適度な加湿は大切だけど…

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 冬は空気が乾燥しがちなため、風邪やインフルエンザ予防のために自宅で加湿器を使っている人も多いと思います。ある程度の湿度を保つことは大切ですが、中には、加湿器の使い過ぎで窓や壁に結露が生じたり、カビが生えたりするケースもあるようです。加湿器の使い過ぎが住環境や健康に与える影響について専門家に聞きました。

結露で建材が傷むことも

 まず、ハウスクリーニングアドバイザーの有賀照枝さんに聞きました。

Q.冬に部屋を加湿することの大切さを、住環境の面から教えてください。

有賀さん「冬に部屋を加湿すると、まず、体感温度が上がり暖かく感じられます。体感温度は、温度だけでなく湿度も大きく関係しています。同じ25度の部屋でも湿度が高ければ暑く、湿度が低ければ涼しく感じます。日本の冬は低温低湿です。エアコンなどで加温した場合、併せて加湿して湿度を上げると、加湿しない場合よりも暖かく感じられます。

また、適度に加湿することで、空気中に舞っているホコリや花粉を床に落とし、舞い上がりにくくすることができます。さらに、冬場に乾燥するとビリッとする静電気が発生しやすくなりますが、加湿で静電気の発生を抑えられます。

冬は乾燥注意報の発令が増え、火の取り扱いも注意喚起されます。湿度が低いと、住宅建材でよく使われる木材の乾燥が進み、火災のリスクが高まりますが、加湿でリスクが低減されます」

Q.一方で、加湿器の使い過ぎで窓や壁に結露が生じている家庭もあるようです。湿度が高過ぎると、住環境にどのような影響があるのでしょうか。

有賀さん「湿度が高過ぎると、空気中の水蒸気が水滴になった『結露』が生じやすくなります。結露には、表面結露と内部結露があります。

表面結露とは、目に見える部分で起こる結露のことで、室温と外気温の差が大きくなりやすい窓やサッシでよく見られます。結露した窓やカーテンをそのままにしておくと、カビが発生しやすくなります。内部結露とは、普段は目に触れない壁内部の断熱材や天井裏で結露が生じることで、建材の腐食や劣化が進んで家が傷みやすくなります」

Q.カビが生えてしまう理由は。

有賀さん「カビが繁殖しやすくなる条件は、温度20〜30度▽エサとなる栄養成分がある▽湿度が高い――です。湿度が60%を超えるあたりから発生しやすくなり、高くなるほどカビには好条件となります。壁やカーテンにカビが生えるのは、湿度が高すぎて結露が発生し、結露がいつまでも残っている場合などです。壁紙表面だけでなく壁自体にも根を生やし、建材を傷めることもあります」

Q.健康のために加湿器を一晩中つけていたら、翌朝、床が湿っていたという経験のある人がいます。加湿器とエアコンを併用して、寝る前にエアコンだけ切ったら、床が湿っていたそうです。

有賀さん「加湿し過ぎの可能性があります。就寝中、加湿して部屋の乾燥を防ぐことは、健康面では悪くないと思いますので、穏やかに加湿する方法を試してみてください。加湿器のタイマー機能を使う▽ぬれたタオルを寝室につるす▽コーヒーカップに水やお湯を入れて枕元に置く――などの工夫が考えられます。

加湿器とエアコンの関係を理解するには、まず、温度と湿度の関係を知ることが近道です。私たちが一般的に『湿度』と言っているのは、『相対湿度』といって、そのときの気温における飽和水蒸気量(1立方メートルの空気中に含むことのできる水蒸気の量)に対する割合のことをいいます。

温度が高くなると空気が膨張して、抱えることができる水分量、つまり飽和水蒸気量が増えるので相対湿度が下がります。温度が低くなると、逆に飽和水蒸気量が減るので、相対湿度が上がります。エアコンを切ったことで、睡眠中に部屋の温度が下がって飽和水蒸気量が減り、水蒸気でいられなくなった水分が水滴になり、床が湿ったのです」

Q.加湿器の使い過ぎで結露したときや、カビが生えた際の対処法を教えてください。

有賀さん「結露してしまった場合、とにかく結露した部分の水分を拭き取り、換気をして水分を飛ばすことが大切です。窓であれば、クロスや結露取りワイパーで結露を取り除き、窓を開けて家中に外気が回るよう換気してください。

カビが生えたら、基本的には塩素系漂白剤を使いましょう。漂白剤使用後は水で流せないので、しっかりと水拭きすることがポイントです。材質によっては色が抜ける場合があるので、必ず目立たない場所で事前にテストしましょう。

カーテンなど布製品にカビが生えた場合は、酸素系漂白剤でのつけ置き洗いがおすすめです。カビを見つけたら早めの対処が肝心です。時間がたつほど落ちにくくなります」

Q.部屋を快適に保つための加湿器の上手な使い方や、適切な湿度を教えてください。

有賀さん「温湿度計を一つの目安として使い、室内の湿度に気を配りましょう。同じ部屋でも場所によって湿度が違うので、直射日光やエアコンの風が直接当たらない出入り口以外の場所で、腰の高さ〜目線程度の高さに設置しましょう。

厚生労働省の建築物環境衛生管理基準では、相対湿度40%以上70%以下を目安としているので参考にしましょう。ただし、湿度60%を超えるとカビが繁殖しやすくなるので、必ず定期的に家中の空気の入れ替えを行い、湿度コントロールしましょう。

加湿器は部屋の隅に置くより、比較的中心に置くとよいです。パソコンなどの精密機器や本棚など紙製品のそばに置かないように注意してください。また、サーキュレーターなどを使って、温まった部屋の空気を循環させ、部屋中の温度や湿度が均一にするなど、室内の温度差を少なくして結露をなるべく防ぎましょう」

カビが原因、「加湿器病」の恐れも

 過剰な加湿の健康面への影響について、内科医の市原由美江さんに聞きました。

Q.冬に部屋を加湿することの必要性を教えてください。

市原さん「喉が乾燥すると、細菌やウイルスなどの病原体が粘膜に付着しやすくなり、感染しやすくなります。これらを予防するためにも、普段から加湿を心掛けることは大切です」

Q.一方で、加湿器の使い過ぎで湿度が高過ぎると、体にどのような影響がありますか。また、結露してカビが生えてしまった場合は。

市原さん「湿度が高過ぎると、汗による体温調節機能がうまく働きにくくなります。高温の環境でなくても、この状態が続くと熱中症になる可能性があり、注意が必要です。また、室内にカビが生えると、アレルギー性鼻炎や気管支ぜんそく、肺炎などにかかる可能性があります」

Q.加湿器が原因といわれる「加湿器病」があると聞きました。詳しく教えてください。

市原さん「アレルギー反応による肺の炎症『過敏性肺臓炎』のことを『加湿器病』と表現することがあります。肺炎と同様、せきや発熱などの症状があります。アレルギーの原因となるアレルゲンにはさまざまな種類がありますが、多いのがカビです。普通の風邪と見分けがつきにくいので、せきや発熱などが2週間以上続いたら医療機関を受診してください。

原因となるアレルゲンを除去することで快方に向かいますが、重症の場合やアレルゲンを除去しきれない場合はステロイド治療で対応します」