JR渋谷駅

写真拡大

東京都渋谷区内のJR山手線渋谷駅で、勝手に非常停止ボタンを押した若い乗客男性に駅員が怒鳴る様子を撮った動画が投稿されて拡散し、ネット上で様々な意見が交わされている。

男性は財布を線路に落としたが、駅員が取ってくれないと不満を持ったという。駅員について、JR東日本東京支社は、「行き過ぎた言葉使いがあった」と取材に答えたが、「安全を守るという強い使命感があった」などと説明した。こんな場合、駅員はどう対応すればよかったのか、識者に聞いた。

乗客は、「お金取ってくれない」と不満をぶつけたが...

「黙りんさい、オラ!」。駅員がホームのベンチに座っていた男性に向き合い、こう怒号を浴びせる。これに対し、男性は、「お金取ってくれないじゃないですか」と口答えし、険悪なムードだ。

駅員は、「なんなんだ!その態度は」と激高し、言い合いが過熱した。男性は、「お金飛んじゃったんですよ」「4万円が財布から出てたんですよ」と説明するが、駅員は、男性が非常停止ボタンを押したことに怒りが収まらない様子で、「どんだけの人に迷惑がかかってんだよ」と言い聞かせた。

他の駅員も集まったが、言い合いは、なかなか収まらない。

「なんで取ってくれないんですか? ずっと5分以上も」と男性が口にすると、駅員は、「まず落としたのが悪いんだよ」と説明した。この点について、男性は、「だから、押されたんですよ」と言い返し、駅員は、「人のせいにするな! 映像で見るからよ。全部映ってんから」と信じなかった。

駅員が交番に行くと告げると、男性は「何でですか?」と反発したが、駅員は、「山手線止めてんだよ」と理由を説明し、「今日帰れねぇからな、警察行くから。今日帰れねぇ、事情聴取なげぇから」と突っぱねていた。

この2分20秒の動画は、動画アプリ「TikTok」に投稿され、ツイッターなどで拡散され、乗客と駅員とのやり取りに注目が集まった。動画は、乗客がスマホで撮影したとみられており、その後に投稿は削除されている。

駅員について、JR「安全を守るという強い使命感があった」

駅員が乗客を怒鳴りつけたことについては、ネット上で賛否両論が出ている。

駅員を擁護する声も多く、「普通の態度で駅員がここまで切れることは無い」「この位強い駅員居ても全然OK」「損害賠償させるべきだ」といった書き込みがあった。

一方、動画の前段で何があったかは別にしても、「この駅員の態度ない」「誰が相手でもこれは不味いでしょ」「怒鳴り散らしてて気分悪い」などと駅員の発言に疑問を呈する向きも見られた。

JR東日本東京支社の広報課は2022年7月6日、J-CASTニュースの取材に対し、トラブルは4日の20時ごろに発生したとして、当時の状況について、次のようにメールの回答で説明した。

「線路をのぞき込む、線路に降りようとしているといった危険な行為をしていたため伺ったところ、線路に財布と現金を落としたとご申告をいただきました。線路に落ちた財布と現金の状況を確認し次の電車の到着時刻などもあり拾得をお待ちいただくようご案内しましたがご納得されず、突然非常停止ボタンを押されました。落とし物の状況によりケースバイケースですが、今回については駅係員が現地で落としたものを確認し拾得する旨を説明したにも関わらず非常停止ボタンを押されたため、適切ではなかったと考えております」

一方で、駅員が乗客を怒鳴りつけたことについては、「危険行為をされていたため安全を守るという強い使命感があったものの、行き過ぎた言葉使いがあったことは不適切でありお詫び申し上げます」と謝罪した。

駅員を処分するかについては、「精査したうえで判断します」と答えた。

JRでは、乗客が勝手に非常停止ボタンを押すなどしたり、その後にこの乗客が暴れたりしたとして、警察の出動を要請したことも明らかにした。トラブルの影響で、山手線は、外回り1本に2分の遅れが出たという。

乗客に損害賠償請求を検討しているかについては、「個別の回答は控えさせていただきます」と述べるに留めた。

駅員はどうすればよかったのか

鉄道ジャーナリストの枝久保達也さんは7月6日、動画の前段などは分からないため動画に撮影された範囲に限るコメントになるとしたうえで、「そもそも論」として取材にこう述べた。

「落とし物で非常停止ボタンを扱ってよいのは、スーツケースなど重量物が線路を支障した場合などに限られます。サイフを含む通常の落とし物は安全を確保した上で、列車運行の妨げにならない範囲で対応します。20時台の山手線は3〜4分間隔なので、すぐは難しかった可能性もあります。何をどのように落としたか、誰のせいかは関係ありませんので、乗客が駅員の制止を聞かずに自分で拾おうと線路に降りようとしたり、非常停止ボタンを押したりした場合は、列車運行を妨げる意図で行った行為として処罰対象になることも考えられます。駅係員が乗客に行うべきは、こうした事情の説明と、運行を妨げるとともに乗客の危険につながる行為の制止でした」

識者「淡々と対応すればいい」

ただ、枝久保さんは、駅員の物言いはよくなかったとして、次のように指摘した。

「駅員の発言があまりに感情的でコミュニケーションが成立していません。頻出する『態度』というワードは、遺失物拾得のお願いに必要なものではありません。乗客の安全にかかわる場合、故意に列車の運行を停止させようとする場合、駅員は乗客の態度にかかわらず、それを制止しなければならないので、やはりこれも『態度』は関係ありません。『山手線止めた』は事実であり、それが乗客の身勝手な振る舞いによるものであれば、場合によってはJRが被った損害を損害賠償請求することも可能かもしれませんが、駅員が私的な感情で乗客を制裁する権利はありません。『交番(警察)に行く』『事情聴取がある』と懲罰的に語っていますが、これらは制裁ではなく、またその管轄はJRにはありません。結局、誰が何を問題だと言っているのか分かりません」

そのうえで、駅員が取るべき対応については、こう述べた。

「そもそも強く出ていい場面などありません。『怒鳴る』の定義、状況にもよりますが、基本的には謝罪を求められれば拒めないでしょう。必要のない行為だからです。線路に飛び降りようとする人を抑え込むなど、安全上の理由で通常は行わない強い制止をすることはあっても、乗客の態度や物言いを理由に『強く出る』ことはあってはなりません。淡々と対応すればいいのです。今は防犯カメラが乗客の暴力行為などをすべて記録しています。同時にそれは駅員も同じです」

(J-CASTニュース編集部 野口博之)