[5.31 キリンチャレンジ杯 日本 1-0 アイスランド 国立]

 生き様を示した12分間と、喝采に包まれた2分間--。「引退ではなくひと区切り」との思いで日本代表に帰ってきたDF吉田麻也(LAギャラクシー)の3年半ぶりの国際Aマッチは、これまでの功績にふさわしい祝祭ムードで彩られた。

 ピッチで与えられた時間は約10分間。吉田は今の全てをぶつけた。「相手の戦い方も分かっていたし、自分の良さを出すためにはどうすればいいかを考えていた」。アイスランドが強みとする空中戦は吉田にとっても真骨頂。背後からの巧みな駆け引きも随所に繰り出し、一度も主導権を譲り渡すことはなかった。

 交代時間が迫った前半12分には果敢なダイレクトパスでも国立を沸かせた。「パスで魅せられてなかったので、厳しいかなと思ったけど『ダメでもいっか』と出しました(笑)」。鋭く振り抜いたボールはMF中村敬斗の足元にピタリ。フィニッシュには繋がらずに「あれで決めてくれていれば完璧でしたね」と苦笑いを見せたが、限られた時間で生き様を示した。

 ド派手なラストプレーを終えた直後、ベンチからDF伊藤洋輝との交代が告げられると、日本代表のチームメートだけでなく、アイスランドの選手たちもベンチ前で花道を作った。吉田は一人一人と抱擁やハイタッチを交わし、自らの後継者として主将に就任したMF遠藤航のもとへ。キャプテンマークを託す粋な演出を経て、ピッチを後にした。

 6万2212人の大観衆からも盛大な拍手と歓声で見送られた。「自分には十分すぎるほどの豪華な花道を作っていただいて恐縮です」。そう謙虚に照れ笑いを浮かべた吉田だったが、12分間のパフォーマンスを目の当たりにした人々が素直な感情を表現したエモーショナルな瞬間だった。

 試合前、吉田はロッカールームでW杯に向かう選手たちに激励のエールを送ったという。「『Team Cam』(日本代表公式Youtubeのドキュメンタリーシリーズ)で見てください。僕が常々、代表に対して思っていたことをぶつけたつもりです」。取材エリアで多くを明かすことはなかったが、代わりに代表での思い出を振り返りながら、未来の代表戦士たちへのメッセージを残した。

「(代表は)1試合1試合に重みがある。バスの中でも色々と振り返って、こういうことあったな、ああいうことあったなと考えていたけど、上手い選手たちと国を背負って戦ってきた思い出が一番大きい。競争もあるし、プレッシャーもあるし、批判もあるし、その中でなぜここがこんなに素晴らしいかはプレーしないとわからない。離れたらより一層、それを感じる。だからこそ、サッカー少年少女たちはこのステージを目指してほしい。そこから日本がW杯優勝を目指して、到達してほしいなと思います」

 森保一監督からの電話で突然舞い込んだ“12分間+2分間”の代表凱旋試合。今後について「とりあえず一回LAに帰ります。娘の学校があるので」と明かした吉田は、W杯現地観戦の期待を寄せる報道陣に「この1週間来るのが想定外すぎて、いろんなことをキャンセルして来ているので、一回帰って調整させてください」といつもと変わらぬ笑顔で答え、国立競技場を後にした。

(取材・文 竹内達也)