by Jahoo Clouseau

「ツノのない雄牛」を遺伝子編集で作り出そうとしたところ、誤って細菌のDNAシーケンスが牛のゲノムに挿入されてしまっていたことが判明しました。遺伝子編集を行った企業はこのことに気づかず、作成された雄牛の精子から何頭かの子孫が生み出されたとのことです。

Template plasmid integration in germline genome-edited cattle | bioRxiv

https://www.biorxiv.org/content/10.1101/715482v1.full

Part cow, part… bacterium? Biotech company makes heifer of gene-editing blunder | Ars Technica

https://arstechnica.com/science/2019/09/part-cow-part-bacterium-biotech-company-makes-heifer-of-gene-editing-blunder/

アメリカ・ミネソタ州に本拠を置く「Recombinetics」というバイオテクノロジー企業では、遺伝子編集でツノのないホルスタインを開発していました。雄牛のツノは他の雄牛を傷つける可能性があることから、切除する農家が多いのですが、作業は非常に面倒だとされていたためです。2015年、「Spotigy」と「Buri」というツノのない牛が生まれ、Recombineticsは遺伝子編集が成功したことを伝えました。



by Patrick Baum

2頭の牛のうち父牛としてBuriは17匹の子どもを産ませることに成功し、「ツノのない牛」として精子はブラジルへと輸出されたとのこと。しかし、2019年に入ってアメリカ食品医薬品局(FDA)がBuriの遺伝子の中に細菌の遺伝子が入っていることを発見しました。

RecombineticsはBuriの遺伝子編集の際に細菌の遺伝子編集に使われる機械を用いていました。この機械は、ターゲットとなる遺伝子コードを切除する「TALENs(TALエフェクターヌクレアーゼ)」と呼ばれる酵素を利用するもので、切除された部分には、目的のコードを挿入することが可能になります。研究者らは、切除された部分にツノのない品種の遺伝子コードを入れることでBuriを作成したわけです。

TALENsによる遺伝子挿入はプラスミドが用いる標準的な方法が取られました。プラスミドは細菌や酵母の細胞質内に存在するもので、通常はTALENsが目的とするコードを挿入すると役目を終えます。しかしBuriの場合はプラスミド自体がBuriのゲノムの中、ツノのない雄牛のコードの横に残ってしまったそうです。これによりBuriのゲノムはプラスミドのDNAシーケンスを持つことになり、かつプラスミドの抗生物質耐性も受け継ぐことになったとのこと。なお、記事作成時点では、この抗生物質耐性が影響を与えることはないとされています。



by Spaully

牛がプラスミドの一部を挿入されたということは問題ですが、Recombineticsがそれに気づかなかったということも問題視されています。Recombineticsの子会社であるAcceligenのCEOであるTad Sonstegard氏は「予想していない点だったので、チェックを行わなかった」としつつも「チェックはすべきだった」と述べています。問題を発見したFDAの科学者も、この件について「標準的なゲノム編集のスクリーニング方法の盲点」だと表現しました。

なお、プラスミドのDNAを持つ牛であっても食用としては安全とのことですが、規制的にはかなり複雑になるとのこと。Buriの精子から生まれた牛の何頭かは既に焼却されており、精子を受け取ったブラジルの規制当局も今後の計画への参加を拒否したとされています。