日産ジューク・プロトタイプに試乗 発表は9月上旬を予定 コンパクトSUVを再発明中
欧州でも人気の現行型日産ジュークtranslation:Kenji Nakajima(中嶋健治)
日産はクロスオーバーの新世代ジュークを2020年に発売するべく、開発に取り組んでいる。今年9月上旬にその姿が正式に公表される予定だが、AUTOCARは日産の開発現場へ滑り込み、生産前のプロトタイプに試乗する機会を得た。しかも、短時間ながら運転することも許された。
現行型ジュークが発売されたのは2010年。従来のクルマとは明確に差別化されたエクステリアデザインが特徴だった。ジュークは欧州でも高い人気を獲得し、これまでに100万台以上を販売している。モデル末期となった昨年も6万台がユーザーへと渡っている。
発表から10年で、ジュークが取り巻く環境は厳しさを増している。クロスオーバーというカテゴリーは、一気に新しいモデルで溢れかえった。ジュークよりもモダンなライバルが居並ぶ中で、日産は2代目ジュークの開発の手を休めるわけにはいかない状況だといえる。
新しいジュークの狙いはシンプル。既存ユーザーが惹かれた理由でもあるスポーティな走りやクルマとしての楽しさを維持しつつ、ややシャープなエクステリアデザインで、限られていたリアシートの広さとラゲッジスペースの容量を増やすこと。
そんな新ジュークがベースとするのは、ルノー・日産・三菱アライアンスで共有するCMF-Bモジュラー・プラットフォーム。ルノー・キャプチャーやクリオなどにも採用されているものとなる。新ジュークの全長は75mmも増えるが、まだ扱いやすい範疇の4210mm。ホイールベースも106mm伸びて2636mmとなった。これはフォルクスワーゲンTクロスより85mmも長く、車内空間はこのクラスの中でもかなり広い。
外観のデザインはしっかり「ジューク」
同時に高張力鋼板をボディに採用し、ホワイトボディで剛性は13%増しにしつつ、重量は6%削っている。エンジンはいまのところ日産マイクラ(欧州版マーチ)に採用されている3気筒の1.0Lターボユニットのみだから、この軽量化は重要なポイント。最高出力は116ps、最大トルクは18.3kg-mに留まっているのだ。オーバーブースト機能で、20.4kg-mにまで一時的に最大トルクは増やせるけれど。二酸化炭素の排出量も計測済みで、NEDC値にてマニュアルが113−118g/km、ATが111−116g/kmとなっている。
日産はまだプラグイン・ハイブリッドの導入について言及はしていない。しかしルノー・キャプチャーにはPHEVを追加することが発表されているから、可能性は高いだろう。純EVの可能性は低そうだ。
日産ジューク・プロトタイプでは、現行型も好き嫌いが別れたエクステリアデザインだが、2代目はどうだろう。デザイン・ディレクターのマット・ウィーバーは、コンセプトカーのGT-R 2020ビジョン・グランツーリスモやグリップス コンセプトとのデザインエレメントの共通性を認めている。だが、明らかに「ジューク」している。
特徴的なヒップラインや、後方へ傾斜したルーフライン。ウインドウフレームに一体化したリアドア・ハンドルなどは現行型同様。クラムシェル型のボンネットの面構成はボルボXC40にも似た雰囲気で、リアウィングはトヨタC-HRにも通じる処理にも見える。ヘッドライトはLED化され、物議を醸した現行型よりも落ち着いたアピアランスを形成している。
インテリアの質感は大幅に向上
インテリアの品質は明確に向上を果たした。英国ではエントリーグレードとなるビスタでも、ダッシュボードはソフト加工された表面を得ている。アクセンタとNコネクタという中間グレードが人気となるはずだ。デザインは曲面が多用され、細いラインが重なり合った化粧パネルがダッシュボードに張られており、ドアの内張りにも反復。センターコンソールやパワーウインドウのスイッチ周り、エアベントのトリムは、メタリックグレーで塗装されている。
英国でのトップグレードはテクナ・プラスになるが、オプションとしてミッドナイト・スタイリング・パックが選べる。3種類用意されるパーソナライズ・パッケージのひとつで、コントラストのあるインテリアのステッチ、アルカンターラの内装とグロスブラックのトリムなどを装備。全体として、現行型よりもプレミアム感を感じられる仕上がりとなっている。
日産ジューク・プロトタイプインフォテインメント・システムも進化した。モニターは8.0インチになり、ガラス製のカバーが付く。アップル・カープレイとアンドロイド・オートの他に、8台まで接続可能なwifiに、通信機能として4G回線のシムも内蔵。ナビゲーション用地図のアップデートのほか、グーグルストリートビューや交通情報などのデータ通信も可能となっている。
日産コネクテッドカーサービス・アプリを用いれば、ジュークの位置と速度を遠隔で確認できる。子供にクルマを貸したときなどに役立つだろう。このアプリを用いれば、リモートでドアのロックも可能。グーグル・ホームアシスタントと同期させて、「グーグル、タイヤの空気は補充したほうがいい?」といったコマンドを最大で20種類利用できる。追って35種類まで増えるようだ。
車内空間は拡大しても乗り心地は要改善
新ジュークはステアリングホイールのチルト(上下)に加えてテレスコピック(前後)の調整も可能となった。後部座席の膝周りや頭周りが拡大したことで、車内空間は身長180cmの大人でも4名が充分に座れるように広がっている。ラゲッジスペースも354Lから422Lへと増加。ラゲッジスペースのフロア高の調整も可能で、スペアタイヤを積まなければ、フロア下の空間も荷室として利用可能となる。
運転した印象が気になるところだと思う。AUTOCARを愛読してくれているのなら、現行型ジュークの個性的なエクステリアだけでなく、ダイナミクス性能での特徴についても触れてきたことはご存知だろう。現行型の発売当時の試乗では、テスターのひとりのマット・プライヤーが、タイヤの空気圧が高すぎないか確認したほど。それほど落ち着きのない乗り心地だった。
日産ジューク・プロトタイプ今回の試乗はあくまでもプロトタイプによる短時間で、英国ミルブルックの丘陵ルートを、日産の担当者がドライブする先行車を追走するという内容だったから、明言は難しい。だが、細かな衝撃を受けた際の吸収性、セカンダリーライドに関しては改善している様子。その反面、急な起伏の変化などに対応するプライマリーライドの面では、まだ詰めが甘いようだった。
今回の試乗車は、欲張った19インチという大径ホイールを履いていたことも理由だと思う。控えめな17インチのホイールに肉厚のタイヤを履かせて、サスペンション・スプリングとダンパーの設定を改めれば、スムーズになるだろう。だが、サスペンションはすでに開発が終了しているようだ。
1.0L 3気筒ターボは活発 競合匹敵
ステアリングフィールはずっと流暢になった。操舵感は軽いが、重さは切りましていくほどに増える。ボディコントロールも引き締まった感じがあり、ハンドリングは悪くなさそうだ。1.0Lの3気筒ターボエンジンのパワーは、フォルクスワーゲンTクロスに匹敵する動力性能を与えている印象。
スロットルレスポンスにはもう少し調整が残っているようだが、加速性能はリニア。エンジンを共有するマイクラとの違いは、6段に切られたギアすべてで、最大トルクが2.0kg-m増えるオーバーブースト機能を用いれるとこ。マイクラの場合、6段目では機能しない。
日産ジューク・プロトタイプトランスミッションは、CVTはなくなり、7速デュアルクラッチATと6速マニュアルの設定。ATの方が発進時のエンジンとの共振が多く伝わるようだった。これは開発チームへと報告している。日産のエンジニアによれば、MTのシフトフィールを改善したいと話していたが、既に日産キャシュカイ(デュアリス)よりも優れていると感じた。
ブレーキも調整が必要そうだ。パッドがしっかりディスクを掴むまでペダルを踏めば、充分に効きは強いのだが、エンジニアは踏み始めの効きのレスポンスを向上させたいと話していた。すべてがうまく仕上がることを期待したい。
最後に、英国では新ジュークの発売開始は2019年11月を予定している。価格は5%から10%程度、現行型よりも高くなる見込み。心待ちにしていよう。