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米民主党大統領候補4人
「中国こそ米国にとっての脅威だ」

 米国にとって「今そこにある最大の脅威」とは何だろう。

 米民主党大統領候補による公開討論会の1日目、司会者が10人の候補者に聞いた。

 4人は「中国こそ最大の脅威だ」と答えた。

 ジョン・ディレーニ前下院議員、エイミー・クロバッチャー上院議員、ジュリアン・カストロ元住宅都市開発長官(中国と地球温暖化)、ティム・ライアン下院議員たちだ。

 支持率レースのトップグループにつけているリベラル派のエリザベス・ウォーレン上院議員とベト・オルーク前下院議員、黒人候補のコリー・ブーカー上院議員は「地球温暖化」を挙げた。

 ワシントン州のジェイ・インスリー知事は「最大の脅威はドナルド・トランプ(大統領)だ」と言い切っている。

 ニューヨーク市のビル・デ・ブラジオ市長は「ロシア」を挙げた。その理由として「ロシアは米民主主義を侵食し、ぶち壊そうとしている」からだという。

 これまで「ドナルド・トランプ(大統領)は米国にとって実存的脅威だ」と繰り返し言ってきたジョー・バイデン前副大統領は、2日目の討論会に登場、「中国は脅威ではない」と否定している。

 人気急上昇中のリベラル派のカマラ・ハリス上院議員も「ドナルド・トランプ(大統領)だ」とツィートしている。

 ハリス上院議員はその理由として、トランプ氏は地球温暖化を否定し、独裁者の金正恩朝鮮労働党委員長と「抱擁」する一方で、米情報機関の情報よりもロシアのウラジミール・プーチン大統領の言っていることを信用しているからだとしている。

米市民:ロシアより中国の脅威が深刻

 米国にとって「最大の脅威」は何か――。筆者は、数人の米市民に聞いてみた。

「中国だ」と答える人が圧倒的に多い。軍事的脅威というよりも経済的脅威だとする人の方がやや多い。「イラン」を挙げた人もいたが、「北朝鮮だ」と答える人はいなかった。

 米一般市民にとっては、トランプ大統領が金正恩朝鮮労働党委員長とテレビ向けにいかにいちゃいちゃしようとも、「北朝鮮」は関心外になっているようだ。

「中国脅威」論は、目下進行中の「米中貿易戦争」の影響なのだろう。ギャラップ世論調査が今年2月に実施した世論調査結果はこうだった。(複数回答)

一、46%が中国の経済力は米国にとって「極めて重大な脅威」(Crucial threat)
と答えている。(2013年の時は52%)

二、43%が中国の経済力は「重大な脅威」(Important threat)と答えている。(2013年の時は39%)。「極めて重大な脅威」「重大な脅威」を合わせると89%となる。

三、41%が中国の軍事力は「極めて重大な脅威」と答えている。(2013年の時は51%)

四、46%が中国の軍事力は「重大な脅威」と答えている。(2013年の時は39%)

 民主党大統領候補の多くが「中国脅威論」を唱えた背景には、こうした市民の対中脅威感を反映しているのだろう。

 指名される可能性のある候補が「中国」を避けたのは、大統領選が中盤、終盤に向かう中で「中国」問題が必ず浮上するのを予測してある種の政治外交的配慮をしているからだろうか。

(https://news.gallup.com/poll/1627/china.aspx)

ロシアの脅威:
民主党支持者の67%、共和党支持者の46%

 ロシアの脅威についてはどうか。

 同じく今年2月にギャラップが実施した世論調査では以下のような結果が出ている。

一、52%がロシアを「極めて重大な脅威」と答えている。(2016年の時は39%)

二、「ロシアの脅威」を感ずる民主党支持者は65%だが、共和党支持者は46%だった。

(https://news.gallup.com/poll/247100/majority-americans-consider-russia-critical-threat.aspx)

 民主党支持者の間には2016年大統領選にロシアが「介在」したとされる「ロシアゲート」疑惑がある。

 ヒラリー・クリントン民主党大統領候補が敗れたのはロシアのせいだといった一部民主党支持者の疑惑はそう簡単には拭えない。

「トランプ大統領こそ米国にとって最大の脅威だ」と言ってのけるバイデン、ハリス氏の発言について米市民はどう受け止めているのだろうか。

 トランプ再選を妨げる民主党候補にとっては、「選挙民にアピールする効果的なスローガンとして極めて効果的」(米主要紙政治記者)ではある。

 だが、政治専門メディアの「ザ・ヒルズ」傘下のテレビ局が2018年9月に実施した世論調査によれば、「トランプ大統領は脅威だ」と回答した米市民はわずかに10%だった。(テロ攻撃を脅威と答えた人は26%)

 前述の政治記者はこう解説する。

「時の大統領が国家の脅威だ、と答える市民が10%もいるというのは前代未聞だ」

「トランプ大統領が『法の支配』をないがしろにしたり、自国の情報機関情報よりもロシアの言い分を使用するかの発言を繰り返していることに対する不信感が警戒心となっている」

「トランプ氏が共和党も地球温暖化を全く無視していることも知的市民の目には危険千万だ、と映っている」

 もう一つ、別の世論調査結果がある。

 トランプ政権が発足して間もない2017年に実施された「公共宗教調査研究所」(Public Religious Research Institute)が行った世論調査では46%の米市民が「トランプは国家にとって脅威だ」と回答している。

(https://thehill.com/hilltv/what-americas-thinking/406532-10-percent-say-trump-is-bigger-threat-than-terrorist-attack)

「象牙の塔」から抜け出し
イラクで政治顧問を務めた著者


 ここに紹介する本書は、米国が今直面している3つの脅威、すなわち「中国の脅威」「ロシアの脅威」「トランプの脅威」を取り上げている。

 著者のラリー・ダイアモンド氏はスタンフォード大学教授(社会学)。フーバー研究所上級研究員も兼ねている。

 2004年にはコンドリーザ・ライス国務長官(当時)に請われてイラク暫定政権の政治顧問を務めたこともある。

 政治思想的には米民主主義を世界中に広めるためにはあえて軍事力行使もやむを得ないとする「中道リベラル・タカ派」、別名「ヒューマニテリアン・インターベンショニスト」(Humanitarian interventionists)だ。

 著者は、米国を取り巻く危機についてこう書いている。

「現在われわれを取り巻いている憂鬱さにもかかわらず、ここ20年、それ以前に比べれば、米国はそして世界はより自由さを取り戻してきた」

「サミュエル・ハンティントンが指摘したグローバルな民主化の波は1776年に起こり、南欧、中欧、南米、さらにはサブサハラのアフリカ諸国やアジアにまで波及した。この波はソビエト連邦崩壊によってさらに勢いを増した」

 だがこの波は2006年以降、民主制の後退に伴い、独裁制がこれにとって代わり始めた。建前は選挙によって民主的に選ばれたかに見える国家の一部指導者が独裁体制を敷き始めたからだ」

 著者の頭の中にある「独裁者」とは中国の習近平国家主席であり、ロシアのプーチン大統領だ。

「言論・集会の自由」を規制する一方で政府に反対する少数民族を弾圧、いわゆる政治犯を「政治教育キャンプ」という名の下に強制収容所に収容する国家は増える一方だ。

 始末が悪いのは、これらの国はその大義名分にナショナリズム(民族主義)を前面に押し出し、市民をがんじがらめにしていることだ、と著者は指摘している。

「そういうわが国、アメリカ合衆国も人種差別主義やらポピュリズムやらをごちゃ混ぜにしたドナルド・トランプという、まるで『アメリカ版オルバーン*1』のような人物が大統領になっている」

「この状況はかつて米国政治を危機に陥れたリチャード・ニクソン第37代大統領のウォーターゲートの時よりも脅威となっている」

*1=ビクトル・オルバーン氏はハンガリーの首相。極右政治家。移民・難民で強硬な政策を推進、「民族が混ざりすぎると問題が生じる」「移民は毒」などと発言している。

「トランプ氏の違法行為、大統領としての品格欠如はすでに米大統領の尊厳を傷つけている。司法省への介入、報道の自由の侵害、法外な移民対策など極右的指向は目に余る」

 著者はトランプ大統領に対する国際社会の評価の低さを取り上げる。

「ギャランプが134か国を対象に行った世論調査ではトランプ支持率は30%。イラク侵攻でさんざんだったジョージ・W・ブッシュ第41代大統領よりも4ポイント低いという結果が出ている」

「もし米国の建国の基礎である自由民主主義(Liberal Democracy)の理念を今一度世界に広めたいのであれば、この惨めな米大統領を変えるだけでは十分ではない。英仏独日印などの民主国家の指導者たちを総動員して取り組まねばならない」

「トランプ大統領の自己満足こそ国家の危機」

 本書の副題にある「American Complacency」(米国の軽蔑的な自己満足)。

 トランプ大統領の「米国第一主義」「Make America Great Again」をスローガンにする自己満足を指していることは言うまでもない。

 主要シンクタンクの上級研究員A氏と本書について話し合った。A氏はいみじくもこう言った。

「駐米英国大使が極秘公電に記したトランプ評価が騒がれている。しかし、それはトランプ政権の閣僚や大統領補佐官ですら口にしていた評価と同じだっただけのこと」

「トランプ大統領が自らの政策や言動について自己満足していること自体が、米国にとっては危機そのものなのだ。それを著者のダイアモンド氏は指摘しているわけだ」

 MIT(マサチューセッツ工科大学)のノーム・チョムスキー名誉教授が7月5日、ボストンで特別講演した。

「トランプを産み落とした責任は10年、15年前の共和党主流派エスタブリッシュメントにある。その前にもトランプのような型破りな大統領候補は何人かいた」

「しかし予備選段階で皆握りつぶしてきた。ところが2016年の予備選ではそれができなかったのだ」

「東部のカトリック層を民主党に奪われた共和党は南部のエバンジェリカルズ(宗教保守)票を民主党から奪った。リチャード・ニクソン第37代大統領の南部戦略だ」

「その結果、共和党は保守富裕層票田(Real Constituency)と選挙に勝つための中・低所得層票田(Voting Constituency)の双方から票を集めるという選挙戦略を強いられた」

「そのため共和党候補は人工中絶反対とか、地球温暖化否定を唱えざるを得なくなった。エバンジェリカルズの主張に振り回され出した」

「ロナルド・レーガン(第40代大統領)もジョージ・H・W・ブッシュ(第41代大統領)も人工中絶反対などと言っていなかった。『連邦政府は介入しない』という姿勢だった」

「『選挙に勝つための中・低所得層票田』を重視するあまりに政策上の変化が生じた。予備選段階でトランプのような候補者を握りつぶせなくなったのだ」

「どうしたら民主党はトランプを倒せるか」

「いつまでやっていても白黒決着のつかないロシアゲート疑惑などにかかわっていないで、地球温暖化、核戦略見直し、無駄な規制の緩和など具体的な政策を打ち出すべきだ」

「トランプを支持する極右を含む保守集団と対決できる正真正銘な政治勢力を結集すれば、必ずトランプ政権を倒せる」

(https://www.democracynow.org/2019/7/5/an_hour_with_noam_chomsky_on)

 2020年の大統領選まであと1年半。

 今米国の民主主義が直面する「危機」をめぐる本が春から夏にかけてすでに数冊出ている。米国に対する「危機」はすなわち「自由民主主義」に対する危機、といったトーンではみな共通している。

 選挙戦が進む過程で「脅威」論争は白熱しそうだ。

筆者:高濱 賛