記事のポイント
イラン情勢により原油供給難が生じるなか、靴業界が物流・素材コストの上昇に直面している。
合成素材の靴は素材の約70%が石油化学由来で、靴1足の総コスト構造の半分超に原油価格が影響する。
メフィストやクル、ブラックスエードスタジオは発注前倒しや一部値上げ検討で乗り切ろうとしている。


原油価格の高騰が、靴業界全体に波及効果をもたらしている。

イラン情勢により世界的な原油供給難が生じるなか、世界中の靴ブランドが圧迫を受けている。原油価格の上昇は、多くのリテールブランドの輸送・物流コストを押し上げているだけではない。

石油由来の副産物がミッドソールからパッド、縫製にいたるまで靴のあらゆる構成要素に使われているため、靴の生産そのものにも支障を及ぼしている。

さらに、ガソリンスタンドでの価格高騰は消費者に家計について再考を迫り、靴は極めて裁量的な支出項目となっている。

ここ10年近くにわたってサプライチェーンの混乱に苦戦してきた業界にとって、これはまた新たな試練だ。米国で販売される靴の99%程度は輸入品で、各靴ブランドはパンデミックや急騰した関税に対応してきたあと、いまは原油供給ショックと格闘している。

ブラック・スエード・スタジオ(Black Suede Studio)など、一部のブランドは、発泡材や接着剤などの材料を仕入れる際に、サブライヤーから値上げを迫られている。

一方、クル(Kuru)などのブランドは燃料サーチャージの引き上げに見舞われている。いずれにせよ、各社は需要予測を見直したり、発注をまとめたり、値上げを検討したりして打開策を探っている。

「多くのブランドが供給の遅れを取り戻そうとしている。関税の影響で生産量を増やすのに非常に時間がかかったと感じているからだ」と、メフィスト(Mephisto)米国法人CEOのローガン・バード氏はModern Retailに語った。

「ここでも同じことが当てはまるかもしれない。原油問題が続くかぎり、業界全体への影響はより長期化するだろう」。

FDRAが警鐘を鳴らす「靴の総コスト構造」への影響



米国最大の靴業界団体であるアメリカ履物卸売・小売業者協会(Footwear Distributors and Retailers of America、以下FDRA)は3月、500社を超える加盟企業向けにレポートを発表し、業界が原油価格の影響にさらされていることに警鐘を鳴らした。

FDRAは4月22〜23日に開いた年次のエグゼクティブ・ストラテジー・サミット(Executive Strategy Summit)でも、原油価格の上昇に言及している。

Modern Retailが入手したFDRAのレポートによると、原油価格は素材・生産・輸送にまたがって「靴の総コスト構造の半分超」に影響している。

レポートはまた、「合成素材の靴に使われる素材のおよそ70%が石油化学由来」であり、「それら素材コストの約30%は原油価格に直接連動している」とも指摘している。

実際、原油は合成ゴム(アウトソールなど)、ナイロン生地(ウーブンアッパーなど)、ポリエチレンフォーム(ソックライナーなど)を含む25種類の靴部材と直接結びついている。

FDRAは、原油が1バレル=90ドル(約1万3500円)超を数カ月続けて維持すれば、コスト圧力は加速し「値上げを吸収する余力が乏しくなる」と警告した。

4月26日、ゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)は、イラン情勢がこのまま続けば、今年後半の原油価格は、1バレル=120ドル(約1万8000円)近くまで上昇する可能性があると警告している。

消費者価格とスニーカー市場にも広がる原油高の余波



原油価格によって靴の生産・輸送コストが上昇すれば、靴を購入する消費者もその影響を必然的に受けることになる、とFDRAプレジデントのマット・プリースト氏は語る。

靴が消費者の手に渡るまでに、累積で10〜15%のコスト増は「容易に」想定できると、プリースト氏はModern Retailに述べた。多くのブランドは関税の影響で値上げを見送ってきたが、インフレも依然として懸念材料だと氏は語る。

政府データによると、消費者物価は3月までの12カ月間で3.3%上昇している。

「新学期が近づき、靴の需要が高まりはじめると、追加関税や原油価格など理由は何であれ、こうした価格上昇を抑えるのは非常に困難になるだろう。それが、この状況における課題のひとつだ」と、プリースト氏は語った。

原油価格の高騰の余波は、スニーカー・コレクターにまで及んでいる。

ゲーム感覚でスニーカーを購入できるアプリ、ホートファイア(HauteFire)のCEO兼創設者であるステフォン・マッコイ氏は、Modern Retail誌に対し、スニーカーファンは「一般発売のスニーカーを追いかける」のではなく、「価値が維持されるか、あるいは上昇する」と見込まれるスニーカーに、より多くのお金を費やすようになっていると語った。

「原油価格が高騰し、財布のヒモが固くなっている時代において、いまも昔も大規模なコラボレーションが成功を収め、一般発売のスニーカーは苦戦している」と、マッコイ氏は述べた。

メフィストとクルは発注前倒しや輸送費対策でリスクを抑える



原油コストの急騰が続くなか、各ブランドは次の一手を模索している。各社の事情とタイムラインは、使用する原材料、生産地、すでに値上げを行っているかどうかなどによって異なる。

フランスとポルトガルで靴を製造しているメフィスト米国法人は、自社製品の多くに天然ゴムと天然皮革を使用している。そのため、原油価格による最大の影響は輸送コストに現れている。

同社は現在、フランスからの発注予測時期を3カ月先から6カ月先へと前倒し、コストが上がる前に価格を固定しようとしている。

「この紛争が続くこと、石油供給に制約があること、原油価格が上昇するか、あるいはさらに上昇し続けることを想定してリスクヘッジを試み、できる手段すべてで影響を相殺しようとしている」と、バード氏は語った。

「可能ならば、ボラティリティ(価格変動)に振り回される受け身の対応ではなく、いまのうちから先手を打っていくべきだ」。

中国とベトナムで製造しているクルも、輸送コスト上昇への対応に追われている。

CEOのブレット・ラスムッセン氏はModern Retailに対し、燃料サーチャージは年初から「30%以上」上昇しており、これは燃料価格の上昇が直接の原因だと語った。クルの海上輸送業者も、2026年初頭からコンテナ1本あたり約1500ドル(約22万5000円)の値上げを実施している。

「こうした高水準の燃料サーチャージが2026年いっぱい続けば、追加費用は35万ドル(約5250万円)超に達する可能性があると見積もっている」と、ラスムッセン氏は述べた。

クルの工場側にも独自の課題がある。原油価格の上昇を受けて、ある工場ではフォームや靴ひもといった部材について、サプライヤーから値上げが間近に迫っていると通知された。

これらのコスト上昇のしわ寄せは、まもなくクルと工場側に及ぶ可能性があり、同ブランドはコストを吸収するか、商品価格を値上げして消費者に負担してもらうかを迫られることになる。

現時点では結論を出すのは時期尚早だと、ラスムッセン氏はいう。だがいずれにせよ、「我々はできるかぎり顧客に対してフェアでありたい。それがもっとも重要だ」と氏は説明している。

ブラック・スエード・スタジオはまとめ発注と限定的な値上げで対応



主にブラジルとイタリアで靴を製造しているブラック・スエード・スタジオは、ここ数カ月で輸送業者やサプライヤーから通常よりも高い見積もりが届くようになっている。

特にサプライヤーは発泡材類の値上げを進めようとしており、輸送業者は長距離輸送の料金を「間違いなく」引き上げていると、ファウンダーのクリス・アバキアン氏はModern Retailに語った。

コスト削減のため、同ブランドは小口発注ではなくまとめ発注の比率を増やそうとしている。2025年は関税を理由に一部の靴を値上げしているため、コストを吸収する「多少の余地」があるとアバキアン氏はいう。

仮にブラック・スエード・スタジオが再度値上げに踏み切るとしても、その幅は「特定の品目で最大5%、それくらいだ」と、アバキアン氏は述べた。

「我々はできる限り最善を尽くしてこの状況に対処しており、ブランドの信頼性を維持し、品質を現状維持、あるいは向上させることに努めている」と、アバキアン氏は語った。

「そして仮に値上げをするのであれば、あらゆる要素を慎重に検討するよう徹底している」。

[原文:Brands Briefing: How higher oil prices are shaking up the footwear industry]

Julia Waldow(翻訳、編集:藏西隆介)