「当代随一の嫌われ芸人」クロちゃんの素顔 暴走を続ける生き様から目が離せないのはなぜか

芸人として勢いに乗っているクロちゃん
10月2日、テレビ朝日でクロちゃん(安田大サーカス)とナダル(コロコロチキチキペッパーズ)がレギュラーを務める新番組「クロナダル」(月曜午前2時13分)が始まった。「当代随一の嫌われ芸人」と言われる2人がタッグを組み、さまざまな企画に挑んでいる。
【写真を見る】クロちゃん「被害者意識強い人は…」SNSで突然のマジメ発言も話題 普段はウインク写真が定番
この番組が始まったことにも象徴されているように、クロちゃんが芸人として勢いに乗っている。彼がここまで注目されるきっかけになったのはTBSの「水曜日のダウンタウン」(水曜午後10時)である。
この番組では、クロちゃんに対するドッキリ企画がたびたび行われている。毎回、彼は視聴者の予想をはるかに上回るリアクションを示して爆笑をさらってきた。そのため、クロちゃんに対するドッキリ企画はどんどん大がかりになっていった。

そして、クロちゃんブームの決定打になったのが、2018年にこの番組で行われた「MONSTER HOUSE(モンスターハウス)」という企画だった。これはフジテレビ(後にNetflix)の恋愛バラエティ「テラスハウス」のパロディ企画だ。本家と同様に、男女数人がひとつ屋根の下で共同生活を送り、恋愛模様を繰り広げる。
ここでクロちゃんは2人の女性にターゲットを絞り、二股をかけようとしていたのだが、その試みが発覚して最後には振られてしまうという結果になった。
「小中学生がそのまま大人になったような人」
この企画の中で、クロちゃんは次々に問題行動を連発。自撮りのふりをして女性を盗撮したり、女性が座っていたクッションに顔をうずめたり、2人同時に口説こうとしたり、予想外の気持ち悪い言動の数々で視聴者を凍りつかせた。この企画でクロちゃんの「キモいけど目が離せない」というキャラクターが確立した。続編の「MONSTER IDOL(モンスターアイドル)」も大きな注目を集めた。
テレビの中では好き勝手に行動しているだけのように見えるクロちゃんだが、そんな彼が何かにつけて話題になり、面白がられているのは事実だ。人々は彼のどういうところに惹きつけられているのだろうか。
クロちゃんと付き合いの深い後輩芸人である菊地優志(ワンワンニャンニャン)は、彼について「小中学生がそのまま大人になったような人」と語ったことがある。確かに、自分の欲望に忠実で、他人からどう見られるのかを全く気にしないその生き様は、大人としては異常に見えるが、子供として考えるとそれほど不思議ではない。
クロちゃんは、テレビの中ではわざと悪役を演じているだけで、プライベートではそれほどゲスい行動はしていないのだろう、と思っている人もいるかもしれない。
だが、彼の素顔を知る人に言わせると、クロちゃんは普段からあのまんまで、全く裏表のない人間なのだという。「水曜日のダウンタウン」のドッキリ企画も、基本的にカメラが回っていると本人は知らずに行動したことをそのまま映しているのだから、あれが本来の姿だというわけだ。
クロちゃんには「ストッパー」がない
クロちゃんのすごいところは「自分が他人にどう見られるか」という回路を完全に遮断して生きていることだ。まともな社会人ならば、多かれ少なかれ他人の目を意識して行動してしまう。極端に自分の評判を下げたり、恥をかいたりするようなリスクがあることにはなかなか踏み切れない。
でも、クロちゃんにはそのストッパーがない。だから、女性に対しても日常的にセクハラまがいの行動を取ったり、テレビの企画でも本気で彼女を探そうとしたりする。
表面的に見れば、そんなクロちゃんの言動は気持ちが悪い。だが、ずっと見ていると、実はクロちゃんこそが本当の意味で自分らしく自由に生きている人間ではないか、という気がしてくる。根底にその感覚があるから、私たちはクロちゃんから目が離せないのだ。
欲望をむき出しにして暴走を続けるクロちゃんの力強い生き様は、SNS社会で他人からの目線ばかりを気にしている私たちに勇気を与えてくれる。クロちゃんが人として正しいかどうかはともかく、芸人として魅力があるのは間違いない。快進撃はまだまだ続きそうだ。
ラリー遠田
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)など著書多数。
デイリー新潮編集部