軍資金700万は「パチンコ」で稼いだ。大谷全試合観戦の芸人、英語力・ツテなしで渡米した「無謀の結末」
英語力ゼロ、現地にツテなし、資金なし。それでも芸人として一花咲かせるために渡米を決意したミニタニさん。その無謀な挑戦を支えた軍資金700万円は「パチンコ通い」で叩き出したものでした。「運任せでは貯まらない」と語る彼が、パチンコ台の前で磨き上げたデータ収集の執念。それが、日米200人の報道陣を騒然とさせた「ミニビッシュ」誕生の奇跡、そして後の大谷翔平選手全試合観戦という前人未到の記録へと繋がっていきます。
【写真】帽子とユニフォームを脱いだら「超イケメン」私服姿のミニタニさん(7枚目/全17枚)
理想とは違うけれど、その「狂気」とも呼べる継続力は今、世界をも動かし始めています。Netflixの公式クリエーターに選出され、WBCでも全試合を現地で見守る予定だというミニタニさん。目の前の「大波」をみずから掴み取った男の、泥臭いサバイバル記録を振り返ります。
パチンコ台の前で1年。データを武器に「渡米資金」を稼ぐ
── 2022年から大谷選手の全試合を観戦している芸人・ミニタニさん。高校卒業後は芸人として活動をスタートし、後にアメリカンドリームを掴むため渡米しました。資金700万円を「パチンコ」で貯めたという話は本当ですか?
ミニタニさん:本当です。芸人のトップを狙う限界を感じてアメリカ行きを決めたのですが、日雇いバイトではまったく貯まらなくて。あるとき、たまたま休憩時間にパチンコに入ったら、6000円が8万になったんです。「これだ!」と。ただ、もちろん、そんなに甘くはない。そこからが自分との戦いでした。
── とはいえ、ギャンブルでそこまでの額を貯めるのは至難の業です。
ミニタニさん:運任せではないです。毎日パチンコに通い詰めてデータを収集し、勝率を徹底的に割り出しました。勝てると踏めば朝から晩まで打ち、ダメだと思えば昼前に撤退する。この孤独なルーティンを繰り返し、4年間で700万円貯めて渡米しました。
「電気屋の店員」を無料の教材に。英語力ゼロからの習得術
── 念願の渡米、とはいえ当時は英語力ゼロだったそうですね。現地でのコミュニケーションは?
ミニタニさん:行けばなんとかなると思っていましたが、現実は甘くなかったですね。まったく話せない。語学学校に通いながら、たとえば電気屋さんの店員さんにひたすら質問を繰り返す、という特訓を自分に課しました。
── 店員さんを相手に、ですか?
ミニタニさん:はい。1回目は何を言われているかまったくわからない。2回目は別の人に同じ質問をする。3回目でようやく単語が繋がってくる。それを繰り返して耳を慣らしていきました。コメディハウスという素人舞台にも通い詰めましたが、通訳してもらっても、日本語でも何が面白いのかわからない(笑)。それでも、とにかく場数を踏み続けました。
200人の報道陣が驚愕。「ミニビッシュ」誕生の瞬間
── そこからどうやってダルビッシュ有選手のものまねにたどり着いたんでしょう?
ミニタニさん:2012年に初めてダルビッシュ選手がメジャーリーグに来たんです。日本にいるときから「似てる」と言われていたので、見よう見まねでユニフォームを着て、レンジャーズのキャンプ地に行きました。
── 現場の反応はどうでしたか?
ミニタニさん:驚きました。ダルビッシュ選手は大変注目されていたので、日米200人くらいの報道陣がいたのですが、そこに「ソックリさん」が現れたことで、現場が騒然。BBCを含む世界中のメディアから取材攻めにあったんです。
片道6時間のキャンプ通い。偶然が手繰り寄せた「開幕戦のチケット」
── これを機に名前を「ミニビッシュ」としても活動することに。当時からメジャーリーグには詳しかったんですか?
ミニタニさん:全然、詳しくなかったです。でも、いざ行ってみるとキャンプでの選手との距離の近さや、プレーの迫力に圧倒されて。「何これ、面白い!」と夢中に。気づけばロサンゼルスの自宅からアリゾナのキャンプ地まで、車で片道6時間かけて通うようになりました。
── 往復12時間…。しかも、かなりの頻度で通われていたとか。
ミニタニさん:1回行っては、数泊して戻り、また1週間後に行く。それを繰り返すうちに、現地で「お前、面白いな」と声をかけてくださった人がいて。なんと当時ダルビッシュ選手がいたレンジャーズのオーナーの大親友だったんです。「今度開幕戦あるけど、チケット持ってるか」と手配してくださり、そこから道が拓けてきました。
「本人にはまだ挨拶できない」。大波の先にあった予定外の世界
── そこまで有名になると、ダルビッシュ選手ご本人とも交流があるのでは?
ミニタニさん:それが、いまだにちゃんとご挨拶できてないんです。あまりにもオーラがあるし、迫力がすごすぎて…。手紙を書いて、一方的にお伝えはしているのですが、恐れ多くて直接は無理でした。でも、開幕戦にいくとメディアの方が「ミニビッシュ来た!」と載せてくれていますし、僕の存在はご本人の耳には届いているみたいです。
── 当初思い描いていた「芸人としての成功」とは、少し形が違いますね。
ミニタニさん:英語力ゼロ、ツテも資金もない状態から渡米を夢見た結果、野球選手のものまねで生きることになるとは、1ミリも想像していませんでした。でも、思い描いていた世界と違う方向に舵が切られたとき、その大波に逆らわず乗ってみた。すると、ミニビッシュとして活動した先に大谷翔平選手の追っかけである「ミニタニ」としても活動が始まり、予想外の景色が広がっていきました。自分の感覚を信じて突き進む。それが結果的に、芸人としても自分が表現したことを世界に発信することができたのは、とても意義のあることだったなと思います。
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当初の夢とは違う「ものまね」という道。けれど、パチンコ台の前で培った「これだと思ったら突き進む」感覚が、彼を誰も見たことのない景色へと連れて行きました。 あなたが今、思い描いていた理想とは違う場所にいるとしても。その「予定外の大波」に身を任せてみた先に、意外な才能やチャンスが待っているかもしれません。
あなたは今、目の前に来た「想定外のチャンス」を、面白がる準備ができていますか?
取材・文:松永怜 写真:ミニタニ

