「18歳以下への10万円給付」について、主たる生計者の年収が960万円未満という所得制限をつけることで自民・公明両党が合意した。これは児童手当が大幅に減額されるラインと同じだ。米国公認会計士の午堂登紀雄さんは「高所得者層は、この方針に疑問を感じています。でもそれはお金がもらえないからではありません」という――。

■18歳以下10万円支給は景気対策にならない

この原稿を執筆している時点ではまだ確定ではありませんが、年内〜来春に行われるとされる10万円相当の給付について、支給条件が以下のように固まりそうです。

・主たる生計者の年収960万円の所得制限(年収は目安で、実際には所得額で制限される)
・支給対象は18歳以下
・10万円のうち5万円は現金、5万円はクーポン
・クーポンは子育て関連に使途を限定

ここで疑問に感じるのは、いったい誰を対象に、何を目的にした施策なのか、です。

政府税制調査会で発言する岸田文雄首相=2021年11月12日、首相官邸(写真=時事通信フォト)

景気対策? 生活困窮者対策? 子どもの貧困対策? 子育て支援策?

一番目の景気対策なのかというと、そうでもなさそうです。

なぜなら、前回の一律10万円給付の時のように、現金給付の多くは貯蓄に回る可能性が高いからです。

その反省をもとに半分の5万円分をクーポンに、ということかもしれませんが、それなら18歳以下に対象を絞る必要性がわかりません。

つまり景気対策ではないことがわかります。

■生活に困っている人には届かない

次に生活困窮者対策なのかというと、これもそうでもなさそうです。

生活に困っているのはむしろ大人であり、さらに困窮者の中には子どもがいない夫婦もいれば、独身者もいるからです。

コロナの影響を受けているのは子どもよりも圧倒的に就労者でしょう。

つまり生活困窮者の救済にはならないのは明白です。

では子どもの貧困対策かというと、やはりそうでもなさそうです。

なぜなら、たとえばバイトのシフトが減らされて困っているのは学生など18歳以上であり(早生まれでギリギリ引っかかるかもしれませんが)、対象を広げるべきだからです。

また、十分な食事や学習用具、さらには生理用品すら買い与えられないなどといった子どもの貧困問題がありますが、子に直接渡せるならともかく、そういう親に10万円を渡しても、子ではなく親自身が使い込んでしまう可能性が高いでしょう。

そう考えれば子どもの貧困対策にもなりえない。

■子育て支援策にもならない

では子育て支援策なのかというと、これもやはり疑問符がつきます。

たとえば夫婦共働きでそれぞれが年収900万円、世帯年収1800万円という家庭にも18歳以下の子どもがいれば支給されます。

一方、主たる生計者が年収1000万円で配偶者が専業主婦(夫)、加えて子どもが3人いても、所得制限にかかり1円たりとも支給されません。所得制限にかからなくても、その3人の子どもが大学生(22歳、21歳、19歳とか)で18歳を超えていると支給されません。

クーポンが仮に子育て関連に限定されたとして、乳幼児と高校生では必要なものが異なるので店舗を制限される中、本当に使えるかどうか不明。

いずれにせよ、これが子育て支援にあたらないことは誰にでもわかることです。

写真=iStock.com/maruco
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/maruco

■効果の検証に耐えられない政策

たとえば一般的な補助金や助成金、減税制度は「国民や企業をこういう方向に誘導したい」という政府の思惑があるもので、それを申込件数・予算の消化率・導入率といった指標、あるいは申請時の書類チェックや事後の報告・検査などのプロセスを経て効果を検証します。

検証に耐えうる制度設計は、それが国民の税金を適切に使うためのある意味ハードルになります。

しかし今回のこの施策はそういうものがなく、いったい誰のためにやるのか、何のためにやるのかがはっきりしない。

「なんとなく国民ウケが良さそうだから」「国民に寄り添った政治、政党だというアピールになりそうだから」という単なる雰囲気で決めたような印象です。

それにコロナ対策の大盤振る舞いで感覚がまひしてしまったのか、財政規律を誰も気にしない政治には寒気がしてきます。

まあ、政治家にとってはしょせん「他人のカネ」だからでしょうか。

■「高所得者から税金を取り、助成はカット」という安易な発想

過去のコラム「『第3子に1000万円支給を』高所得者が子育て支援から外される“罰ゲーム”はなぜ続くのか」でも書いた通り、いまの政府・与党には、本気で少子化対策をするつもりがありません(共働きや育休を応援する施策は整っていますが、それは税収対策でしょう)。

また、「高所得者から税金を取ればいい、高所得者への助成はカットすればいい」という安易な発想が見て取れます。

高所得者は、所得税、住民税、社会保険料をふんだんに払っています。特に所得税と社会保険料は収入に連動するため、その貢献度は大きいでしょう。それにもかかわらず、子育て関連のあらゆる制度で所得制限に引っかかり、補助金・助成金などは対象外。これでは罰ゲームをうけているようなものです。

それでも児童手当がもらえなくなるからと憤る富裕層があまりいなかったのと同様、今回の960万円の線引きについて、お金がもらえないからという理由で異議をとなえる人はあまりいません。

ただ、政策の内容に論理性がないこと、優先順位の不透明さ、思慮の浅さが透けて見える議論に辟易としているのです。

■いつまで「片働き世帯」を前提にするのか

さらには、児童手当の特例給付廃止の時も今回もそうですが、「夫婦のどちらか年収が高いほう」を所得制限の基準にするというふうに、「一方が働き、他方は専業主婦(夫)」という昭和の家庭観(という固定観念)に縛られた制度設計しか思いつきません。「女性の活躍」などと言っているにもかかわらずです。

やはり他人に依存しすぎず、私たち一人ひとりが自分で考え自衛し、政治や政策に振り回されない生活設計・人生設計をする必要があると思います。

そのためにも、本コラムで紹介する富裕層の発想や習慣が、少しでもそれらを考えるきっかけになればと思います。

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午堂 登紀雄(ごどう・ときお)
米国公認会計士
1971年岡山県生まれ。中央大学経済学部卒。大学卒業後、東京都内の会計事務所にて企業の税務・会計支援業務に従事。大手流通企業のマーケティング部門を経て、世界的な戦略系経営コンサルティングファームであるアーサー・D・リトルで経営コンサルタントとして活躍。2006年、株式会社プレミアム・インベストメント&パートナーズを設立。現在は不動産投資コンサルティングを手がけるかたわら、資産運用やビジネススキルに関するセミナー、講演で活躍。『捨てるべき40の「悪い」習慣』『「いい人」をやめれば、人生はうまくいく』(ともに日本実業出版社)など著書多数。「ユアFX」の監修を務める。
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(米国公認会計士 午堂 登紀雄)