審判がサッカー観戦で抱いた悲哀 観客の罵詈雑言に「自分も言われているのか…」
2月24日、都内でメディアを集めた「2016 Jリーグスタンダード」という講習会が開催された。これはJリーグのシーズン前に、レフェリーがどういう基準で笛を吹いているか説明するもので、同じ説明会は各クラブに対しても開催されている。
今年の内容は「コンタクトプレーの見極め、デュエルを高める」「試合のクオリティを上げる」「リスペクト」だった。具体的には、去年の試合のビデオを使い、クイズ形式でメディアに判定させる。
全問正解したのは解説者の平野孝氏ただ一人。他のメディアは最高でも13問正解で、解説されて納得という場面が続く。
約2時間の説明が終わった後、お茶を飲みながら審判員から直接話を聞く機会が設けられた。そこでは様々な疑問、問題提起などがなされ、意見交換の貴重な場となった。
その中でも話題となったのは、この日の朝リリースされた追加審判が導入されるという話題。これはヤマザキナビスコカップ準々決勝以降と、チャンピオンシップの試合に限ってゴール右横のラインを走る追加審判2名を入れるというものだ。
UEFAチャンピオンズリーグやイタリア・セリエAなどではお馴染みとなっているこの審判6人制が、日本でも実験的に導入されることになった。この6人制を支えるのは、審判同士が無線で会話できるコミュニケーションシステムで、2014年夏から使用されている。
では、このコミュニケーション・システムに問題はなかったか。
「いろいろありましたよ」とプロフェッショナルレフェリーの扇谷健司主審は明かす。
「雨で濡れて通話できないときがありました。しかも聞こえているのに、僕が話していることだけがみんなに伝わらない」ので、思わず「悔しい」と思ったと言う。
試験運用していたころは、その場で会話できることを忘れ、副審と10メートルほどまで近寄ったところでやっと2人も気づき、苦笑いしたそうだ。
タッチラインを割った際、ユニフォームの色をマイクに話すことででどちらのボールなのか伝えなければいけないのに、その一言が出ず、「あ、あ……こっち!」と手で合図する場面も続出したとか。
マイクを付けている耳の近くの選手から何か言われたが聞こえず、選手が「無視された」と怒ったこともあったらしい。
微妙な得点場面で副審からの情報を聞きたいのに、第4の審判がいきり立つ失点側のベンチをなだめる声ばかりが聞こえて、情報を得るまでに時間がかかったこともあったそうだ。
また、新しいマシンの調子が悪くて充電できず使用できないときもあったとか。そのときは仕方がないので「エア・コミュニケーションシステム」として形だけ装着し、システムがなかったころの要領で裁いたという。おもしろいことに、その試合のレフェリングは高く評価されたそうだ。
レフェリーはそんな苦労を重ねながら「正しく判定しようとしている」と扇谷主審は明るく話をしていた。
もっとも、この話をしながら扇谷主審の表情が一度だけ曇った。
あるとき、扇谷主審がプライベートでサッカーを観戦に行き、観客がレフェリーに罵詈雑言を浴びせるのを聞いて、「自分もいつもこんなに言われているのか……」と悲しくなったという。
ついレフェリーは完ぺきなマシンでいてほしいという理想を押しつけがちだが、実際は毎試合苦労しながら笛を吹き続けている人間だ。
講習会ではゼロックススーパーカップの丹羽大輝のハンドとしてPKを与えたシーンも繰り返し流され、どうすればこの誤った判定を防げるかという議論になった。
そして、たとえ審判が6人になってもあの角度は見えにくく、誤審が起きても仕方がなかった場面だというのも明らかになった。
今年もきっと誤審は起きるだろう。だがどんなやり方をしてもミスやエラーは起きるもの。「このレフェリーが間違えるのなら仕方がない」と思えるような、審判と観客のコミュニケーションがあれば事態はもっと改善されるかもしれない。
この日の会に参加したプロフェッショナルレフェリーのように、今後多くの会話が審判と選手、メディア、観客とで生まれることを期待したい。
【日本蹴球合同会社/森雅史】
今年の内容は「コンタクトプレーの見極め、デュエルを高める」「試合のクオリティを上げる」「リスペクト」だった。具体的には、去年の試合のビデオを使い、クイズ形式でメディアに判定させる。
約2時間の説明が終わった後、お茶を飲みながら審判員から直接話を聞く機会が設けられた。そこでは様々な疑問、問題提起などがなされ、意見交換の貴重な場となった。
その中でも話題となったのは、この日の朝リリースされた追加審判が導入されるという話題。これはヤマザキナビスコカップ準々決勝以降と、チャンピオンシップの試合に限ってゴール右横のラインを走る追加審判2名を入れるというものだ。
UEFAチャンピオンズリーグやイタリア・セリエAなどではお馴染みとなっているこの審判6人制が、日本でも実験的に導入されることになった。この6人制を支えるのは、審判同士が無線で会話できるコミュニケーションシステムで、2014年夏から使用されている。
では、このコミュニケーション・システムに問題はなかったか。
「いろいろありましたよ」とプロフェッショナルレフェリーの扇谷健司主審は明かす。
「雨で濡れて通話できないときがありました。しかも聞こえているのに、僕が話していることだけがみんなに伝わらない」ので、思わず「悔しい」と思ったと言う。
試験運用していたころは、その場で会話できることを忘れ、副審と10メートルほどまで近寄ったところでやっと2人も気づき、苦笑いしたそうだ。
タッチラインを割った際、ユニフォームの色をマイクに話すことででどちらのボールなのか伝えなければいけないのに、その一言が出ず、「あ、あ……こっち!」と手で合図する場面も続出したとか。
マイクを付けている耳の近くの選手から何か言われたが聞こえず、選手が「無視された」と怒ったこともあったらしい。
微妙な得点場面で副審からの情報を聞きたいのに、第4の審判がいきり立つ失点側のベンチをなだめる声ばかりが聞こえて、情報を得るまでに時間がかかったこともあったそうだ。
また、新しいマシンの調子が悪くて充電できず使用できないときもあったとか。そのときは仕方がないので「エア・コミュニケーションシステム」として形だけ装着し、システムがなかったころの要領で裁いたという。おもしろいことに、その試合のレフェリングは高く評価されたそうだ。
レフェリーはそんな苦労を重ねながら「正しく判定しようとしている」と扇谷主審は明るく話をしていた。
もっとも、この話をしながら扇谷主審の表情が一度だけ曇った。
あるとき、扇谷主審がプライベートでサッカーを観戦に行き、観客がレフェリーに罵詈雑言を浴びせるのを聞いて、「自分もいつもこんなに言われているのか……」と悲しくなったという。
ついレフェリーは完ぺきなマシンでいてほしいという理想を押しつけがちだが、実際は毎試合苦労しながら笛を吹き続けている人間だ。
講習会ではゼロックススーパーカップの丹羽大輝のハンドとしてPKを与えたシーンも繰り返し流され、どうすればこの誤った判定を防げるかという議論になった。
そして、たとえ審判が6人になってもあの角度は見えにくく、誤審が起きても仕方がなかった場面だというのも明らかになった。
今年もきっと誤審は起きるだろう。だがどんなやり方をしてもミスやエラーは起きるもの。「このレフェリーが間違えるのなら仕方がない」と思えるような、審判と観客のコミュニケーションがあれば事態はもっと改善されるかもしれない。
この日の会に参加したプロフェッショナルレフェリーのように、今後多くの会話が審判と選手、メディア、観客とで生まれることを期待したい。
【日本蹴球合同会社/森雅史】