もそうだし、自分がどういうタイプなのかを周りに知ってもらうのもそう。1番最初の試合で日本語でも何でもいいから声を出して、『こいつ本気で勝負しに来てんだ』って分かってもらうだけでも、仲間に入っていくきっかけにおいて、すごく大事だったと思います。

 とにかく初日から『自分ってこういうやつなんだよ』と。日本での移籍だとすぐ『水沼宏太がどういうやつ』って分かりますけど、海外は周りがほぼ自分のことを分かっていないので、自分の価値を知らしめる楽しみもすごくありました。楽しみながらも、インパクトを残すところにフォーカスできたなと思います」

 水沼のストロングポイントは、ピンポイントでクロスを上げる正確無比なキックや、豊富な運動量に加え、その声だ。プレー中はもちろん、ピッチを離れても常に大きな声でチームを鼓舞し続ける姿は、見る人の心を打つものがある。日本随一のムードメーカーであり、海外向きの性格とも言えそうだが、自身では特長をどう捉えているのか。

「やっぱりキックのところは自分の中で得意としているし、ストロングとして生きてきているので、そこでインパクトを残せるのは自分の強みだと思います。あとはチームメイトを巻き込みながら、一体感のある雰囲気を作る部分。みんなを巻き込めるところも強みの1つです。みんなで何かを成し遂げることが大好きです。

 声へのこだわりは別にないです。チームが勝つためなら何でもするスタンスなので、とにかく『勝つために何が必要か』を自分の中に落とし込んでいくなかで、勝手に声が出てる印象です。意識して『出さなきゃ』っていうのはないです。自然と、勝ちたいから出てるみたいな感じです。言った責任があるので、言うことで自分に跳ね返ってきて、それをしっかり出していかないといけない面もありますね」

 オーストラリアの選手は、ガンガン声を出すタイプなのだろうか。

「静かな選手はいっぱいいますよ。若い子たちはそんなに声を出したりしないけど、でもやっぱり、みんなで何かを成し遂げるところに関しては、国民性みたいなところがあって『よし、みんなで』みたいな感じもあります。誰かが声を出したらみんなでノッたりするし、僕は行った当初は日本語でも何でもいいから、とにかく『やってこうぜ!』みたい声を結構わざと出しました。それが良かったのか、お互いに信頼関係を早めに築けたのかなと思います」

 やはり、ファーストインパクトは非常に大切だ。自分のキャラクターを知ってもらうのは、早ければ早い方が良い。

「それは本当、どの業種も関係ないと思うんですよね。やっぱりお互いが信頼関係を築くためには、どんな人かを分からないといけない。そういう意味では、自分が相手を知ろうというよりも、まず自分を知ってもらう方が楽というか、それが大事かなと思っています。

 自分の情熱的なところは伝わったんじゃないかな。信頼関係を早く築けたのも、そういうのを意識してやったところがすごく良かったのかなと思います」
 
 日本が誇るクロッサーは、プレー面でもまずまずの手応えを感じているようだ。

「アシストを結構できたので、そこは特長を活かせました。4か月ぐらいしかいなかったので、『もっと擦り合わせられたな』って部分ももちろんあったんですけど、『自分の特長はキックだ』と、Aリーグの中でも少しは伝わったのかなと思っています」

 新シーズンもオーストラリアでのプレーを予定している。シーズン途中にぶっつけで飛び込んだ今季と違い、プレシーズンからチームに加わる2年目はさらなる活躍が期待できそうだ。

「今シーズンは4か月だけだったので…まだまだできたこともあっただろうし、もっとやりたいこともたくさんあるので、そこは1年いることでより色んな経験ができるかなと期待しています。オーストラリアはACLに出れるリーグなので、ACLに出て日本のチームと勝負したい、できればマリノスと試合したい想いもあります。それに向かってやるにはやっぱ優勝しなきゃいけないので、自分の持っているものを全てぶつけたいです。

『まだまだ成長できるぞ』と。自分たちの年齢になってくると辞めていった選手がたくさんいます。だけど『年齢は関係ないんだよ』ってところを見せたいし、証明したいので、とにかく成長し続けて、『やっぱあいつすげえな』って、日本に届くぐらいの活躍がしたいです」

 南から北へ。半球の隔たりを超越する圧倒的なインパクトを残し、否応なしにメッセージを発信できるか。

取材・構成●有園僚真(サッカーダイジェストWeb編集部)