「結婚しない男女が増えている」と言われる昨今。しかし東京の婚姻率は人口1,000人当たり5.5%で、なんと全国1位を誇っている。(※『令和2年 東京都人口動態統計年報』)

特に「東京都区部」と呼ばれる東京23区は、その中枢を担っているのだ。

ただ、結婚すればそれだけで幸せなのだろうか?

東京23区内は、エリアによって生活している人たちの特徴が全く異なり、価値観や悩みも違う。

それぞれの区に生息する夫婦が抱える、苦悩や問題とは…?

▶前回:「夫の仕事がうまくいってると、私は暗い気持ちになる」世帯年収が上がれば嬉しいはずなのに、なぜ?




悩みを秘める品川区夫婦/優太(31)の場合


「優太、行ってくるね」
「うん!行ってらっしゃい」

朝の通勤ラッシュで混み合う品川駅の港南口で別れ、僕たちはそれぞれの電車に乗る。これが毎朝お決まりのルートだ。

妻の愛莉と結婚して、約1年。毎日幸せだし、僕の口元は常に緩みっぱなしだと思う。

出会った直後から、何度も何度もアピールして口説き落とした彼女。さすがに駅前でハグはできないけれど、本当は毎日でもハグしたい気分だ。

でもそんな僕たちにも悩みがある。

…それは、子作り問題についてだった。


愛莉と出会ったのは、マッチングアプリだった。元カノにフラれて落ち込んでいたときに、友人から勧められて使い始めたのだ。

可愛い子は何人もいた。

でも僕は、愛莉の写真を見た瞬間に心を撃ち抜かれたのだ。とにかく僕のタイプ。目がクリッとしていて小柄で、しかも料理上手(とプロフィールには書いてあった)。

「ヤバイ、運命の人が現れた…!」

そう感じた。しかし、彼女と会うまでのハードルは高かった…。最初のメッセージはスルーされてしまったし、何度か送ってようやく返信が来たのだ。




「あのときの優太、必死だったよね」

今でもそう愛莉に笑われるほど、僕は懸命にアプローチした。しかしその努力が実を結んで付き合うことができたので、あの頑張りは無駄ではなかったと今でも思っている。

29歳でコスメ系会社のPRをしている愛莉と、大手デベロッパーで働く30歳の僕。交際当初から、僕のほうは今すぐにでも結婚していいと思っていた。

「愛莉は結婚願望、あるの?」
「うん、あるよ」

この返事を聞いたとき、彼女からのプロポーズに聞こえてしまったのは僕の早とちりだったのだろうか…。

でも結局、僕たちは交際期間1年弱で結婚することになった。僕は愛莉のことが本当に好きだったし、ダラダラ交際してもあまり意味がないかなと思ったから。




「愛莉のこと、一生幸せにするから」
「優太…。ありがとう」

プロポーズのときには大粒の涙を流しながら頷いてくれた愛莉を、この世の誰よりも愛おしいと思った。

ただ、しばらくして彼女がこんなことを言い始めたのだ。

「そうだ優太。私、子どもはいらないから」
「…えっ!?」

あのときの衝撃を、僕は今でも忘れられない。

愛莉から「子どもはいらない」と言われ、僕はしばらく理解に苦しんだ。何を言っているのかよくわからなかったし、結婚すれば必然的に子どもを育てることになるだろうと思っていたから。

でも彼女は、僕とは全く違う意見を持っていた。

「子どもって必要?今のこの生活ができているのも、夫婦2人だからでしょ?」


僕たち夫婦は結婚後、品川駅から徒歩15分ほどのタワマンに引っ越した。55平米で、家賃は25万。

ちなみに品川駅は港区だが、少し歩くと品川区になる。

見晴らしのいい自宅からは、お台場や羽田空港から飛び立つ飛行機がよく見える。眺望も気に入っているし、何よりタワマンに住んでいるという高揚感もあった。




「子どもができたら、いくらかかると思ってるの?今のように自由に使えるお金は減るし、そもそもDINKsでも幸せそうな夫婦はたくさんいるし」

愛莉の正論に、ぐうの音も出ない。

でも頭ではわかっていても、僕は子どもが好きだし父親になりたい願望が強かった。ひとりっ子である僕が、両親に孫を見せてあげたいと思うのも自然なことだと思う。

ただ何度話し合っても、妻の意思は変わらない。

「だから私は、優太と2人で楽しい生活が送れればそれでいいから」

愛莉のことは大好きだ。何よりも大事だし、こんなに可愛くて素敵な女性と付き合えて、さらに僕の妻になってくれたことは奇跡だといまだに思っている。

毎日幸せを感じるし、今後の人生で彼女に飽きるなんてことは全く想像できない。

「でも…」

僕は家族がほしかったし、家族を作りたかった。もちろん、愛莉が妻になったことで家族にはなったけれど…。でもそこに子どもがいるかどうかでだいぶ変わってくる。

しかし子どもを産んでくれるのは女性であり、その前で男性は無力と化す。だから愛莉が「いらない」と言っている以上、何もできない自分がいた。



日曜の朝。ランニングに出かけると、どこからか楽しそうに遊ぶ子どもたちの声が聞こえてきた。

品川駅からは新幹線にすぐ乗れるし、付近には大手企業がたくさんあるため平日は圧倒的にサラリーマンが多い。ただ週末になると、街の様子は一変する。

駅から少し離れて湾岸の方へ行くと一気に家賃が安くなるので、若い夫婦も多い。

週末の『T.Y.HARBOR』は品川区民のメッカだ。あの界隈にはアートギャラリーも多く、散歩には困らない。




そんな比較的新しい街並みは綺麗に整備されており、よく晴れた日はNYのブルックリンにいるかのような気分にもなれる。

でもたまに、この街並みが無機質に見えることもあった。

コンテナや倉庫が多く、人が少ないエリアもある。またオフィス街なので土日はレストランが閉まっているところも多く、ガランとしている。

一見華やかだけど、別の顔も持ち合わせている品川区。…それはまるで、僕たち夫婦みたいだ。

愛莉と僕は“答えのない正解”を、結婚してからずっと探し続けている。

▶前回:「夫の仕事がうまくいってると、私は暗い気持ちになる」世帯年収が上がれば嬉しいはずなのに、なぜ?

▶1話目はこちら:大金持ちの彼にプロポーズされた瞬間、なぜか絶望した女。2カラットの指輪も貰ったのに…

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