今年6月、東京都練馬区の自宅で、長男(44)を刺殺したとして殺人罪に問われ、懲役6年の実刑判決を受けた元農水省事務次官、熊沢英昭被告(76)が、12月20日、保釈された。保釈保証金は500万円。

「保釈が決定したと聞いたときは、耳を疑いました。殺人罪で実刑判決を受けた被告が保釈されるなど、まずないからです。殺人を犯した人間が世に出るわけですから、通常なら再犯の恐れも生じるでしょう。今回は異例です」(大手紙記者)

 この日午後6時過ぎ、弁護士を乗せた迎えのタクシーが東京拘置所に入ると、拘置所職員らが熊沢被告の荷物をトランクに運び入れ、保釈の準備を進めた。

 午後7時前、職員や弁護士に囲まれるように現れた熊沢被告は、白のワイシャツにジャケット姿。逮捕時とは違って、ややすっきりした表情。タクシーに乗り込むと、片手を上げて挨拶するなど安堵した様子をうかがわせていた。

 裁判では、長男から暴力を受け「ぶっ殺すぞ」と言われたことや、長男が原因で破談した娘が絶望して自殺したこと、さらに妻に対しても暴力を振るっていたことなどから、弁護側は情状酌量の余地があるとして、執行猶予付きの判決を求めていた。

 東京地裁は、当初弁護人の保釈申請を退けていたが、東京高裁が一転して地裁決定を取り消し、保釈が決まった。高裁の判断について、刑事事件に詳しい渥美陽子弁護士は「高裁の温情だった」とみている。

「殺人罪で実刑判決を受けた被告が保釈されるケースは、聞かないわけではありませんが、かなりまれなケースです。1審を終え、証拠隠滅や逃亡の恐れもない。まだ刑は確定していませんが、高齢でもあり、体を拘束し続けることで不利益を被る恐れがあると判断したのではないでしょうか」

 ネット上では被告の自殺を心配する声が上がっているが、渥美弁護士は「保釈中に被告が自殺しないように、身元引受人がしっかり管理することも保釈許可の条件だったと思います」と話す。

 20日時点で弁護側も検察側も控訴していない。控訴期限は来年1月6日だ。半年ぶりに塀の外に出た熊沢被告は、いったい何を思っているのだろうか。