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東京大学大学院の教授だった男性らがソープランドで接待を受けていたとされる汚職事件。収賄罪に問われた元特任准教授(46)と、贈賄罪に問われた「日本化粧品協会」代表理事(52)の裁判が先に始まり、異様ともいえる接待の実態が明らかになった──。(ライター・学生傍聴人)

●「絶対的権力に逆らうことは困難だった」

「◯◯先生のおっしゃることは、私にとって絶対的な意味を持つものです」

4月23日、東京地裁(池上弘裁判官)で初公判が開かれた。

元特任准教授は、黒のスーツに紺色のネクタイ姿で出廷。証言台に立つと、緊張からか両手は小刻みに震えていた。

起訴状などによると、元特任准教授は元教授とともに、2023年3月から2024年8月にかけて、共同研究などの見返りとして、代表理事から約380万円相当の接待を受けたとされる。

この日は、午前に”接待した側”の代表理事、午後に”接待された側”の元特任准教授の審理がおこなわれた。

両者とも起訴内容を認めたうえで「元教授の絶対的権力に逆らうことは困難だった」と情状酌量を求めた。

●元教授から共同研究講座の開設を打診か

検察の冒頭陳述などによると、元特任准教授は医師で、東大大学院の助教などを経て、2023年4月から共同研究講座の講座長をつとめていた。

この講座は、代表理事の民間団体などが出資し、大麻由来の合法成分「カンナビジオール(CBD)」の皮膚疾患への有効性などを研究するものだった。

代表理事は2022年5月、知人の紹介で元教授とオンライン面談。その場で共同研究講座の開設を打診されたという。

●「一回ではないんだろうな」接待の始まり

事件の端緒は2023年2月。

元特任准教授から「元教授が腹を割って話したいと言っている」と連絡を受けて、東京・有楽町の高級フレンチ店で会食が開かれた。

「(元教授)から『長い時間、(共同研究の)講座を通すのに苦労した。危なかった』と延々と聞かされました。また、『最近の製薬会社はお金を出さん』とお金の話になり、慎重にご機嫌を取るようにしていました」

代表理事はそう振り返る。

さらに元教授は、過去に多くの接待を受けていたと語り、同席していた元特任准教授も「そういう時代を経験したことがなかったので行ってみたいです」と述べたという。

この日の会食費約14万円は、割り勘ではなく、代表理事が全額負担した。

「一回ではないんだろうなという、スムーズさがありました」

●「東大で教授の権限はすごいんだな」

事件の背景には、非対称な権力構造があったようだ。

元教授は東大医学部卒の医師で、国立大学教授などを経て東大附属病院副院長にまで昇りつめた。民間企業との共同研究講座の設置審査や人事にも影響力を持っていた。

部下の元特任准教授は、代表理事に「◯◯先生(元教授)の懐刀だ」と称するほど密接な関係にあったとされる。

弁護人から「元教授の権限についてどう思うか」と問われると、代表理事は、口ごもりながらもこう供述した。

「絶対的権力…東京大学の中で教授の権限はすごいんだなと思いました」

●エスカレートする接待

その後も立場を悪用した搾取が続いた、というのが捜査機関の見立てだ。

検察側によると、会食後、元特任准教授は元教授の指示で「また打ち合わせ、いかがですか。軌道に乗るまで月2回ほど」などと代表理事に接触し、銀座のクラブなどで遊興接待をするようにもなった。

費用は「安くても3、40万円だった」。やがて元教授らの欲望を満たすための“性欲むき出し”のエロ接待に発展していった──。

●「エロ接待」を「研究目的」に偽装か

東京・吉原のソープランドでの「1回約7万円」の接待は元教授が6回、元特任准教授が7回に及んだ。

きっかけは、3人での「タイ出張」だったという。元教授らは、現地の住民から性接待を受けていた。

「翌朝、(元教授に)お会いしたら『最高の夕べだった。あんな女性を抱けるとは思わなかった』と見たことがないくらいニコニコしていました。

飛行機の機内でも『忘れられない夜だった』とかなりうれしそうでした。『銀座のクラブならお金も高いし、手も握れない』とも不満を口にしていました」(代表理事)

性接待は白昼に行われた。当初は夜だったというが、元教授の巧みな作戦があったとみられる。

「(元教授の)奥さんからソープランドに行っていると疑われたようです。GPSで奥さんに見られていたようで、昼間に教授室に携帯電話を置いていけばバレないと言っていました」(代表理事)

さらに、事件発覚後の東大側による内部調査に対して、元教授らは「研究者」という肩書を利用して偽装工作をしていた疑いが持たれている。

元特任准教授は、検察側の指摘に「ソープランドに行ったというのは外聞が悪いので、研究目的で行ったということにしました。研究契約書を私が作成しました」と認めた。

●銀座の高級料理店の会話を録音「まじで殺すよ、本当に」

こうした関係は2024年8月、銀座の高級料理店で破綻する。

化粧品事業の収益の低さをめぐり、元教授が激昂したという。違和感を察知した元特任准教授はそのやり取りを録音していた。

「早く利益出してよ、まじで。化粧品が売れなくなったら、あなたお金持ってきてよ。それくらいやって貰わないと困るよ。人事権と(共同研究を)継続することは私が決めること。まじで殺すよ、本当に。あなたこの講座がなくなったら、何もなくなるよ」(検察側の証拠より)

代表理事は「関係性が破綻した」と判断し、大学へ公益通報。警察にも事件の経緯を告白し、不祥事が発覚した。

●元教授「代表理事はスポンサー」とみなしていたか

元特任准教授は、元教授の暴走を止めることができなかった。法廷で、弁護側の問いかけに丁寧な言葉遣いで、はっきりと語った。

「上司の人に言われたことに従わないといけないですし、講座を守る、存続させるために、(代表理事の)機嫌をそこねてはいけないという思いもありました」

また、約380万円にも及ぶ接待について、元教授が「(代表理事は)スポンサーだからね」と言葉を濁していたことがあったとも明かした。

●代表理事「僕みたいな人は断れる勇気を持ってほしい」

検察側は論告で「長期間にわたる常習的な犯行態様で、東大の信頼を失墜させた結果は重大だ」などとして、代表理事に懲役1年2カ月を、元特任准教授に懲役1年2カ月と約196万円の追徴金を求刑。

代表理事側は執行猶予付き判決などを、元特任准教授側も寛大な判決を求めて結審した。

代表理事は被告人質問で、社会で暮らす人たちへのメッセージを次のように語った。

「夢をいくら人質に取られたからといっても、断れる勇気を持っていれば良かったなと思います。僕みたいになっている方、断れる勇気を持ってほしいなと思います。このまま続けていても地獄です」

一方、元特任准教授は、最終陳述で「本当に申し訳ございませんでした」と謝罪した。

判決はいずれも5月下旬に言い渡される予定だ。