やってからでは、遅い。なんと、デンマークでは、国ごと禁止。…じつは、すべてOKじゃない、AIを使った翻訳のガイドライン。その中身

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その翻訳、もしかして「AI」でやりました……?

ChatGPTやDeepL、GeminiやClaudeなど、急速に進歩したAI翻訳を使えば「破綻のない英語」を書くのは簡単です。しかし、破綻がないことが、「理系英語として正確」かつ「世界に通用する」ではありません。AIによる出力結果を、正確な理系英語に“整える力”が必要です。

「正確な理系英語」を出力させるための、日本語原稿作りの重要ポイントとは……? 

全理系人に必須の考え方とテクニックを、豊富な実例を交えて懇切丁寧に解説した待望の書が、ご自身の英語論文執筆に加え、学術論文や産業分野の技術文書の英訳の経験も豊富な物理学者、森弘之さんの筆による『論文から技術文書まで 「AI翻訳」で書く理系英語入門』(講談社ブルーバックス)です。

本シリーズでは、この注目の書から、AI翻訳に必須のテクニックと、注意すべきポイントのいくつかをご紹介していきます。

本シリーズでは、この注目の書から、AI翻訳に必須のテクニック、ポイントのいくつかをご紹介していきます。

今回は、そもそもの基本として、どんな文書にAIを使っていいのか、言い換えれば「絶対にAI翻訳を使ってはいけない文書」とは? について考えてみます。便利だからとなんでもAI任せにしていると大変な目に遭うこともあるからです。

*本記事は、『論文から技術文書まで 「AI翻訳」で書く理系英語入門』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。

AI利用に関する企業や国のガイドラインを知る

そもそも、文書作成にAIを使用してよいのでしょうか。

この点について、論文投稿を受け付ける論文出版社や、技術文書を作成する企業などが、独自のガイドラインを設けていることも少なくありません。

さらには、国レベルでAI翻訳と人の手による翻訳とを区別するところも出てきました。

デンマークは2025年4月、AIが翻訳した文書を人間が校正して完成させた出版物において、その校正を行った人を「翻訳家」として表記してはならないとの決定をしました。

また、現時点ではAI翻訳に対する規制がないからといって、それが今後も続くとは限りません。AIの進化・発達とともに、その生成物に対する扱いは急速に変化しており、つねに問題の有無を確認する必要があります。

論文出版社のガイドライン

米国の南カリフォルニア大学の研究グループが行った2023年の調査によれば*、出版社としてのガイドラインよりも学術論文雑誌ごとのガイドラインの策定のほうが進んでおり、ランク上位100の論文雑誌のうち、87%が生成AIに関するガイダンスを提供していました。

ほとんどの論文雑誌は「AIが著者になる」ことを禁止している一方、「原稿を作成する際に生成AIを使ってはいけない」としているところは1%にすぎませんでした。生成AI を使用したことを論文内に明示するなどの基準を定めているガイドラインも多くありました。

出版社が規定を設けている例として、たとえば「Elsevier」は論文の可読性向上や翻訳支援として生成AIを使うことは許しているものの、本来人間の著者が洞察を深めたり結論を導いたりする作業を生成AIに行わせることは不可としています。

また、原稿そのものを生成AIに書かせること、画像の生成に生成AIを用いること、引用文献の生成に生成AIを用いることは、いずれも禁止しています(著作権侵害やAIによる勘違いを回避するためです)。

「Springer Nature」は規制がややゆるい印象ですが、生成AIを使用した場合は適切な箇所にそのことを明示することを求めています。ただし、可読性の向上や翻訳支援に生成AIを用いた場合は明示しなくてもよいとしています。画像の扱いは「Elsevier」と同様です。

「AI翻訳の出番」は、どこに?

以上のように、論文の作成自体をAIに丸投げするのは、現時点では不適切な行為と認識されているものと理解しておいたほうがよさそうです。

しかし、文章の推敲や校正、翻訳などにAIを利用するのは禁止されていないことも多く(明記を求められている場合もあります)、そこに「AI翻訳の出番」が待っていると言えます。

いずれにしても、このような規定は雑誌や出版社ごとに個別に設定されているので、論文投稿先のAI利用に関するガイドラインをあらかじめしっかり確認しておかなければなりません。

責任はすべて著者…だから必要、「英語の読解力」

なお、どの出版社・雑誌にしても、論文に書かれた内容の責任はすべて著者にあるとしています。これは、AI翻訳を使う場合、出力された英文を理解しないまま用いるわけにいかないという重要なことを意味しています。

仮にAIが今後、完璧なレベルにまで成熟し、AI翻訳になんの誤りも生じなくなったとしても、論文の著者はその英語を理解していなければなりません。

たとえば、私自身は日本語と英語以外の言語はまったく読み書きができませんし、とくにアラビア語や韓国語など、漢字もアルファベットも使わない言葉は文章の意味の推測すらできません。

AI翻訳を使えば、日本語で書いた文章をアラビア語や韓国語に翻訳することは可能ですが、でき上がった文章をまったく読めないまま(内容を理解しないまま)使うことになるので、とくに論文のような後世まで残る文書としてそれを公にすることは、恐ろしくてとてもできません。

英語論文においても同様です。AI翻訳が使える時代になったからといって、英語の読解力は依然として必要なのです。

技術文書の場合は、それを作成する企業と、(文書が自社向けでなければ)それを受け取る企業とがあり、それぞれにガイドラインが設けられていることがあります。一から英語で書く場合を別として、日本語の技術文書を英訳する場合、企業によって2つのケースがあります。

一つは、すべて人の手による翻訳を要請するケースです。

「すべて人の手による翻訳」を要請するケース

機械翻訳や生成AIによる翻訳の場合、文書を(一部ずつの場合でも)いったん翻訳ツールに入力することになり、それはすなわち、オンライン上に文書が流れることを意味します。

機密性の高い文書がオンライン上に置かれることは、たとえ断片的にであったとしても情報の流出が懸念されます。このことから、AI翻訳を禁止する企業も少なくありません。

もちろんネットに接続することなく、完全に手元のPC上だけで起動するツールが今以上に発達すれば話は変わってきますが、現時点では機密性の高い文書の翻訳は手作業で行う必要があるでしょう。

「AI翻訳+人による修正」のケース

もう一つは、AI翻訳を使ったのちに、人の手で修正をするケースです。マニュアルや仕様書など、公開を目的とした文書の秘匿性はそれほど高くないことから、AI翻訳が便利です。

ちなみに、「AI翻訳+人による修正」のことを、翻訳業界では「MTPE(Machine Translation Post-Editing)」 とよびます。翻訳会社に技術文書の翻訳を頼む際に、AI翻訳を使用しない場合とMTPE の場合とでは料金が異なるのが普通です。翻訳会社に依頼せずに、社員が自らMTPE を担当する場合も、その人の英語能力と関与の仕方によって、でき上がる文書の品質は変わってきます。

以上をまとめると、「技術文書の機密性」「用途」「MTPEを担当する人材の有無」などによって、AI翻訳を使用するかどうか、使用する場合は、その後の修正を誰がどの程度行うかが決まってくるのです。

次回は、時制や接続詞など、論理的な英文にするために知っておきたい、文法の知識をご紹介します。

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