一方、師匠の元で修行を続け、茶の極意の一つ「主客一体(主人と客が一緒になって場をつくること)」を悟った彼は、いつしか立派な茶人(ちゃじん)となっていた。



「何の用だ!また痛い目にあいたいのか!」

アキちゃんを取り返しに来たと知り、荒ぶるマッチョに対し、茶人は常に冷静だ。
マッチョと対立するのではなく、マッチョをおもてなしに来たのだ。



「こちらをご覧下さい」

「What!?」



「こ、これは……!」

そこには進化した新型「茶室MOVE」があった。


まずはトリックアートの洞窟とキリンでお出迎え。

茶室は非日常な空間なので、そこに至るアプローチである「露地」で、日常と非日常をつなげる橋渡しをすることが大切だ。


そこでこのマッチョ外国人の故郷、アフリカにつながる「洞窟」を表現することで、まずは車内に「露地」を作ったのだ。




掛け軸も日本の「鶴」ではなくアフリカの「象」をモチーフにしたものを用意。
花はアフリカのケニアでよく咲いている「かすみ草」を活けた。
そう、茶人は彼の故郷のアフリカ・ケニアをコンセプトにした茶室を作ったのだ。


もちろん茶碗もキリンをしつらえた特注品だ。


お茶菓子も彼の故郷の家庭料理「サモサ」を用意した。


「こ、この味は……!!か、かあちゃん!?」


そう。故郷から遠く離れた日本で暮らす彼のために、
茶人はわざわざアフリカに住む彼の母親の手料理を取り寄せていたのだ。
そして母親から手紙まで預かってきた。



ネリーへ

長く会っていませんが元気ですか?
日本の人は優しくしてくれますか?
そして、あなたも日本の人にやさしくしていますか?

あなたは昔から優しい子だったから心配はしていませんが、
日本でケニアの誇りとなる人に成長してくれれば嬉しいです。
妹は学校で「お兄ちゃんは日本でがんばってる」といつも自慢していますよ。

そろそろ一度、ケニアに帰ってきて下さい。

母より


かあちゃん・・・