世の中には、偏見の目で見られがちな職業があります。

たとえばAV業界。18禁とも呼ばれる世界で働く人たちは、自分たちの職業についてどう考えているのでしょう? 今回、インタビューに応じてくれたのは、AV業界で21年の経歴を持つ男優・しみけんさん

なぜアダルト業界に入ったのか」「偏見を持たれている現状についてどう感じているのか?」「なぜこの業界で働きつづけるのか?」といった質問を真正面から聞いてみました。

〈聞き手:福田啄也(新R25編集部)〉


しみけん】1979年生まれ。千葉県出身。AV男優として9300本以上に出演。著書に『AV男優しみけん 光輝くクズでありたい』『AV男優しみけんが教える うんこ座りでオトコの悩みの大半は解決する!』(どちらも扶桑社)など


※記事のなかには、一部読者の方に不快な思いをさせてしまう表現があるかもしれません。しかし、しみけんさんの人生を語るには欠かせないお話ですのであらかじめご了承ください。

福田:
今日はお会いできて光栄です。

はあちゅうさんのインスタ「旦那観察日記」(はあちゅうさんがしみけんさんの日常をサルのイラストでつづった日記)をいつも拝見してます!

しみけんさん:
ありがとうございます。インスタを始めてから、まさかここまで短期間で人気になるとは思いませんでした。

福田:
ボクがなかでもグっときたのが、この「半径5メートルの野望」という回なんですけど…

@mofu_everydayさんのInstagramの投稿
@mofu_everydayさんのInstagramの投稿

しみけんさんが楽しみにしていた番組の収録で、「AV男優」という職業のことを責められてしまう…という内容でした。ぜひご一読ください

福田:
寝ているしみけんさんの横で、はあちゅうさんが「この職業(AV男優)への偏見をなくす」と誓うシーン、正直感動しました。

しみけんさんは、自分の職業への偏見についてどう思っているのか、今回はその話を聞かせてください!

“人に言えないコンプレックス”を解放したのがAVだった

福田:
さっそく、しみけんさんが「なぜAV男優になったのか?」という話から聞かせてもらえますか?

しみけんさん:
はい。子どものころから「う○こ」が大好きだったからです

福田:
えっう○こ…それってよく子どもが「う○こ」って言葉でゲラゲラ笑う、という感じですか?

しみけんさん:
まったく違いますね。そんなバカにしたような話ではなく、「う○こ」のことを考えるとドキドキしてしまうんです

う○こに関しての最初の記憶は、4歳のときですね。当時好きだった女の子のう○こが見たくて仕方がなかったんですよ

福田:
そんな早くから…

しみけんさん:
それで、その子がトイレに入ったときに個室の下から手を伸ばして、その子がしたう○こをキャッチしようとしたんです。そしたら、先生に止められました。

でも、我慢ができなかったので、その子がトイレから出てきたときに手をベロベロ舐めたんですよね。そしたらすごく泣いちゃって。


思った以上にヘビーな内容に、はやくも先行きが不安になってきた福田

福田:
当時は罪悪感というか、後ろめたさのようなものはなかったんですか?

しみけんさん:
そこで初めて「この感情を表に出すとよくないんだ」って気づきました。

でも、子どものころって欲求をコントロールするのって難しいですよね。

小学校2年生のとき、たまたまクラスの女子がお休みだったので、女子トイレの掃除を担当したんです。これはチャンスだと思って、手で便器を掃除したんですよ。

福田:
言葉が出ない

しみけんさん:
帰ったあとそのままおやつを食べたんですけど、手についていたバイ菌まで口にしちゃって熱を出したんです。

慌てて病院に行ったら、医者が母親に「お子さんはもしかしたらいじめられているかもしれません…体内から、トイレにしかいない菌が出てきました」って言ったんですよ。

福田:
うわあ、お母さまはびっくりしたでしょう。

しみけんさん:
そうですね。

母はすぐに学校に乗り込んで「ウチの子がいじめられているんじゃないですか!?」って先生に問い詰めました。でも先生にはまったく心当たりがないですよね。

福田:
まあ、自分でやったことですからね…。それって自白したんですか?

しみけんさん:
それはさすがに言えませんでした。

母親が先生に詰め寄っている横で、ボクは「便器を手で磨いたからなんだよなあ」って思ってましたが、言い出す勇気はなかった。

ボクのこの感情は絶対に人に言っちゃいけない」という思いがより強くなりましたね。

福田:
「う○こが好き」という感情が強いコンプレックスになったんですね。

しみけんさん:
はい。仲のいい友達にも言えなくて、とても窮屈で苦しい思いをしました。ボクの青春時代は暗黒期だったと言ってもいいです。

そんな窮屈な世界を変えてくれたのがAVでした



しみけんさん:
15歳のとき、父親の会員カードをくすねて隣町のレンタルビデオ屋にAVを借りに行きました。そこで、『糞尿家族 ロビンソン2』という作品を見つけたんです。

福田:
なんて強烈なタイトル…

しみけんさん:
そうでしょう(笑)。

その作品のなかでは、みんなが楽しそうにう○こを食べていたんです

それまで「う○こが好き」という感情を隠して我慢しつづけてきたボクにとって、その作品はコンプレックスを肯定されたように感じました

それで「自分の居場所にここにあるかもしれない…」って思って、AV男優を志すようになったんですよ。

AVメーカーからの「う○こ食える?」という質問に運命を感じた

福田:
しみけんさんがAVの世界に入ったのは、18歳のときですよね。

当時は何をしていたんですか?

しみけんさん:
高校を卒業して、予備校に通う普通の浪人生でした。

一応進学校にいたので大学進学を考えていたのですが、たまたまスポーツ新聞に「AV男優募集!」という広告が載っていたのを見つけたんです。飛びつくように応募してみたら、すぐに採用されました。

福田:
おお…それでAV男優に?

しみけんさん:
いえ、実際に撮影に臨んでみると、それはゲイ雑誌の取材だったんです。募集していたのはゲイモデルでした。

福田:
ええ…「騙された!」って思わなかったんですか?

しみけんさん:
当時アダルト業界のことはよくわかってなかったので、「AV男優って男ともやるんだ」って思ったくらいですね。

結局、AVに出演することはなく、ゲイ雑誌の撮影をたくさんしましたよ。

ゲイ雑誌って皆さん気づかれてないんですけど、いろんなところでやってるんです。早朝の街中でヌード撮影とか(笑)



福田:
なるほど…では、そこからAV男優への転身したのは、どういうきっかけがあったんですか?

しみけんさん:
それはマツコ・デラックスさんのおかげです。

福田:
えっ、マツコさんが関係しているんですか!?

しみけんさん:
関係も何も、マツコさんはボクがゲイモデルをやっていた雑誌『Badi』の編集者だったんですよ。

それで当時、よくボクが性欲を持てあましている話をしたら、「お前今すぐAV男優になれよ!」って言われたんです。

福田:
へええ、そこにそんなつながりがあったとは…

しみけんさん:
そこで「なります!」って答えたものの、実際にAV男優になる方法がわからない。

だから、とりあえず借りてきたAVのパッケージの裏に書いてあった住所にひたすら履歴書を送りました

福田:
AV男優の就職って意外と泥臭いですね。

しみけんさん:
今はネットで調べられますけどね(笑)。

それで30社くらいに応募してほとんどダメだったんですけど、ある会社から電話がかかってきました。その第一声が「君、う○こ食える?」だったんです。



福田:
前置きもなくいきなり!?

しみけんさん:
そうなんですよ。でも、その一言にすごく運命を感じて。

ボクは「う○こが好き」というコンプレックスがあり、そこから解放してくれたのがAVでした。

だからその一言で「やっぱりボクにはこの業界しかない!」って思いましたね。

福田:
内容はともかく…確かにドラマのような話ですね。

ちなみに、本当に食べたんですか?

しみけんさん:
食べました


おおぅ…

しみけんさん:
ただ、その撮影の帰り道からずっと下痢が止まらなくなっちゃったんです。

数日たっても治らなかったので、病院で治療してもらいました。初めてのギャラが1万5000円だったんですけど、治療代が2万円で赤字でしたよ(笑)


お医者さんもびっくりされたでしょうに…

AV男優という職業を家族はどう思っているのか?

福田:
ここまで強烈なエピソードでしたが、この仕事についてご家族から何か言われることはなかったんですか?

しみけんさん:
実家で仕事の話はしないんですよね。

でも、帰るたびに楽しそうに生きている姿を見せていたので、あんまり心配されてなかったと思います。

福田:
へええ。しみけんさんがどんなお仕事をされているのか知っているんですよね?

しみけんさん:
知っていますよ。母親にはわりとすぐにバレました。

19歳のときに地上波のテレビに出たことがあって、「しみけんはAVのバイトをしている」って紹介されちゃったんですよ。

それを母親が見ていて、すぐに電話がかかってきました。

福田:
かなりびっくりされたでしょう…

しみけんさん:
もちろん。「嘘よね? あれは番組が仕込んだことなんでしょう!?」って。

でも、そこでAVに出ていることは否定できませんでした



しみけんさん:
一方の父親は、ずっと知らなかったんです。

それで7年前の正月に父親から電話がかかってきて、「お前今仕事何やってるんだ!! 忘年会で部下に『部長のお子さんってAV男優ですよね?』って聞かれたんだよ!そうなのか!?」って言われました。

福田:
お父さまもまさか部下から教えられるとは…

しみけんさん:
そこで、「そうだよ」って答えたら、初めて父親に罵倒されました。「貴様ァァ!!」って(笑)。

でも、「ボクは中途半端な気持ちでやっているわけではないし、この仕事でできた縁もある。辞めるつもりはないし、一生続けていく」っていう話を淡々としていたら、最後には「わかった」と理解してくれました。

福田:
息子の真剣な気持ちを受け止められたんですね…

ちなみに今年の7月にはあちゅうさんとご結婚されましたが、向こうのご両親はどうでしたか?

しみけんさん:
向こうのお母さんとはよく会っていて、仕事の話もしていました。

福田:
そうなんですか! 向こうのお母さまは、しみけんさんの職業に対して理解されているんですね。

しみけんさん:
うーん、口には出さないけど、偏見は持っているかもしれません

結婚って家系に入るってことですから、相手の職業がAV男優だったら「その人大丈夫?」って誰でも思うんじゃないですか?



AV男優として生きづらさを感じることはあるのか?

福田:
AV男優をやっていると偏見の目で見られがちな印象ですが、実生活で困ることってありましたか?

しみけんさん:
ありますよ。AV男優って風俗業にみなされてしまうので、信用の審査がおりないことがあるんですよ。

あるクレジットカード会社で審査に落ちたことがあるんですけど、無職の友だちはそこのクレジットカードを作ることができました。

そのときは「オレの仕事は無職よりも下なのか…」って思いましたね。



しみけんさん:
でも、不利な面はそのくらいで、基本的には得することが多いです。

いろんな人に会えるし、顔を覚えてもらえますから。悪いことを言ってくる人もいますが、自分の身近な人はちゃんと理解してくれています。

だから、「この仕事をしてなければな…」と思うことはないですね!

「偏見をなくそう」とは思わない。では、なぜしみけんは発信を続けるのか?

福田:
しみけんさんってAV男優のなかでも、よくメディアに出演されていますよね。

それってこの職業に対する偏見をなくしたいって思いがあるからなんですか?

しみけんさん:
うーん、最初は「AV業界への偏見をなくそう」って活動していた時期もあったと思います。

でも最近は、AVの世界には偏見の目や差別があるべきなのかなって思っているんですよね。



福田:
それは…どういう意味でしょう?

しみけんさん:
AV業界のなかには、ボクが「AV業界をもっと広い世界に引き上げたい」っていう気持ちで動いているのに対して、賛同しない人もいっぱいいるんですよ。

福田:
それは「オレらを日の目にさらさないでくれ」ってことですかね。

しみけんさん:
そうです。だから価値観がフラットになったら嫌がる人もいるんだなって気づいて、そういう偏見とかは考えないようにしています。

福田:
それじゃあ今はどんな目的でメディアに出つづけているんですか?

しみけんさん:
世の中で性について悩んでいる人がいなくなればいいって思っているからです。

生き苦しさを感じていたボクを救ってくれたのは、AV業界の性に対するオープンさでした。



しみけんさん:
性の悩みって、大なり小なりみんな持っていると思うんですよ。

でも、それを表に出す恥ずかしさや、ボクのような後ろめたさを持っている人もいる。

それを認められる社会になれば、世界が変わる人もいるんじゃないかなって信じているんです。

福田:
まさにそれがしみけんさんの原体験ですもんね。

しみけんさん:
そうです。AV業界でも性の悩みを持っている人が多いんです。自分に自信がないとか、コンプレックスがあるとか。

それって一般の人にも当てはまることは多いのに、発信している人っていないんですよね。それだったら、ボクがそれになろうと

性について、面白おかしく発信できる人間は必要とされているんじゃないかなって思っています。

「AV業界がなかったら…と考えるとゾッとする」

福田:
ここまでお話していると、しみけんさんって頭もよくて、話も面白いです。

正直AV男優じゃなくても、いろんな世界で活躍できると思うのですが、あえてAV業界にいる理由って何なのでしょう?

しみけんさん:
AV男優が天職だからですよ。というより、ボクはこの職業以外できないと思います

駆け出しのころはアルバイトを結構やってたんですけど、ことごとくクビになっちゃったんですよね。100円ショップが最も長く続いたんですけど、それも1カ月程度です。

福田:
えっ、なんでクビになるんですか?サボっていたとか?

しみけんさん:
いや、自分を抑えきれなかったんです。

外国人の履歴書の整理のバイトとかもやっていたんですけど、可愛い女の子を見ると我慢できなくてナンパしちゃったり、100円ショップのときもBGMが自由だったのでダンスミュージックをかけて店前でダンスを踊ったりしていました。

結局、自分の本能エネルギーみたいなものを発散できる場がないと、生きていけない人間なんでしょうね。

福田:
なるほど…

しみけんさん:
自分は曲がった性欲がなかなか抑えられず…だから普通の社会だと生きづらいんですよね

むしろこの仕事をやっているから、ボクは何とか自分を保てているんだと思います。もしAVという仕事がなかったら…と考えるとゾっとします(笑)

福田:
そこまで言いますか…自分のその性欲を抑えることはできないのでしょうか?

しみけんさん:
考えたこともあるんですけど、それってAVに出会う前の窮屈な世界に逆戻りですよね。

その世界に戻るくらいなら、AV業界でバリバリ仕事をしていた方が幸せだと思います。

福田:
それじゃあしみけんさんは一生AV男優として生きていきたいと。

しみけんさん:
もちろんです!



偏見の目にさらされていようと、自分を押し殺すほうが辛いと語ってくれたしみけんさん。

性に対するコンプレックスを抱えている人は多いかもしれません。このインタビューを読んで、少しでも気持ちが楽になっていただければ幸いです。

はじめは「う○こ」などの下ネタを言うことでさえ戸惑ってしまった私ですが、インタビューが進むにつれてどんどん抵抗がなくなってきました。

みんながこんなふうにオープンになれるのが、しみけんさんの理想なんだと思います

〈取材・執筆=福田啄也(@fkd1111)/撮影=田上太一〉

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