警察が到着してから1時間ほど経過し、ようやく修羅場が収まったようでした。早希さんは、そのあとも壁に耳を当てて隣の様子をうかがいますが、全く何も聞こえてこなかったといいます。早希さんは結局壁際のソファで一夜を過ごすことになったそうです。 

◆いつのまにかいなくなった隣人

 早希さんは、今回の騒ぎが収まったあとも自己嫌悪の念が消えることはありませんでした。仕事をしていても、Sさんたちはあの後どうなったのだろう、とか、もしあの時素通りしていればよかったんだ、とか、自問自答の毎日が続いたといいます。

 その週末、となりから物音がするので早希さんが恐る恐る玄関に出てみると、引越し業者が荷出しをしていたとのこと。当然ながら、Sさんは何も言わずにマンションを出て行ったのだそうです。

「コミュニケーションって難しいですね。私は地方出身なので、幼い頃からご近所付き合いは当たり前だったし、とってもいい習慣だと思ってるんです。でも、今回の件でそれは封印します。なんだかなぁ……」

<文/大杉沙樹 イラスト/ズズズ>

【大杉沙樹】
わんぱく2児の母親というお仕事と、ライターを掛け持ちするアラフォー女子。昨今の情勢でアジアに単身赴任中の夫は帰国できず。家族団欒夢見てがんばってます。