ぺこぱ・松陰寺、ラサール石井への「真っ向反論」が称賛された理由 極論に流されない“冷静な議論”
防衛政策をめぐる議論
お笑いコンビ・ぺこぱの松陰寺太勇が、ABEMAの討論番組「ABEMA Prime」に出演し、参院議員でタレントのラサール石井との防衛政策をめぐる議論において、一歩も引かずに自分の意見を述べたことが話題を呼んでいる。【ラリー遠田/お笑い評論家】
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【実際の写真】集まったのはたった20人…ガランとした大森駅前で必死に声を張る「ラサール石井」
ラサール石井は社民党副党首の立場から、自民党の安全保障政策に批判的な見解を示した。これに対して松陰寺は「社民党は今後良い未来が見えない」などと一貫して厳しい言葉を投げかけた。先輩芸人であるラサールに対して臆することなく、自分の意見を堂々と述べた。

石井が「明日、高市さんが戦争しますって言ったら、行け行け、ってなるような気がする」とやや極端な主張をすると、すかさず松陰寺は「ならないですよ」「誰も望んでいないですよ、そんなこと」と真っ向から反論してみせた。冷静な態度で議論を進めていった松陰寺に対して、称賛の声が相次いでいる。
近年のテレビやネット番組における政治的な議論は、対立構造そのものがコンテンツとして消費される傾向が強い。どちらが強い言葉を使ったか、どちらが勝ったか、といった表層的な部分が切り取られやすく、議論は感情のぶつかり合いになりやすい。「論破した」「論破された」といった評価ばかりが先行する「論破ブーム」の様相を呈している。
しかし、今回の松陰寺の発言は、その流れとは異なっていた。彼は相手の主張を受け止めた上で、自分がどう考えているのかを落ち着いた態度で説明していた。相手を打ち負かそうとする気持ちが前に出過ぎることがなかった。
ここで注目すべきは、松陰寺の政治的な主張の是非ではなく、彼の冷静な話しぶりと思考の整理能力である。議論の場では、相手の発言の中に含まれる感情的な要素やレトリックに引きずられ、本来のテーマから逸脱してしまうことが多い。特に政治の話題では、価値観の違いが前提にあるため、議論は容易に人格批判や印象論へと流れてしまう。
しかし、松陰寺は相手の言葉の中から論点となる部分だけを取り出し、それに対して自分の見解を述べるという姿勢を崩さなかった。フェアな態度で話し合いをしているように見えた。
論破ブームの一方で「批判疲れ」
現在の世の中の空気も彼の評価を後押ししている。SNSの普及によって、強い言葉や極端な主張が可視化されやすくなった一方で、そうした言論空間に疲れている層も増えている。感情的な対立を見せられることに消耗し、冷静に話す人物に安心感を覚える視聴者が少なくない。
今回の衆院選でも、政権与党である自民党への批判を声高に叫んでいた中道改革連合が大惨敗を喫して、自民党が大勝することになった。また、「分断を煽らない」「相手を貶めない」をモットーとする新興政党のチームみらいが大幅に議席数を増やした。論破ブームの一方で「批判疲れ」を感じている人も確実に増えてきている。
松陰寺の態度は、政治的にどちらの立場であるかというのを超えて、「この人の話なら聞ける」という信頼感を生み出した。彼は単に議論に参加したのではなく、議論の空気そのものを変える役割を果たしていた。
また、芸人が政治的なテーマにかかわること自体の難しさも見逃せない。日本では芸能人が政治的な発言をするのを避ける傾向にある。一部には積極的に政治的な主張を展開する人もいるが、そういう人に限ってやや偏った極端な主張をするケースが目立つ。だからといって、討論系の番組に出演して無難なコメントに終始していても印象に残らない。
そんな難しい状況の中で、松陰寺は極論に走ることもなく、曖昧な態度に逃げることもなく、自分の言葉で話し合いに臨んでいた。そのバランスの取れた姿勢が説得力を生んでいた。
相手を言い負かすことと議論を前に進めることは同じではない。松陰寺の振る舞いが評価されたのは、その違いを自然に体現していたからだ。彼は対立が可視化されやすい時代において、希少なコミュニケーションのあり方を示していた。今回の反響は、個人としての評価を超えて、視聴者が求めている議論の姿そのものを映し出していたと言える。
ラリー遠田(らりー・とおだ)
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『松本人志とお笑いとテレビ』(中公新書ラクレ)など著書多数。
デイリー新潮編集部
