売れる営業と売れない営業はなにが違うのか。営業コンサルタントの岡哲也さんは「売れない営業マンには、無意識にお客の買う気を失わせている。3つの悪習慣を見直すだけで、売れる営業マンに変われるはずだ」という――。

※本稿は、岡哲也『絵でわかる配属1年目でも目標達成できる営業の教科書』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/pinstock
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/pinstock

■売れない営業マンが犯している「やってはいけないこと」

私はこれまで、数多くの営業マンと出会い、多くの営業マンの育成に従事してきました。その中で、やはり売れない営業マンには共通する部分がありました。

今回は、売れない営業マンが無意識に犯してしまっている「絶対にやってはいけない事」についてお話ししていければと思います。

はっきり言えば、これからお伝えする3つのやってはいけないことを回避するだけでも売れる営業マンになることが可能です。

■お客さんは、担当営業の経歴には興味がない

一つ目は、初対面の相手に過去の経歴を語る、ということです。

できるだけ、親近感をもっていただきたい、早く信頼関係を築きたいという気持ちが先行すると、出身地や出身大学、やっていたスポーツや趣味などの話に傾きがちです。

たしかに、それで多少の会話ははずむかもしれませんが、それだけで商品を買っていただけるのだとしたら、そんな簡単なことはありません。

そもそも多くの営業マンは、初めましての段階で「自己紹介」をおろそかにしがちです。

例えば、

「わたしは●●大学の△学部出身です。もともとは、□□県の出身で、子どものころからスポーツが大好きで、ずっと野球をやっていました」

たしかに、新入社員として配属された部署で最初のあいさつならこれでもいいかもしれません。そもそもが同じ会社で、同じ目的のもと、お互いを知っていこうという意思があるからです。

しかし、セールスの現場では違います。

お客さまは、あなたのことを知りたいとさえ思っていないでしょうし、そもそも商品を売りつけられると思ってさえいるかもしれないのですから。

■相手の聞く姿勢がガラッと変わる自己紹介の方法

では、そういった場では、どういった自己紹介が必要なのか。

それは、あなたがどういった人間か興味をもってもらえるような自己紹介です。

・なぜ、どんなきっかけで今の仕事をしているのか?
・どんな思いで今働いているのか?
・どんな知識を持っているのか?
・将来どうなりたいのか?

など、人間性にフォーカスしたことを伝えることが大事です。

目の前にいる営業マンがどんな人間なのか? どんな価値観を持っているのかを伝えることができれば、相手の聞いてくれる姿勢がガラッと変わります。

「自己紹介」は初めましての段階で自分の魅力をアピールする絶好の機会なので、そこを最大限活用するようにしましょう。

この中でも、ぜひ「なぜ今この仕事をしているのか?」は伝えるようにしてください。志や思いを伝えることがとても重要です。

■大事なのは自分をどれだけ魅力的な存在に見せるか

【失敗例】
「○○会社の○○と申します。○○の地方出身で、学生時代は○○をやっていました!」
「初めまして。お時間もないと思いますので、早速ですが、商品説明をさせてもらいますね」

【正しい例】
「実は父親が小さい頃に亡くなって、保険で大学に行ったんです。そのときに保険の大事さを知って、それがわかっている人が少なくて、それを伝えたいと思ってこの仕事をしています」
「子どものころ、父親が運転していた自動車で実は事故にあったんです。けれど、丈夫な車に乗っていたおかげで、大したケガもなく済ませることができて。それで、単に性能やカッコだけではなくて、車の安全性という観点から選んでいただくことも重要じゃないかと思って、車のセールスを仕事にしています」

どうでしょうか。

出身地や出身大学などといった、一般的な過去の経歴よりも、よほど、「この人の話なら聞いてみてもいいかもしれない」と思えませんか。

このように、今その仕事にかける思いが伝わるように工夫するとよいでしょう。

写真=iStock.com/kazuma seki
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さらに言えば、そこから将来どのようになりたいのか、あなたの“未来”まで伝えることができればベストです。

「保険のおかげで学校に行けたという人をもっともっと増やしていきたいんです」
「わたしから車を買われたお客さまには、自動車事故で大けがを負ったという方がいない、そう言えるようになりたいと思っています」

これだけで、営業マンとしての自分をどれだけ魅力的に見せられるか考えてみてください。

■営業の仕事は商品説明ではない

では、次に多くの売れない営業マンが無意識に犯してしまっている絶対にやってはいけないことの二つ目についてお話ししていきます。

二つ目は「商品説明をする」ということです。

おそらくこのことを聞いて、多くの営業マンがハッとしたのではないでしょうか。

ダメな営業マンに限って、ここぞとばかりに商品の魅力を語り、それが営業の仕事だと勘違いしてしまっています。

これから話す内容は、私の体験談になってしまいますが、おそらく多くの人が同じような体験をしているはずです。ここからは私の体験を交えてお話しさせていただきますね。

■「営業マン」と「説明員」は違う

数年前に訪れた車屋さんでのエピソードです。

当時乗っていた車が古く買い替えたかったので、妻を説得する理由として3人目の子供ができるからもっと広い新しい車を買おうと伝え車屋さんに連れていきました。

妻としては、どうせ新しい車を買っても子供の送り迎えでぶつけてしまうので、新車を買うことに反対的だったのですが、3人目が生まれて車が狭くなる事を考えたら、新車を買うのもアリかも……という感じでした。

そして、お店に入るなり「3列シートの車を買いに来たのですが……」と私は受付の方に伝えました。すると担当の営業マンの方がこちらにやってきて「3列シートの車はこちらになります。」と案内をしてくれた訳です。

写真=iStock.com/KatarzynaBialasiewicz
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/KatarzynaBialasiewicz

それから、3列シートの車をみながら、この車は最新のオーディオシステムがついていますとかトランクが広くて多くの荷物を積むことができますというような説明を営業マンから受けたわけです。結局私は、そこで車を買うことはありませんでした。

正直に言って、これは営業ではないんですね。これこそまさに「説明員」なのです。

私が車を買いに行った本音は3人目の子供が生まれるからという理由ではなかったのです。本当は「“カッコいい車”が欲しかった」。それが本音だったのです。

当時は、前職のプルデンシャルで支社長をしており、後輩たちとゴルフに行く機会も多くありました。その時に、ボロボロの車で行くのが嫌だったのです。後輩たちに「支社長ってあんなボロい車乗ってるのか」って思われたくなかったのです。だから、3人目が生まれるという口実に新車を買いに来たのです。

先ほどの説明員の方は私の本当の気持ちや思いをくみ取ることなく、ずっと3列シートの車の性能の良さばかりを説明してしまっていました。「なぜ3列シートなんですか?」「今乗っている車の何が不満なんですか?」という質問を私に一切してこなかったんですね。

その質問を私にしていれば、「実は……後輩とゴルフに行く時のためにカッコいい車が欲しいんだよね。」という感じで、本音を話していたでしょう。それを聞けば、3列シートという条件に縛られず、「こういう車もおすすめですよ」「この車であれば家族5人でもゆったり乗れますし、ゴルフバッグもしっかり納まりますよ」みたいな感じで他の車も提案できたはずです。

そういう提案をされれば、「ぜひその車を見せてくれ」となり、車の購入を決意していたはずです。

つまり、何が言いたいかというと、説明員はお客さまの本音つまり裏に隠れた欲求を引き出すことができないのです。その状態に陥ってしまっている営業マンが非常に多いのです。

商品の説明をする以前に、なぜその商品を欲しいと思っているのか、何を目的としてお客さまは自分の目の前にいるのか。この辺りを考えてお客さまと会話できるようになると“本音”を引き出せるようになります。

営業マンは説明をするだけの「説明員」ではありません。もしこれを読んで自分が説明員になってしまっているようでしたら、すぐに改善すると良いでしょう。

■うまくいかない人ほど「数と根性」と思う

最後に、多くの売れない営業マンが勘違いしていることは「営業は根性と数だと思い込んでいる」ことです。

もちろん、根性も数も大事ではあるのですが、最重要かと言われるとそうではありません。

岡哲也『絵でわかる配属1年目でも目標達成できる営業の教科書』(プレジデント社)

先ほど説明したように、自己紹介をおろそかにしていたり、説明ばかりしてしまっている状態で、いくら現場に足を運び数を打ってもうまくいくはずがないのです。

売れずに業界を去っていく営業マンほど、思考停止したままとにかく気合で数を打とうと必死に営業活動をしてしまいます。

しかし、それではうまくいくはずがありません。疲弊してしまうだけです。

根性や数以上に大事なのは人の購買心理を理解し、正しい営業をまずは自分自身にしっかりと植え付けていくことです。つまり「型」を作るということです。

「型」を作らずに現場に出たところで、そこから学べることはとても少なく、無意味な時間を過ごすことになってしまいます。

まずは、売れるための「型」をしっかりと作りましょう。

■何が正しい営業で、何が正しくない営業なのか

これまで、売れない営業マンに共通する3つのことについてお話ししてきましたが、読んでみていかがだったでしょうか。

おそらく売れてない人ほど当てはまることが多かったかもしれません。当てはまることが多かったからといって落ち込むことはありません。

大事なのは何が正しい営業で、何が正しくない営業なのかを知り、それを実践していくということです。

もし、より詳細に売れる営業マンになるためには何をすれば良いのかを学びたいという人がいらっしゃるのであれば、先日販売した私の著書である『絵でわかる配属1年目でも目標達成できる営業の教科書』を読んでみると良いかもしれません。

営業マンが何をすれば売れるようになっていくのか、かなり具体的なノウハウを文字数を最大限削り絵を使って説明しています。

ぜひ参考にしていただければと思います。

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岡 哲也(おか・てつや)
営業コンサルタント
1975年生まれ。東京都新宿区出身。東京工業大学理学部卒業後、博報堂に入社。その後、2003年にプルデンシャル生命保険にライフプランナーとして入社。東北大学、慶應義塾大学、中央大学、青山学院大学で、客員講師として営業学を教えていた。2019年、プルデンシャル生命保険を退職し、営業コンサルタント、営業職育成コンサルタントとして活動中。
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(営業コンサルタント 岡 哲也)