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労働基準法について、約40年ぶりに大改正が検討されていることはご存じでしょうか。従業員にとっては喜ばしい反面、この改正に“怯える”中小企業オーナーも少なくありません。なにも対策しない場合、売上は変わらなくても「赤字」に転落したり、最悪の場合「倒産」に追い込まれたりする危険性があるからです。改正のポイントと対策について、事例を交えてみていきましょう。税理士・公認会計士で税理士法人グランサーズ共同代表の黒瀧泰介氏が解説します。

2026年「労働基準法の大改正」で人件費が爆増?

2026年に検討されている労働基準法の大改正は、中小企業に深刻な影響をおよぼす可能性が高いです。特に、飲食店などの小規模事業者では人件費が急増し、利益が一気に削られるケースが出てくるでしょう。

しかし、安易に「全員を解雇して業務委託に切り替える」対策を取ると、逆に税務署の調査で会社が吹き飛ぶリスクがあります。

改正の主なポイントと中小企業への影響

改正の議論で特に注目されているのは、以下の3点です。

1.週44時間特例の廃止

これまで小規模飲食店などで認められていた「週44時間まで残業扱いなし」の特例が廃止される方向です。廃止されると、今までと同じ労働時間でも毎週4時間分が自動的に残業扱いになります。

例:時給1,500円の従業員の場合、月約17時間分の残業代が発生し、1人あたり月3万円以上、10人いれば年間300万円以上のコスト増です。これだけで赤字転落する企業もでてくるでしょう。

2.“名ばかり管理職”の残業代請求リスク

管理職も含めた全従業員の労働時間を客観的に記録する義務化が進んでいます。

記録が残ると、法律上の管理監督者要件を満たさない“名ばかり管理職”が判明した場合、過去に遡って未払い残業代を請求される恐れがあるため注意が必要です(時効3年)。

例:年収600万円の店長が月80時間残業していた場合、複数人で数百万円〜1,000万円規模の支払いになるケースも考えられます。これまで曖昧にできていた「隠れ残業代」が表面化します。

3.勤務間インターバル義務化の強化

これまでは努力義務だった「勤務終了から翌日出勤まで11時間(または9時間)空ける」ルールが、より強制力のある形になる可能性が高いです。

例:飲食店で深夜2時まで残業した場合、翌朝11時まで出勤できません。ランチ仕込みができないため、シフトを組み直すか人員を増やすしかなく、残業代を払いつつ労働時間を強制的に削られる「地獄の三重苦」状態になります。

コスト増対策としての「安易な外注化」は危険!

こうした変化に対応するため、たとえば「社員を全員クビにして、同じ人に業務委託で働いてもらおう」と考えたとします。

倫理的な問題を抜きにして考えると、上記の対策は一見合理的に感じるかもしれません。しかし、本改正によって労働者性の定義が拡大される方向のため危険です。

税務調査では、事業の実態に基づいて判断されます。毎日会社に来て社長の指示を受け、会社の道具(パソコンなど)を使って仕事をしている場合、税務調査官から「それ、違法です」と、偽装請負に認定されるリスクが高まるのです。

なお、税務調査で「偽装請負」と認定されると下記の“トリプルパンチ”が待っています。

■残業代:過去数年分の未払い分を請求

■社会保険料:過去2〜5年分の遡及加入・追納

■消費税:外注費として計上していた消費税が否認され、追徴

例:年間外注費5,000万円の場合、消費税500万円が否認され、5年分で2,500万円。さらに延滞税・重加算税が加わり、3,500〜4,000万円規模の追徴になる可能性もあります。目先の残業代節約が、会社を倒産に追い込む結果になりかねません。

フリーランス保護法(2024年11月施行)も施行されており、外注化への取り締まりは国を挙げて強化されています。

改正後も“生き残る”ための正攻法

逃げ道を塞がれる以上、根本対策が必要です。ポイントは「人件費を減らす」ではなく「人件費を国に負担してもらう」仕組みを活用することでしょう。

1.機械・システム投資で人手不足を解消

・働き方改革推進支援助成金(業務間インターバル導入コース)……インターバル対応のための業務効率化機械(自動発注機、POSレジなど)を導入すると、費用の最大720万円まで補助されます。規制が義務化される前に活用するのが得策でしょう。

・中小企業経営強化税制……対象設備を導入すれば即時償却(初年度全額経費化)か税額控除(購入額の10%または7%)を選択可能。初年度に大きな節税効果が得られます。

2.賃上げを国に負担してもらう

賃上げ促進税制をフル活用します。給与を前年比で引き上げると、上げた分の最大45%を法人税から直接控除できます(通常30%程度、教育訓練費増やクルー認定などで45%までアップ)。

例:全社員で1,000万円賃上げした場合、最大450万円の法人税削減。実質的に人件費の半分近くを国が負担してくれます。赤字でも繰越可能(5年間)なので、赤字黒字問わず有効です。

労働基準法改正は避けられない流れです。安易な外注化やごまかしは命取りになります。

今のうちに機械化投資や賃上げ促進税制を活用し、国のお金で人件費負担を軽減する準備を進めておきましょう。

黒瀧 泰介
税理士法人グランサーズ共同代表/公認会計士・税理士