「過労死ライン超え」の学校も…専門家語る“ブラック吹奏楽部”の実態「同調圧力が強い」

写真拡大

《大人でも過労死の恐れがあるラインを超える時間の部活を生徒に強いるなんて、正気の沙汰ではありません》
《こんな無茶な練習をしなきゃなんないんなら、コンクールなんかやめちゃえって思う》

6月6日、ネット上で相次いで悲痛な声が上がった。これらは『47NEWS』が配信した「吹奏楽部の部員が自殺、長時間練習『過労死ライン超え』が背景に? 第三者委員会が明らかにした千葉の強豪校の実態」という記事に対してのコメントだ。

発端は、’18年12月、千葉県柏市の市立柏高校で、吹奏楽部に所属する2年生の男子生徒が命を絶った事件。この事件をきっかけに、同校の吹奏楽部が長時間に及ぶ練習をしていたことが明るみになった。

同校の吹奏楽部は強豪校として知られ、’21年10月に行われた「第69回全日本吹奏楽コンクール」では金賞を受賞している。

市の第三者委員会が今年3月末に提出した調査報告書によると、自殺の直接的な原因は特定できなかったとのこと。だが一方で、部活動の長時間練習によって、様々な悩みや問題に対処できなくなるほど思考力が低下したことが指摘されたという。

『47NEWS』の記事によると、問題視された吹奏楽部での練習時間は、月192時間30分。その内訳は平日約4?5時間半、休日になると約11時間もの練習が行われていたという。さらに授業時間を合わせると346時間30分にも及び、これは労働者の「過労死ライン」の労働時間とされる月240時間を大きく上回る長さだ。

文部科学省が’18年12月に公表した「文化部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」によると、活動時間について次のように記されている。

《1日の活動時間は、長くとも平日では2時間程度、学校の休業日(学期中の週末を含む)は3時間程度とし、できるだけ短時間に、合理的でかつ効率的・効果的な活動を行う》(運動部活動も同様)

■「体育会系文化部」とも称される吹奏楽部

このような過酷な部活動をめぐっては、これまで野球部やサッカー部など主に運動部にフォーカスされることが多かった。しかし、吹奏楽部といった文化部の実態が取り上げられる機会は、ごく限られてきたのではないだろうか?

そこで本誌は吹奏楽部にフォーカスし、『ブラック部活動』(東洋館出版社)の著者で名古屋大学大学院教育発達科学研究科の内田良准教授に話を聞いた(以下、カッコ内はすべて内田氏)。

吹奏楽部の特徴について、内田氏は「あくまで一般論ですが、吹奏楽というのは非常に人間関係が濃くなりがちな活動なんです」と指摘し、こう読み解く。

「みんなでひとつの楽曲を演奏することから、一体感などが求められやすい。しかし一方で、ひとつ間違えるだけでその子のミスが極端に目立つというような集団的特徴もあります。その分、そこで息苦しさを味わう生徒さんも出てくるという構図があります。協調性ないし同調圧力が強い部活動と言えるでしょう。ですので、人間関係でトラブルを抱えることはよくあることですね」

練習時間が長くなってしまうのも、運動部にはない事情がある。

「運動部は暑い季節になると、長時間の練習は熱中症などにもつながるのでできないんですよね。ところが吹奏楽部はエアコンのついた室内での活動だし、演奏の練習に際しては体を活発に動かすわけではないので長時間の練習ができてしまうんです。とくに大会前になると、合宿などで早朝に起きて、夕食前までずっと練習し、そのあと夕食とお風呂を急いで終えて、また夜も練習する…といったケースも聞きました。ものすごい過酷なトレーニングをする文化が一部であるんですよね」

■大会を目指すがゆえに“ブラック部活動”化してしまう

では、なぜ長時間もの練習を行うのか? それは大会やコンクールを目指すためだという。「大会の参加と練習の長時間化は非常にリンクしていると思います」と指摘する内田氏は、こう続ける。

「とりわけ強いチームになると、全国大会を目指すための県大会やブロック大会、あるいは地方大会といった予選があります。そのため、ほぼ毎月大会があるという状態になることも多いのです」

つまり大会を目指すがゆえに、“ブラック部活動”化してしまうというのだ。

そんななか、スポーツ庁は今年6月6日、運動部を対象に「運動部活動の地域移行に関する検討会議提言」を発表。そこには「大会の在り方」として、「生徒の心身の負担や保護者の金銭負担が過重にならないよう、国からスポーツ団体等に対し、全国大会の開催回数の精選を要請」するよう求めている。この提言は今後、文化部にも適用されるか注目されている。

このことを踏まえ、内田氏は「大会で優勝したいがために、長時間の練習をするなど頑張りすぎてしまう。それを回避するためには大会の参加を抑制したり、競技団体の協力を得ながら大会の数をできるだけ減らしたりすることが必要でしょう」と話す。

このような負担が懸念されるなか、生徒の保護者はどのように受け止めているのだろうか? 内田氏はこう推察する。

「総じて強豪校の場合、部活の方針に賛同している保護者が多数派だと思います。運動部であれ文化部であれ、子供が頑張って賞をとることに保護者自身が大喜びする傾向があります。保護者が反対しているなかでこういう問題が起きるというよりも、むしろ賛成する人が多いなかで起こってしまうのではないかと思います」

さらに大会などで“優勝する喜び”は、ハラスメントを覆い隠してしまうという。内田氏はこう解説する。

部活に打ち込んだ結果、優勝すれば泣いて感動する。そこで感動や達成感を味わってしまうと、なかなかマイナス面に目を向けられなくなりがちです。ハラスメント的な問題があったとしても、結局、感動の声に押し流されてしまう。

かたや同じやり方を繰り返すことで、離脱者が出てしまうことも。それでも大会に優勝した成功体験が優先され、次の年も同じやり方を続けてしまうのです。勝つことや成果に目を奪われてしまって、なかなか少数派の子供たちの苦しみや心身の傷には目が向けられてこなかったということです」

■「構造的に学校ぐるみの悲劇」

このような“負のサイクル”は部活動にだけでなく、学校側にも原因があるという。内田氏は「部活が学校の名前を有名にしてくれるから、学校そのものが部活に依存してしまう」と指摘し、“顧問の権力”についてこう解説する。

「強豪校になると何十年も同じ学校で顧問を続けるといったケースがあります。優勝回数を重ねると、顧問の学校内での立場が偉くなりやすい傾向にあります。一方で、校長は数年間で異動します。そうすると、部活で優勝を勝ち取ってくる顧問にこそ、高校の名前を有名にする力があることになってしまう。つまり、校長もその顧問には頭が上らないことになってしまうのです」

その上で、内田氏はこう続ける。

「それゆえ校長に相談しても、学校の名誉を優先して相談に向き合ってもらえないケースもあります。これは吹奏楽部だけの問題ではなく、学校全体の根深い問題でもあるのです。長時間の練習を行っていて、誰もメスを入れられないのは異常ではないでしょうか。その時点で校長が『おかしい』と言えばいいんですよね。言えないということは学校が黙認しているわけであって、構造的に学校ぐるみの悲劇なのだと思います」

ブラック部活動”をなくすためには、抜本的な改革が必要なようだ。