【中村 清志】「ココイチ、パフェを買う」は正気なのか…満を持して”カレーの一本足打法”から卒業、その勝算は

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近年、外食企業のM&A(合併、買収)にまつわるニュースが連日報じられている。その業態も様々だが、共通するのは国内市場の飽和、物価高などの逆風から生き残るべく、多角化を目指すという点だ。

そんな中、これまでカレー業界のガリバーとして、カレーの一本足打法で成長を遂げてきた「カレーハウスCoCo壱番屋」(以下、ココイチ)にも変化が起きている。同チェーンを運営する株式会社壱番屋は、今年に入ってグループ店舗数1500店舗を達成。ところが節目となる1500店舗目となったのは、当然ココイチ……ではなく、まさかの「パフェ専門店」だったのだ。

直近の2026年2月期通期決算では増収減益と足踏みが続く同社が掲げる起死回生の一手、すなわち「ココイチ以外の異業態での成功」は果たして実現するのだろうか。

【後編記事】『鰻の成瀬とはココが違った…ココイチが《値上げ→大量客離れ》に苦しみながらも「閉店ラッシュ」が起きない不思議なカラクリ』よりつづく。

国内、海外「想像以上に伸び悩む」なかで…

4月6日に発表された壱番屋の2026年2月期通期決算を、あらためてセグメント別に見ていこう。まずはココイチを中核とした国内事業はどうだろうか。

直営店とフランチャイズ加盟店を合計したグループ全体の店舗売上高は、全店ベースで929億円(前期比+1.0%)、既存店ベースでも前期比+0.5%と、2024年8月の値上げ以降、客離れに苦しみながらも、なんとか水際で持ちこたえている印象だ。

同社としては今後も厳しい経営環境がしばらく続くものと想定。その上で、飲食店の基本となるQSC(料理の品質、接客・サービス、清潔さ)の向上に立ち返りつつ、効果的なマーケティング戦略によって新たな顧客層の開拓に注力していくとする。

次に海外事業だが、今やココイチの海外店舗数は218店あり、数だけで言えば日本の約2割まで拡大している。全店ベースの店舗売上高は新店の売上が好調だったこともあり、今期は190億円(前期比+2.4%)を記録した。

とはいえ、海外すべてが好調というわけではなく、これまで出店攻勢をかけてきた中国や台湾、タイでは不採算店舗の退店が20店舗と目立っている。同社は「アジア地域ではすでに定着しつつある」と認識しているようだが、今後注力するというインドや米国市場でどれだけ店舗展開できるか、不振の中国市場を立て直せるかがカギになりそうだ。

国内事業が祖業にして第一の矢、多角化の軸となる海外事業が第二の矢とすれば、これから解説する国内子会社事業が、いま最も力を入れている「第三の矢」だ。

ジンギスカン、ラーメン…さらにパフェまで

壱番屋はかねてより収益源を「ココイチ以外」に求めるべく、かなり早い段階でカレーとはまったく異なる業態のM&Aに着手してきた。

まず、国内子会社事業の中でも主力となっているのが2020年に買収したジンギスカン店の大黒商事が手がける「旭川成吉思汗 大黒屋」だ。同チェーンの店舗売上高は19億円で、前期比+48.0%と急増しており、店舗数も11店舗まで拡大している。

他にも、つけ麺店「麺屋たけ井」が同+31.2%、もつ鍋店「博多もつ鍋 前田屋」が同+25.9%と、いずれも元々が地域色の強い小規模なチェーンではあるが、それでも壱番屋の傘下に入って以降、大きな成長を示している。

直近では2025年12月に完全子会社化されたばかりの、北海道発祥の「夜パフェ専門店 パフェテリア ベル」も話題だ。同店は、飲み会などの後にラーメン、ではなくパフェで締めるという「シメパフェ」文化を広めたことでも知られている。価格は2000〜3000円と、ココイチもしのぐ高価格帯ながら人気を博しており、今後は東京や大阪、福岡などに店舗を拡大していく予定だという。

知らない人からすれば、「ココイチがパフェを買うなんて正気か?」と率直に感じるかもしれない。たしかに2026年3月時点ではまだ、壱番屋における店舗構成では、1200店規模のココイチが圧倒的な存在感を示しており、ここまで挙げた子会社たちは、いくら売上が伸びているとはいえ、まだまだ取るに足らない規模感であることは否めない。

とはいえ、筆者としては伸長度の高さを鑑みれば、業績貢献の実現はそれほど遠くないとひそかに期待している。

「成熟と成長」両にらみで挑む

ここまで述べてきたように、壱番屋という会社は、コア事業であるココイチをブラッシュアップしつつ、多業態戦略にも取り組み、収益機会の増大とリスクの分散を推進していると読み取れる。その展開に向けて、自前主義ではなく、M&Aで早期実現を目指しているのは、好意的に捉えることができる。

何より、同社の優れた点は自己資本比率67.0%という盤石な財務基盤を背景とした、潤沢なキャッシュにある。2026年2月期のキャッシュフローを見ると、前期から22億円減少し、130屋円となっているが、これは積極的なM&Aによる有形固定資産の取得(支出32億円)と子会社株式の取得(支出13億円)によるもので、言い換えれば“成長性を高める”投資である。

すでに、その投資がなされた分、営業キャッシュフローは+55億円にもなっている。これならば今後の利益貢献次第で、早期の投資回収も十分期待できるはずだ。

無論、課題が無いわけではない。主たるココイチという業態はすでに成熟フェーズにある以上、効率性の追求による利益確保が最優先となる。一方、まだまだ成長フェーズにあるそれ以外の業態であれば、まずは“売上至上主義”となるはずだ。

したがって、壱番屋に求められるのは、各ブランドが属する市場で、競争相手に対して自店の強みをぶつけ、いかに競争優位性を確保するかということ。これは口で言うより難しく、まして多種多彩なブランドを持っているなら尚更だ。

カレーで培ったノウハウを生かしつつ、あえてカレーへのこだわりを捨てて“食の総合企業”に生まれ変われるのか。

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